イタルゴ 「いたる、ご?」 エイドの言葉に、四季は首をかしげた。飛んできた小刀を軽く叩き落としながら、小柄であることを生かし、懐に飛び込む。突き出した剣をかわされ、四季は舌打ちをしながら距離をとった。 「そう、イタルゴ。第一激戦区」 「わたし、が。そこ、に?」 一瞬の隙を見つけ、四季は足払いをかけた。倒れた身体に、すかさず剣をつきつける。一本。と呟いた。 「…ごめんね。こんなに強くなっちゃったから。君」 「もともと、わたし、は。けんを、つかいなれて、る」 剣をどけると、エイドの手を引っ張って立ち上がらせた。悲しそうな目で四季を見るエイドに、静かに首を振った。 「だから、いい」 「なんでこんなに強くなっちゃったんだろうね。よしよし。まだこんなにちっちゃな子供なのに」 剣の練習を終えたふたりは、木刀を規定の位置に戻すとフィールドをあとにした。お茶飲もうか。という問いかけにコクンと頷く。 「いつ?」 「うーん、君が来たのが去年の春頃だから……あと一週間もすれば。はい、お茶」 「ありがとう」 両手で温かい湯呑を受け取って、口を付ける。エイドは四季の隣に座ると、天井を見上げた。 「多分さ、俺」 「?」 「次で死ぬんじゃないかなって思ってんだ」 「なん、で。エイド、つよい」 「君の方が今は強いよ。……そうだね、四季。俺はホントは死にたいのかもしれない」 「……」 なんで。とは聞けなかった。ここに連れてこられる者は、大抵そのようなことを思っている。右手に文様があるだけで、剣の練習をさせられ、一年ごとに死ぬかもしれない場所に突っ込まれる。 楽しいと思う人間のほうが稀なのである。 「俺も最初は、イタルゴほどじゃないけど、最前線に突っ込まれて、そこで何人も友を失った。一緒にここに来た親友さえも。そりゃ、誰かが魔物を倒さなきゃ、この国が沈むことくらいわかってる。だけどな、なんで強制的になんだよ。ここには、俺たちに自由はない」 「そ、うね」 「今、あの時の仲間といえばレンのやつくらいだ。アイツのおかげで俺は今生きてると言っても過言じゃねぇかもしれない。刺々しいやつだよ。誰よりもこの状況に不満持ってるやつだ」 「イタルゴ。…いく。しんだら、それまで」 四季はお茶を飲み干すと、エイドを待った。行こう、とも、早く。とも急かすことなく、ただ黙ってどこかを見ている。 不思議な少女だ、と思った。死を恐怖してるわけでもない。だからといって、殺戮を楽しんでいる様子もない。感情のない、機械のような少女だ。 最初は、こんな小さいのにかわいそう。という偽善的な気持ちから四季を引き受けた。できることなら、安全な場所に導いてあげたいと思っていた。けれど、それはあっさりと砕かれる。 あまりにもキレのある剣さばき。足の運びや、力の流し方まで、何もかもができていた。荒削りではあるが、指導していけばかなりの戦士になることが予想できた。 エイドは迷う。ここで才能に気づかなかったことにして、その才能を殺してしまえばいい。そしたら、四季は少なくとも生き残れる確率が上がる。しかし、エイドはその才能を開花させる道を選んだ。 羨ましかったのかもしれない。その才能が。どこへ出しても、よほど油断しなければ死ぬことはない力を持っている四季が。エイドは強く手を握る。 ちらり、と隣の少女を見れば視線がかち合って、む、とさまよっていた瞳が固定される。 自分の髪を綺麗と言ってくれた少女。 目をそらすことなく、異質な瞳を覗き込んでくれる少女。 「……できることなら、死んで欲しくない。絶対生き延びて欲しい」 「……エイドが、おなじこと、を。して、くれる、なら」 「俺が生きることを望むの?君は」 「ん」 「っ。そうか。じゃあ、俺も死なないように頑張ってみるよ。一年間、元気で」 「ん」 約束。と小指を出した少女。それはなに?とエイドが尋ねると、家で使われた、約束するという意味の行為だった。 小指を絡め、上下にゆるく振る。 指切った。 ―――――――――――― あれレンいつでんの^p^ あと三話くらいでない。 13.03.27 |