襲撃、裏切り


「敵襲!敵襲ー!!!」

四季の耳にその言葉が入った頃には、燃える兵舎をただ見つめるだけとなっていた。声に気づいて剣を手に持つ。

「てき、は」

兵舎から脱出してきた人間と合流し、その一人が持っていたヘッドガードをつけて、あたりを見回す。

「火をつけたのは奴らだ。知能を持ってやがる」

「ちの、う。あたま、いい」

「そうだ。クソッ、あれに乗じて何匹か突入してきた。すでに十人はやられたぞ」

「見回りはどうしたのよっ、もう、冗談じゃないわ!こんなところで死んでなるものですか」

おいで。と一人の女が四季の手を引く。首をかしげると女は小さく笑った。

「いけない。向こうに残してきた子供のこと思い出してたの。戻れるものなら、戻りたいわ…」

「……。わたし、は。あなたのこども、じゃない」

「ええそうよね。ごめんなさい…」

それに。と四季は唐突に剣を振るった。

「てき、おでまし」

「くそったれ!まじかよ…。人数もいないのに」

見渡してそこにいた人間は十人ちょっと。く、と男がうなる。ぞろぞろと建物の影から飛び出してきた魔物たちに、剣をあびせながら四季をみる。

四季も剣を振るい魔物をなぎ払っていた。四季!と名を呼ぶ声に声だけで返事を返す。

「お前は逃げろ!安全地帯でアクトさんを呼ぶんだ!今は街へ言ってるはずだ…」

「でも、みんな」

「いいわ、お行きなさい。……生きてたどり着けたらいいわね」

四季の目の前の魔物が切り捨てられた。一瞬だけ開けた道に、四季は走り込む。すぐに道は閉じて、さらに後ろから魔物がおってきた。それを殴り飛ばし、切り刻みながら走る。

咳き込みながらようやく街が見える場所までたどり着いた四季は、ぴたりと足を止めた。確かにアクトはいた。が。

「…あれ、四季じゃないか。どうしたんだい?息せき切って、こんな場所まできて」

「あく、と…それ」

手に持っている人間の首を、震える手で指差した。アクトはそれを持ち上げると、じーっと見て後ろに投げ捨てる。べちゃり、と音が聞こえた気がした。後ろには魔物が並んでじっと座っている。

「すごいだろ。……街が、綺麗に燃える。人も、襲われて死んでいるだろうね」

「うらぎり、か」

静かに剣を構えた四季は、少しだけ悩んだ。剣でアクトに勝てる気は全くしない。どういう反応がいいのか、何もわからなかった。アクトは少しだけ近寄ってくる。一歩踏み出せばもう剣の範囲内だ。

「おおかた、みんなに、アクトさんを呼んできて。と言われたんだろうね。うん、正解だ。私が行けば魔物は私に従うんだから」

「……」

「本当はね、基地に爆弾を仕掛けてきたんだ。………顔色も変えないか」

アクトは四季を見下ろし、優しく笑った。しかし、全身の返り血が彼を凶暴に見せる。

「なぜ?」

「……この国は狂ってんだ。なんで、文様持ってるだけで駆り出される?君も、そう思うだろう。……その年で、売られたんだってな」

「ちがう。あのひとは、そんなことのぞまなかった。やさしいかぞくだから」

「売られた。まだマシだね。私は家族を皆殺されて、無理やり連れてこられたさ。…私が抵抗しなければ、まだ皆生きていられたかもしれないのにね。私が悪いのかな?……違うよね、この国が間違ってるんだ。こんな国、一度滅べばいいんだよ」

「でも、このまちのひとに、つみはない」

「知らないことが罪だ。無知が罪なんだよ。この場所には富裕層が多いからね。……ひどいよ、金があるだけで免除ときた。つくづくこの世は腐ってる。……おしゃべりはもうオシマイ。君に生き延びるチャンスを上げる。私はもう撤退する。……こいつらを相手にして、生き残れたらいいね」

言い残して、アクトは消えた。それと同時に魔物がいっせいに襲いかかってくる。抜いた剣で切り返しながら、四季は唇を噛んだ。どうも、心の奥がもやもやする。

しかしその感情は、幼い四季にはとうてい理解できるものではなかった。


戦いは、一日をまたいで続けられた。



13.06.28



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