休憩大事 「やぁ、私ですよー」 「…何しに来たんですか」 昼休み、Sクラスへ出向くと窓際の一ノ瀬は冷たい目を向けてきた。あは、と上げた手を下げきれずに、どうしようかとしていると助け舟、翔ちゃんがやってくる。そこでようやく、今日ここに来た意味を思い出した。 「よぉ、真白、どうしたんだ?」 「あ、ああ翔ちゃんやっほー。那月がクッキー作ってきたんだけど、食う?」 「食わねぇよ!」 「チッ、どうしよう、誰かに食わせねぇと那月が悲しむんだよクソ」 「言葉遣い、」 「だから食え黙って食えいいから食え」 「人権!!!」 翔ちゃんの鋭いツッコミに気をよくした私は、テンション高く会話を繋いでみたが…そんなことをしているだけでは、この、袋越しでもわかるどす黒い雰囲気のブツは消えやしない。というか、時間が経つにつれて禍々しさが増してるきがする。 とりあえず、誰かに押し付けるのが手っ取り早いのだが…と、目の前の哀れな翔ちゃんに目を向けた時……。 女子の、黄色い歓声が聞こえた。 ハッとして廊下に視線を移すと、女子の塊がこちらに向かって歩いてきた。翔ちゃんが瞬時に嫌そうな顔に切り替わる。 「ねぇ、翔ちゃん、あれは何」 「っ〜〜、こっち来い真白!」 「えー?なになにー」 突然手をとってきた翔ちゃんに、かなりキュンキュンしながら尋ねる。翔ちゃんは焦りながら、とにかくその場を離れたがっていた。 ははぁん、レンですか。と納得する。歩く18禁に会わせたくないって思ってくれるほど私のことが好きなんだね、嬉しいよ翔ちゃん。 「……今邪悪なことを考えなかったか?」 「ナンノコトカナ。あ、それよりどうして逃げ、」 「やぁ、おチビちゃん。それと…初めまして、可愛らしいレディ」 ぞろぞろと女性陣を引き連れてやってきたハズの彼は、いつの間にか一人になっていて翔ちゃんに笑いかけ片手を上げる。こちらにウインクを飛ばすことも忘れずに。ああ、流石レンさんかっけぇ。 「おチビちゃんもすみにおけないね。レディの手を握って走り出すなんて」 「あははー、しっかり見られてたね翔ちゃん」 「お前は黙ってろー!」 「なんでー?」 「あーもうっ。真白、こいつは神宮寺レン。寄ると孕むから気をつけろ」 すごい言われよう。でもなんだかんだで信頼してるんでしょ知ってる。 …とは言わずに、首をかしげた。一応、こっちは画面越しに知ってても実際は初対面だからね。 「はじめましてー。速水真白です。翔ちゃんは私の嫁です」 「こら、黙ってろ」 「嫁、かい?」 「聞くなよ!忘れろ!そして違うかんな!」 かっかと怒り出す翔ちゃんをずっと見ていたい気もしたけど、ジリジリ早く!と主張をしてきた手の上のクッキー。なんだか思い出すと急に手汗が。手がじっとりとしてきました。 いっそのこと目の前のフェロ☆メン片割れにクッキー投げつけて帰りたいのだが、そうすれば第一印象最悪になること間違いなし。 しかし彼の味覚はいい線いってるからなぁ…。那月のクッキーを食べて平然としていられるくらい。 「あのー、神宮寺さん?」 「なにかな、レディ」 「……クッキー食べません?手作りなんですけどー」 「ちょっ、真白まさかそれなつ――」 「おや、いいのかい?なんて優しい子なんだ」 「うふふふ。ご武運を。それとそれは私のじゃないんで。代理を頼まれたのですよだから食べてお願い食べて」 今にも逃げ出したい、という表情で一息に言い切るとクッキーを手渡した。そんな私にもレンは優しく接してくれる。優しい子は君の方だよ。 「ん、もしかしてシノミーの手作りかい?」 「よっ、よくお分かりで!」 「ラッピングに見覚えがあってね。なるほど、ありがとうと伝えてくれ」 「…いえ、こちらこそありがとうございます。助かりましたそれでは失礼翔ちゃん行こう」 これ以上は何も言わせまいと、翔ちゃんを引き連れて早々に退却する。ぽつんと残ったレンだが、数分もすればすぐに人だかりができるだろう。 とりあえず首はつながった。と胸をなでおろしながら翔ちゃんと談笑するのだった。 ……昼食は定番の焼きそばパンでした。 「ふっふ〜ん」 下手くそな鼻歌を歌いながら森のベンチに座る。ここに来ればすることは一つ、セシルとの会話だ。召喚道具のにぼしを手に、木漏れ日を浴びながら日向ぼっこ。 「にゃぁ」 すると早速にぼしを嗅ぎつけたのか、セシル登場。早かったご褒美ににぼしをもう一つ追加してベンチにのせた。 「や、セシル。久しぶりだねー」 「にゃー」 「春歌とは仲良くやってくれてるかい。もちろんやってくれてるよな」 「に、にぎゃ」 「そっか。…ありがとね」 よしよし、と喉を撫でてやると嬉しそうにゴロゴロと鳴く。見ててすごく可愛かったので、にぼしをさらに追加。 「セシルぅ。……私はさ、ここでの暮らしに満足してるんだよ?だけど……ね。やっぱり淋しいな」 セシルを抱き上げると、柔らかい横腹に頬を寄せる。ホームシックというか、皆といるときはそうでもないんだけど、ふと一人になると、じいちゃ、ばあちゃはどうしているんだろうと気になる。居なくなって心配してるだろうな。 「ここに本当は私の居場所なんてないのかもしれない。よしよし、まったく、お前だけが私の癒しだよ。いや、春歌と翔ちゃんも癒しだレンマサは私の萌えだ。……君も本当は淋しいのかい?」 ぽつりと問いかけるように呟くと、セシルは少し悩んだあと、小さくにゃあと鳴いた。それが肯定の意味を持つのか、否定の意味を持つのかはわからなかったけれど…異国の王子ってのも大変なんだな、とは思った。 そういや、魔法で猫になった……って言ってたけど、なんでなんだっけ?そこらへんよくわかんないまま来ちゃった。ま、あっちの世界に帰ったら原因究明?とやらをやってみるか。想像の世界で。 「ふふっ、まだ答えを出すときじゃないね。友千香の言ってたラインに私はまだ達してないし。さてセシル、私はもうひと踏ん張りしてくるよ!また煮干持ってくるね」 ぽふぽふ、と手触りのいい毛をそっと叩いてから私は立ち上がった。休憩は終わり、これから一ノ瀬のやつに作る曲を考えなければいけない。定期課題もあるし、やることは山積みだ。 こんなところでのんびりしてる場合じゃないな。というか、春や夏は考え事に向いてない季節だ。精一杯青春を謳歌してやろうではないか。 脇に置いていた鞄を持って歩き出した私はふと、あることを思い出す。 (……バックん中の那月クッキー、どうしよう……) ―――――――――――― 実はもうひとパックくらいあったという。 レン何気初登場でした。レン的に言わせれば、トキヤのパートナーっぽい女の子がいる〜、とは思っていたけど目の前の夢主とは結びついてない感じ。孤高の美人or春歌タイプ的想像。 翔ちゃんにパートナー事情聞いて驚くといいよ! ちなみにフェロ☆メンは中の人ネタ。セシルとレンの人。…懺悔室って曲好き。詳しくはうぃきせんせーへ。 12.12.10 ← |