周知の事実 「真白ーっ!とっ、トキヤが狂ってる!」 「どどどどうしよう!俺が昨日夜中まで話につきあわせたせい!?」 「レディ?ちょっといいかな…」 「一ノ瀬は…おそらく疲れているのだな。疲れているときは確か…」 「わーい、トキヤくんもメルヘンですー」 「ちょっとあいつどうしたっていうの!?何かいつもじゃ言わないようなことを…」 ある日登校すると、みんなが詰め寄ってきた。神宮寺が女連れじゃないことに驚いたが、今はそれを見ている場合じゃない。なんなんだ、みんなして、一部クラスを超えてまで私に詰め寄ってきて。 あっけにとられていると、七海が困ったように笑っていた。隣には、額に指を当てる一ノ瀬。二人が一瞬だけ窓の方に見える。それだけで事態を把握した私はすごいと思う。ようするに、一ノ瀬がみんなに話したのだろう。 「落ち着け、落ち着いてってば。……あーその、……みんなが一ノ瀬さんから聞いた話は、全部本当のことだから」 『!?』 那月をのぞき、全員が驚愕の表情を浮かべる。私が簡単に説明を添えると、たしかに…。と納得したように頷いていた。 「軽蔑するならすればいい。…別世界からきた人間なんて気持ちの悪いだけだろう。覚悟はできてるよ」 静かに目を閉じてみんなの言葉を待った。しばらくして、沈黙が破られる。 「……いいや、俺は別にそうは思わないよ。ただの愛らしいレディじゃないか」 神宮寺が真っ先に否定し、ウインクをした。続けて翔ちゃんやらその他みんながフォローにかかってくる。 「あんた……。だからあの時」 「うん。本当にごめん、友千香。……私も本当はばらしたくなかったんだけどね。一ノ瀬さんに事情を聞かねば……ちょいと失礼」 渋谷の追求が未だに怖くてさっさと逃げ出す。そのまま教室を出て、遠巻きに見ていた七海と一ノ瀬に詰め寄る。 「私が話しました。…私も秘密をバラしたんです、お互い様でしょう?」 「私はみんなには話していなーい!!……はぁ、済んだことだし、いいや。ある意味二人に感謝かな。………ちょっと怖かったから」 俯いてそう言うと、七海が私の手を包んだ。大丈夫です!と声が聞こえる。 「みなさん、優しいですから。驚きこそすれ、あんなに仲良かった友達から離れようとする人なんて、いませんよ」 「春歌……」 「こんなに愉快な存在、滅多に居ませんからね。レアケースです」 「愉快!?一ノ瀬さん、最近私に遠慮ないですよね?ひどくないですか、ぼっちって呼びますよぼちのせさんって」 「んなっ!?わ、私は別にひとりなどでは……」 くす、とこの会話で七海が笑う。 「これで、真白ちゃんが苦しい思いをしなくて済みますね。困ったことがあれば相談してください。みんな、味方ですから」 「そうですよ。一人で抱え込まないでください。……私が言えた立場ではないですが」 「テレビ見たときは驚きました……。やっぱり一ノ瀬さんがHAYATO様…」 「はぁー…ばらされたもんはしょうがないし、そうね、一人では抱え込まないようにする」 にかっ、と笑みを見せると七海、一ノ瀬の手を掴み教室に叩き込んだ。教室にいた数人の生徒がビビりつつこちらをみる。彼らに、ごめんね、と口パクで謝ると私の机に群がるやつらのもとへ向かった。 「…怖くなったら、いつでも離れていいから」 「速水君?」 「ひいっ!すみません!そんなこと言わないから!……あーその…またよろしく」 「いよーし!それじゃあ今日は放課後、みんなで出かけようよっ。いっぱい話しよう!」 音也の提案に、いいねとの声が飛び交う。事情を知らないクラスメートはポカンとしているが、気にしてる余裕はない。 「その話はまたあとで!HR始まるから、いい加減三人は教室戻れ!」 「それじゃあねレディ」 「まったなー」 「くれぐれも、自暴自棄にならないように」 「ならねーよ馬鹿」 けっ、と親指を下に向ける。冗談だってわかってるから一ノ瀬は不敵に笑うだけで教室に戻っていった。み、みんなに話すとは…本当、何考えてんだあいつ。 「…あの、真白ちゃん」 みんながバラバラに散ったあと、那月が近寄って来た。なに、と返事すると小さな声で不安そうに、 「僕の過去も……知ってるんですよね」 といった。 「…貴方は、知ってる私でもいいかと言いました。逆に聞きますが………こんな僕でもいいんですか?僕だけじゃない、きっとみんな、密かにそう思ってます。話してくれて嬉しかった。それが真白ちゃんの口からじゃなくても、聞けて嬉しかったんです。いい、ですか。友達で」 その言葉に、私は小さく唇を緩める。 「なんだ、そんなこと!すでに私はハッピーエンドを知ってる。……君にもきっと、いいことあるよ。私はみんなの過去含め、みんな大好きだから気にすんな!」 うんと背伸びして那月の頭を撫でると、抱きしめられた。 「もう、真白ちゃん大好き!大好き大好き!」 「ぐ、くるし……」 「はーい、ほーむるー…なっちゃん!?と、真白ちゃん!?何してるのっ!?」 「ぐはっ……」 そのあとはこってりと怒られ尽くしましたとさ。……なぜ私がこんな目に。 ―――――――――――― ちょっと明るい感じになってきた。 13.04.30 ← |