昼間の景色 「やぁ。君の命はあと6日だよ」 「出会い頭にその挨拶は止めてくれ……」 「ごめん、癖なんだ。オマエが嫌ならば私は止めよう」 「すまん」 「とりあえず、おはよう。いや、こんにちは。の時間帯か」 「そうだな」 まぁ、座れよ。と翔に椅子をすすめられ、四季は腰を下ろす。意外と広い病室だと辺りを見回して思った。出会ったときは暗い場所だったので、そう見てはいなかったのだ。四季は見舞い品だろうか、置いてあった蜜柑を遠慮なくつかむと一瞬で皮をむき、自分の口に放り込んだ。 ほれ、とついでとばかりに翔の口にも押し込んでからもう一口食べる。 「死神でも飯は食うのか」 「それ差別っぽい。うーん、そうだね、魂食べるわけじゃないし、栄養取らなくても生きれるほど奇妙な生態でもないし。死神なんて、この真紅の瞳とずば抜けた身体能力くらいしか人間と違うところ、ないんだよ。死神に夢みすぎ?それとも漫画の読みすぎかな」 ニヤニヤと笑う四季に、翔は顔を赤くしてそっぽを向いた。別にいいじゃねぇか。と不貞腐れた声が返される。 「うそうそ、ごめんってば。そんなに拗ねないで」 「拗ねてねぇ!」 「ふふっ……。ああもう、私的には夜、限られた時間月明かりのさす静かな病室で刹那げに、切なげに語らう二人……という演出をしてみたかったのに」 「お前こそ漫画の読みすぎじゃねぇか。しかも頭に少女、のつくやつ」 「うるさいわね。他のヤツが前回、限りなく容姿の整った人間の魂を回収してきたって自慢してるから、悔しくなっただけだよ。まぁ、容姿で言えばオマエ、合格だけどね!」 「そっか……。なんかサンキュ」 「褒めてねぇよ!」 「いや。褒め言葉でしかないから、それ」 やけのように叫ぶ四季を見て、翔は小さく笑う。そしてそばにある花瓶に飾られた花に触れた。かさり、と一枚花びらが散る。 「俺の命ってさ、お前らにとってどんなモンなの?こんな風にさ、触れれば壊れちゃうようなモン?それとも、ただ狩るだけの対象?」 「……意地悪な聞き方だなぁ」 「褒めるなって」 「はいはい。うーん、そうだね…。魂は敬うべき対象かな。というか、羨ましい?」 「はぁ?」 「多分、人間にはわからない感覚だと思う。直感でそう思うんだ。魂を見たときにさ、あ、この人の綺麗、とか、美しい、とか。それで、長い長い人生をまっとうした魂は本当に眩い。死神である私ですら、触れるのを躊躇ってしまうような」 「俺、15年しか生きてないけど。こんな魂でいい?」 「あのね、生きた時間のことを長いと言ってるんじゃない。自分が生きた年は、とにかく長いの。大切なものなの。だから…満足して昇れるように祈るね。オマエが幸せになれるように」 「………ありがとな」 翔の照れたような礼に、四季もはにかんだ笑みを浮かべた。昨日、去り際にそうしたように翔の頭を撫でる。 「オマエは強いよ。…すごいなぁ、オマエ」 「強くなんて、ねぇよ」 「物理的なものじゃないってば。とにかく、私が強いと言えば強いんだ」 「そういうもんなのかなぁ」 「そういうもんだよ。そうだ、明日からやっぱり私、夜に来ることになりそう」 「どうして?」 キョトンとした翔に、仕方ないのだよ。と肩をすくめる。 「うちのアホが魂一つ落としちゃって、その捜索隊。死神って楽そうで楽じゃないのよ」 「ぶっ、なにそれ。魂って落ちるもんなのか」 「まぁ、ね〜。滅多にないけど!」 あっはっはー。と笑ってから、四季は翔に向かって手を振った。 「また、明日の夜に。9時には来るから、起きていてね」 四季は一度、指を鳴らすと掻き消えた。 「あだっ」 そしてお決まりのように病室の外から悲鳴が聞こえる。 「アホかっつーの。そっからそこまでなんだから、歩けよ」 ぽつりと呟くと翔は、もぞもぞと身体を動かして水を飲んだ。口元を拭いながら、窓の方に目を向ける。日はまだ、高い。 「早く、夜になんねーかなぁ……」 こがれるような、声がそう響いた。 ―――――――――――― あれ、短い。 いいか、medium扱いだから。 12.07.17 |