激戦区 「やぁ、初めまして。君が今回配属された子かな?」 にこにこと笑う男に、四季は目を瞬いた。すれ違う隊員たちに冷たい目で見られていただけに、その男の対応に驚いたのだ。 「みんな、みたい、に、しないの?」 「ん?ああ…ここは実力社会だからね。力を見せつければ皆納得してくれるよ。力があるからこそ、君はここに送られたんだろう?君を疑うことは君をここに送った上司たちを疑うと同じことだ。そんなのおかしいじゃないか」 「…いいひと、だね」 「そうかい?みんなからは鬼教官なんて言われちゃって。そんな風に呼ばれるようなことはした覚えないけどなぁ。私はアクトだよ。よろしく」 「四季、よろしく」 アクト、と名乗った教官と握手をかわすと、早速部屋に案内された。二人部屋で、相手の人間は四季を見た瞬間顔を歪めた。 「小さいのに、国は遠慮なんてないわね」 ぼそり、と呟いた声を聞き取った四季は、無言で頷いた。 「初めまして。あえて名前は教えないでおくわ。あたし、名前教えたら死んじゃうと思うのよね、嫌な予感しかしないもの」 「?」 「わかんなくていいわよ。そうそう、よろしくね」 「よろし、く」 剣を磨いていたその女は、不器用な笑みを浮かべる。筋肉の無駄なくついたその体は、剣を振るうのに適した体つきに見えて、四季はそれをじっと見つめていた。羨ましい、と思ったようだ。 そうして、イタルゴでの少女の生活は始まる。 「おはよう、ございま、す」 「やぁ、おはよう。君は朝が早いんだね」 「あなた、こそ。はや、い」 早朝、日がまだ昇る前。四季は起きだして、外で剣を振り回していた。身長にあわない、訓練用の木刀は、それでもブンブンと風を切って振り回されている。ひとしきり振り回し終えて休んでいるところに、アクトがやってきた。立ち上がって汗をぬぐいながら挨拶を交わすと、アクトは落ちていた木刀を取る。 「身長にあってないものを使うね」 「これしか、ない」 「下賜された剣は?」 「まものいがい、つかわない」 淡々と答える四季は、アクトから木刀を受け取ると、また振り回し始めた。小さい身体での木刀さばきを見て、アクトは何度もうなずく。 「うん、うん。流石は本部だね。とても筋のいい子だ」 「…すじが、いい?」 「そうだね。十分な力を持っているよ。これなら生き残れるね。でも気を抜いちゃだめだよ?気の緩みが自分を殺すからね」 「…わか、った」 「あれ、もうやめるの?」 「みずを、あびたい」 汗だくのシャツで胸元をパタパタと仰ぎ言うと、アクトは豪快に笑った後、言っておいでと手を振る。木刀を抱えた四季は、近くの川へ走り、そのまま飛び込んだ。 「ああ、すずしい」 口元を緩め、汗を流すとシャツを絞りながら川から這い上がる。ふと空を見上げ、小さい頃は見ることの無かった外の世界の空を目に焼き付けた。 気候の影響か、「抜けるような晴天」の意味を知らず、雲ばかりの空を見てきたため、とても新鮮に思える。空は青い、ということを、親元から離れて初めて知った。四季は一度、頬を叩く。 「くんれん、と、みまわり、しなきゃ」 建物に戻ると、すでに朝食の時間となっていた。仲間に促されるままに食事を取り、訓練に向かう。その訓練を見て、昨日まで四季を蔑んだ目で見ていた者たちが考えを改めた。 一年をどうにか半分ほど送り、イタルゴでの生活にも慣れてきた頃……事は起きる。 13.06.04 |