帰還 「ただい、ま」 「……四季!?い、生きてたの!?」 「エイド、も、いきてた。うれしい」 駆け寄ってきたエイドに強く抱きしめられ、四季は少し身じろいだ。 「くるし、い」 「ご、ごめん!……そっか。イタルゴでの唯一の生還者、君だったのか」 四季は無言で頷いた。アクトの裏切りについては、ずっと黙っておくつもりだった。あのあと、日が沈みもう一度日が昇った時に、全てを倒し終えた四季は、現れたアクトによって基地に戻された。そこで見たものは…影も形もない基地に、ぐちゃぐちゃの死体。魔物なのか、人なのか何もわからない。 『君は幸か不幸か、生き延びてしまった。……殺していい?」 『………いきてかえると、やくそくした。エイドと』 『ふぅん』 『アクト、は。かえらない?』 『帰るわけないだろう。……ああでも、このことは君しか知らないから、帰っても問題ないかもね』 『……じぶんに、は。すなおに、なるほうがいいって。かぞくがいってた』 『…。元気でやれよ。おまえの剣は本物だ』 『アク、ト。あなたも』 その後、定期連絡が来ないと気づいた本部が様子を見に来て、崩れた基地と四季を見つけ回収した、ということだ。しかし四季は一年を過ごすと言い張り聞かず、仕方なく小屋を急ピッチで建てた。そこで四季は一年を全うしたのだ。 そして、正式に帰ってきて、エイドとの再会を喜んでいた。 「しかし……少しは言葉変わってるかと思ったのに」 「まだ、ことば、なんかいすぎる」 「いいつつ、難しい言葉つかって。…なんかい、って何?」 「むずかしい、ってこと」 「へー。下手すりゃ俺より言葉知ってんじゃね?」 あっはっは。とエイドは笑い飛ばす。そのまま食堂に直行した。 「生還祝い!パーっと飯食おうぜ!」 「う、ん。たべる。かれーらいす、とくもり、で」 「ここのカレー特盛!?どんな体してんだよ…ちっけーのに。俺も特盛」 巨大な皿に、溢れるほどつがれたカレーライスを受け取るとテーブルまで運んだ。向かい合わせで座って手を合わせる。 「いただき、ます」 「ああ、そんな習慣あったな。えーっと…イタダキマス?」 両者、スプーンを持つと今にも落ちそうなジャガイモをすくい上げた。 「そういや……あちっ、その、イタルゴの街…焼けたんだってな」 「ん」 「………お前が関係してるって話、出てんだよ」 「…。しょうがない、とおもう。わたしだけ、いきのびたのだから」 エイドよりも先にカレーを食べ終えた四季は、コップの水をちびちび飲みながら頷いた。四季にとって、そんなことはどうでもよかった。いまだに、アクトのあの顔が頭から離れない。 なぜ、あんなに苦しそうな顔なのか。 悲しそうな顔をしていたのか。 憎いと言っていながら、そんな色は見えなかった。ただ、深い悲しみがその表情を支配していたのだ。 「……四季?」 「……、な、に」 「違うん、だよな」 「…わたしは、していない。でも、うたがわれるなら、しょうがない」 「つ、強い……」 ようやくエイドも食べ終わり、食後休みをしているところに、一人の男がやってきた。 「やぁ、エイド」 「んぁ……レン!?おま、生きてたのか!」 眠そうにしていたエイドは、一瞬にして目を覚ますと、レン、と呼んだ男の肩を掴んだ。ガクガクと前後に揺さぶるのをレンに止められる。 「どうにか、生きていたよ。……そっちの子羊ちゃんは?」 そう言って、四季に目を向けた。この女好き。とエイドが冗談口調で吐き捨てる。それを無視して、四季の手をとった。 「わた、し。こひつじじゃなくて、四季。っていう、なまえある」 「おっと、これはすまないね。じゃあ四季ちゃんって呼ぼうか」 「ちゃんづけ、されるほど。こどもじゃ、ない」 「なかなか手強い」 レンは、四季の手にキスを送ってからエイドを振り返る。エイドはものすごく頬を膨らませて、不服そうな顔をしていた。 「俺の弟子に、何用ですかっ!」 「可愛らしいレディと見れば、いつだって飛んでいくさ」 「……レンお前、どうしたんだよ。いつもと違う」 「レディの前ではただの男になるんだよ。…まて、お前の、弟子?」 レンがエイドと四季を見比べる。 「そ、そうだが……」 エイドがぎこちなく頷くと同時に、レンは四季の手を引っ張り上げて立ち上がらせた。先ほどの紳士さはどこへやら、その目には強い炎が宿っている。 「……まだ、子供じゃないか。ねえ、いくつ」 「うまれて、じゅうにかいめの、はるがきた」 「十二……。それなのに、イタルゴから生還?……」 「すきで、つよくなったわけじゃ、ない」 手を払いのけると、エイドの分も皿を持ち、カウンターへ返しに行った。それを見送りながら、レンは呟く。 「国は。……ねぇエイド」 「なんだ?」 「…あの子、俺にくれない?」 笑ったレンに、エイドは何も言えなかった。 (レンが興味を示す。いいこと、だけれど……。俺は、どうすれば) ―――――――――――― 12←帰還 レン←17 |