チョイス

「んー、このドレスって着なきゃだめ?」

「もちろん!えへへ〜、似合ってますよー真白ちゃん」

目の前の男、那月はニコニコ笑いながら次のドレスを引っ張り出してきた。ちなみに、今着ているやつは真っ赤で胸元が結構開いたドレス。全力で却下をすると、似合う似合う言いながらもどうにか別のドレスにしてくれた。

「じゃあ、これは?」

「……着てみる」

ドレスなんて着れないから、そういう経験のある渋谷に手伝ってもらいつつ、服を着替えた。

「おおっ、いい感じじゃないー?」

「そうかな。じゃあこれにする」

試着室を出て那月に見せる。どう?と聞けばお決まり通り似合うと言ってくれた。あの笑顔、プライスレス。

「すごく、すっごく可愛いです!」

「はいはい、君の可愛いを間に受けるわけないだろ」 

薄水色のドレスで、露出は少なめ。袖がびろーんと広がるようになっていて、お姫様の着るようなドレスだなぁ。と想像力の乏しい頭でそう思った。

「でも、いいんですかぁ?それ、二着目ですよぉ〜。もっとしっかり決めたほうが…」

「いい、いい。だって面倒だもん。ドレスって女の憧れでもあるけど、こんなに面倒なら憧れすらも消えていくよ。それにこれ、綺麗な色だしこれがいい」

くるくると回りながら言うと、那月は引っ張り出したドレスとこちらを見比べて、頬を膨らませながらも納得はしてくれた。奥の箱に見える何十着というドレスを試着する苦痛は、いやだ。

「へー、あたしは二時間近くかかったのに」

「ここはひとりひとりの生徒に時間かけすぎだろ!!怖いわ!えーと…那月、さんきゅ」

結構的確なアドバイスと彼のセンスには助かった。ドレス選びになぜ那月が参加してるのか、を聞かれると説明が面倒なんで、想像にまかせます。

「ふふっ、じゃあ次はハルちゃんですね〜」

「おー。うんと可愛くしてやれ。友千香もいってら〜」

「真白、あんたは?」

「ごめん、曲作り。着替えてくるよ」

脱ぐくらいならひとりでできる。試着室でもぞもぞと怪しい動きをしながら、どうにかこうにかドレスを脱ぐ。なんで、こんなに面倒なものを着たがるんだろう。理解できない。こんな体験一度で十分だ。それに私は着物派です。

「ふー…はい、ドレス。たたみ方わかんないよ!」

「ぶっ、だからって丸めないでよ!もー……あたしがやっとくよ、かしてっ!」

「ぱす!頼んだよー」

「渋谷さーん、いきましょー?」

「おーけー那月!」

くしゃくしゃのドレスを小脇に抱えると、じゃね!と片手を上げて走っていった。なんと格好いいのだろうか…!あのドレスさえなければ素敵なのに。

ぽつん、とひとりになった私は荷物を抱えて部屋を出た。今日は休日なので校舎内に人はほとんどいない。いるとすればレコーディングルームに用のある生徒くらいだろうか。今日は部屋で作業をしたい気分なので、ルームには寄らず校舎を出る。

「んー…。そろそろ卒業制作完成させないと」

まだ終わってないのか、というツッコミは受け付けない。せめて十二月中に終わらせればいいかな、という考えだ。とにかく、一刻も早くメロディを一ノ瀬に渡したいところだなぁ。

計画としては、十二月中にメロディは確定、一月に入るまでに歌詞を書いてもらって、その間に伴奏をあれこれイジって、完成させる。荒削りの伴奏はあるから、それをどうこうすればいいやー。

切ない系のメロディのバラード曲にした。理由は、中の人のバラード曲に惚れたからです動機が不純ですみません。

ようし、きっと今頃やつはHAYATOとして番組出演に忙しいだろうから、その間にぐんと成長したいい曲を作ってやろうではないか!……ほとんど完成してますけれどねー。あはは。

「ただいまっ、よーし……ふっふっふ、見てろよ一ノ瀬。今度こそお前からおっけーをむしり取ってやる!!」



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すでに五回ほどリテイクくらってる夢主ちゃん。
頑張れ、先は長いぞ!時期的には十一月後半で。
13.04.11






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テーマ「人外ファンタジー」
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