時間旅行、したようで

朝起きたら、見知らぬ場所にいた。

こんな経験、滅多に出来ることじゃないだろう。だから、すごいと喜ぶべきなのか、ふざけるなと怒るべきなのか私にはさっぱり分からない。

夢遊病か、などと信じたくない結論にたどり着きそうになったが、それじゃあ今見えてる、"まったく知らない"景色の説明がつかない。それに、夢遊病とかだったら今頃あのドがつくほどの田舎で生きてるわけないです。

「て、そんなことどうでもいいって」

自分の脳内にツッコミを入れてから、私はへたりこんだままだったことを思い出しようやく立ち上がる。夢だったら早いこと覚めてくれればいいのに、と思ったが先ほど頬を叩いても痛みしかこなかったことを思い出して苦い顔になる。これが夢じゃないことはすでにわかっていた。

私がとてつもなく鈍くて、この程度の痛みじゃ目覚めないのか、という考えも浮かんだが、それはあまりにも悲しすぎるので個人的に排除したいものだった。

と、いうか。私は朝一度目を覚ましている。それがここ、夢の中だ…などではなく、正真正銘、自分の部屋で朝を迎えていた。いつもどおりならば、私はそのあとベッドをおり布団を整えてから顔を洗いに水場へ行く。

そのはずだったのに。

床へ両足を下ろしたその瞬間、エレベーターに乗ったときのような浮遊感を感じたかと思うと、この場所にいた。あまりにも突然で、馬鹿らしくて今でもこれは夢だろと鼻で笑いたくなるレベル。

しかし、ここで突っ伏していても何も変わりやしない。ならばとりあえず行動を起こしてみようと思った。ざっと辺りを見回して、とりあえず建物を見つけたのでそちら側へ歩いていく。

足元は芝生だが、素足の私にはそれなりに痛いわけで。それでも我慢して歩いていると、突然後ろから爆発音のようなものが聞こえた。と、同時に男の声が耳元で響く。

「ムムっ、ミーの知らない人間がいマース!」

「うっぎゃああああああ!!!」

あまりにも大きすぎるその声に、私は逃れようと前に倒れ込んだ。持ち前の反射神経でどうにか転ばずに数歩先へ進めた。頭がくらくらする。

「オーウ、大丈夫ですカ?」

「そんなわけ……ああっ!!」

文句の一つでも言ってやろうと勢いよく振り返れば、目に飛び込んできた一人の男の姿。私はそれを見てしばし硬直した。一瞬、自分の目を疑ってしまった。

さ、さ、さ、と口が意味もなく言葉を紡ぐ。

「んー?」

「早乙女!!うそ、なんでシャイニーが私の世界にいるの!?」

言ってから、自分にしては珍しい失敗をしたと思った。まさか、自分の思ったことがそのまま口から飛び出すとは。しかし、それほどまでに驚いていた。

そこにいたのは、とあるゲーム……名前をあげるとうたプリと呼ばれるそれに出てくる学園長、シャイニング早乙女という男だったのだ。おかしい、ここは三次元だというのに。

(いくら超人で人間離れしてて殺しても死なないからって異世界にまで出てこなくても…)

心で呟いていると、早乙女は眉をひそめながらこちらをジロジロ観察してくる。不躾な視線に少しだけムッとしたけれど、起こってはダメだと心を落ち着かせた。

「すみません、私は速水真白と申すものです。あの、ここはどこでしょうか…?」

「ここは早乙女学園だ。間違っても部外者が入ってこれるような場所ではないデース」

「早乙女学園…………まさ、か」

私の考えの中で、おそらく最悪とも思われる選択肢。考えすらしなかったそれが、なんとピタリと当てはまってしまったようです。

「トリップ、だとぉおおおおおおおお!?」

二度目の失態、でもその時の私は、そうやって叫ぶ意外出来ることはありませんでした!


「……何か理由があるようですネ。but不審者を学園内に入れるわけにはいけませーん。とりあえず、ミーの部屋へ強制拉致なのですっ!」

私が何か言うより早く、早乙女は私を荷物のように担ぎ上げると空を飛んだ。比喩などではなく、本当にその言葉の通りの意味で…………。

夢なら覚めて。

声にならない悲鳴が響き渡った。




「で。youはどこの誰か、ちゃんといいなさーい」

硝子を割って部屋に入ると開口一番そのセリフ。ポカンとする私。

ポカンとする原因はシャイニーの言葉ではなく、いやそれもあるのだが、まず一番にその部屋の様子であった。とてつもなく禍々しい何かがある。まるで、何かを召喚していたときのような。

「ん?」

そのワンフレーズに奇妙な引っ掛かりを覚え、私は滅多に使うことのない脳みそをフル回転させる。しかし残念ながら私の乏しい頭では、とあること以外考えること以外できなかった。

召喚していたときのような。

召、喚

しょ、う、か、ん、

「………はぁ」

頭痛がした。表情がコロコロ変わるのは仕方がない。私は今、それほどの驚きとかそんなもんを抱いているのだ。もしかして。もしかしなくても、もしかして。

私は、シャイニング早乙女のミスでこの世界に強制的に引っ張り込まれてしまったのではないか。

違っていて欲しい、なんていう切なる願いは絶対打ち砕かれるだろう。このまま普通に帰れるはずがない。帰れたらそれが一番なのだが、シャイニーの場合、それが一番ありえないことだと思った。

「その前に、ここで何をしてたか聞かせていただけませんか」

「何故ですかー?」

「嫌な予感がしてやまないのです」

「………。音楽の神、ミューズを召喚しようとしたのだが、どこかで呪文を間違えたのだろうか………。何も起きなかった」

「……」

敢えて、その理由は聞かなかった。聞かなかった私、えらい。それにしてもとんでもないことが確定してしまった。真面目な口調のシャイニーを見て頭を抱えたくなる。こういうとき、どんな顔すればいいかわからないわ。

笑えば、いいと思うよ。

「もう一度言いますが…速水…、真白と申します。おそらく、その間違えた呪文により異世界より召喚されてしまったようです」

目を丸くした学園長は、それはそれは見ものでした。


――――――――――――
トリップもの、始めました。
いや、なんかトリップが最近ハマりでして…自分でも書いてみたいなと思ったのですよ。ハートの国のアリス見てたら書きたくなった(´・ω・`)なんで。
衝動のままに書いているので誤字脱字見つけましたらこっそりと教えてくだされば…。ええ、はい。
ま、お付き合いくださいませ!
12.10.28






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