セシルが。

「にゃーん」

「うおっ、セシル」

課題も終わったし、予習はする気ないし、でもすることないし。と、ベッドで寝転がってた私は、突然現れた森に生息する黒猫セシルに驚いて起き上がった。窓も扉も開いてないし、どこから来たコイツ。

「にゃん」

「…可愛いから、許す」

抱き上げてベッドから降りると、ソファーに飛び乗った。ぐりぐりと頭をなでてやると、幸せそうにのどを鳴らす。ゴロゴロいう姿を見てると、本当にセシルは猫になってしまったのではないかと心配になります。

満足するまでセシルをこねくりまわした私は、ようやくセシルを解放した。ぐったりとしたセシルは、私のひざの上で復活すると、そばで行儀よくちょこんと座る。にぼしを要求してると見た。

「ちょっと待っててね、煮干とってくるよ」

「にゃー」

「じゃじゃん、パック買いしちゃったぜ。ほらどうぞ」

「うにゃ!」

ぱくっ、と煮干に食いついてほおばるセシルに、調子乗って二個三個放り投げていく。セシルが可愛すぎるのがいけないんだと思います。尻尾を揺らして煮干をほおばるセシルを人型で想像すると見るに耐えないブツになりますが、猫だとかわゆすぎて発狂しそうだ。

「ねね、セシル」

「にゃ?」

「仲直り、できたっぽい。難しいね、本当のこと隠さなきゃいけないって。あーあ、どうせならこっちの世界に生まれてきたかったな。こんな風に、トリップってことで苦しまなくていいから」

「にゃ…」

「君がそんなにうなだれる必要はないよ、セシル。…君は浮世離れしてる猫に見える。人の言葉がわかるようだね」

人間だもの。

「にゃ!?」

ひょいとすくいあげ、セシルを抱きしめる。セシルは人でも猫でも浮世離れしてて、なんでも秘密を話せるような、そんなやつに思えてしょうがないのだ。

「……なぁセシル。私は本当に帰りたいのだろうか。いや、帰りたいに決まってる。こっちは私の世界じゃない。ここまで私の秘密を話したのだから、たまには君の秘密も教えて欲しいな」

たとえば、本当は猫じゃないということ、とか。ぼそりと呟くと、セシルは全身を振るわせた。毛が逆立って威嚇をしてくる。

「そんな怒るなよ。君が人間って知ってるから、こんな話したんだよ?」

「…にゃ」

「今はそれでいい。ただ、…私から離れないでくれ。君を都合よく利用してしまっているのは謝る。秘密を話すことによって心を軽くしようとしてるからね。ところでセシル。もうすぐクリスマスパーティがあるのだが、是非春歌あたりを誘ってみないかね。あ、不審者扱いされるか。せっかくミューズなのにね誘っちゃえYO!」

「にゃー!にゃっ、にゃっ!」

「照れてるのか猫のくせにー。…ほら、煮干やるからあとは好きなようにしとけ。私は寝る」

セシルを放置してベッドにもぐりこむと目を閉じた。疲れがたまっていたのだろうか、それとも張り詰めていた緊張がどこかに吹っ飛んでいったのか。すぐにぐっすりと眠り込んでしまった。




「真白…アナタという人は。いっそのこと、すでに知ってる正体をばらしてしまおうか。もうすぐ帰れるということと一緒に」






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