疑惑、混沌。


暗い病室に、かち、かち、かち。と時計の進む音が聞こえる。ただ、それだけだった。

いつまでも、規則的に義務的にかちかちと音を立てるそれは、時を告げるとても大切なものであるのだが……今の少年、来栖翔にはそれが苛立ちの原因でしかなかった。

「……んで、来ねぇんだよ」

ぼそり、と呟き秒針の音が一瞬それにかき消されるが、またかちかちと音を立てた。チッ、と翔が舌打ちをする。かれこれ彼女を待ち続けて一時間。普通なら今頃の時間は見舞い品から勝手に果物を出して美味しそうに咀嚼してる頃だ。

もう一度時計を仰ぎ見るが、時計は変わらず夜10時をさす。

「あいつの言葉、嘘だったのかよ」

何か理由があるのかもしれない。そんな冷静な心はすでに黒いモヤにかき消されていて、ただ苛立ちがつのるだけ。翔は寝返りをうつと窓を見た。うっすら差し込んでくる月明かりが目に痛い。

でも、この光を嫌いになれない自分がいた。

彼女は自分を太陽みたいといった。眩しい存在だといった。そのとき初めて太陽を好きになれた気がした。でもいつまでたっても来ない彼女に、今までの穏やかな感情ではなく、どす黒い感情しかわいてこない。

そんな自分が嫌だが、押しつぶされた良心はそう簡単に復帰してはくれないようだ。

「だろうな。所詮、死神とかそういうもんなのかな……来いよ、ばか…………」

すでに、暗いという表現では物足りないくらい病んだ目になった少年は、急に身体を折り曲げた。胸を掴み、苦しそうに咳き込んだあと喘ぐ。

苦しいと思う意識の中、ああ、今なら死んでもいいかな。なんて思えた。


「どうして………どうしてっ、どうしてだよっ!!」

緊急用のボタンに手を伸ばした少年は、しかしそれを押すことなく手を下げた。

自分を太陽だとたとえた少女に会えないのなら、残りの日付はいらない。今殺してくれ。

いいか、俺が太陽ならばお前は月だ。

それこそ月なみな表現だが、優しい光で俺に安らぎをくれる。それだけで俺は幸せだったんだ。

まいったな、と俺は呟く。俺はいつの間に……。


アイツを好きになっていたんだろう――――。




霞んでいく意識の中、自覚した思いだけが淡く輝いていた。




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あれ、短い(´・ω・`)
来栖氏が暗いとか信じない。
12.07.28



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