君の求めた色。



「久しぶりの下界だ」

「おやぁ、久しぶりだねぇ。元気してたかい?」

「んー、微妙。なんてったって仕事が多すぎて部屋から出ることすらできなかったし…」

「ふふ、でもそのおかげで私らは助かってるのですよ。一十木さん」

「それはよかった。じゃあ、よい夜を」

「はいよ。ありがとうねぇ」

一十木……音也は、久しぶりの外に感動しながら背伸びをした。空気が美味しい。空には満天の星。新月の今日は、美しい星々がよく見えた。

あれから、何年の月日が経っただろうか。最初は空回りばかりだった。誰も賛同者なんていなくて、異端者扱いされされそうになった。そんなときにはいつもあの言葉を思い出す。

そして、自分ならできると拳を握り、ひたすら努力を積み重ねて………今の、小さな村が誕生した。そこでは、人間と吸血鬼が共存関係にある。

やはり実験段階ということで、人里からは遠く離れた場所に設置された、本当に小さな村だったが、音也はそれでも嬉しかった。一歩、前進できた気がして。

「ねぇ四季…………俺、頑張ってるよね」

返事なんてない。音也は見回りと称した散策を楽しみながら呟いた。虚しいとは思わない。ずっと四季は傍に居てくれると信じてるから。

すれ違う夜行性の吸血鬼と挨拶を交わし、そのとなりを歩く愛らしい人間の少女の前にしゃがみこんで、わしゃわしゃと頭を撫でる。

「確か、新しくこの村に来たんだよね?どう、パパとママは、優しいかい?」

「うん!あたし、パパも、ママも、だいすき!」

「そうか。君と、君の愛する人を大切にね」

立ち上がって、少女の父親を見る。嬉しそうに笑っていた。

「ありがとうございます、音也さん。あなたのおかげで……私と妻、子供も救われました。もうなんとお礼を言えばいいのか…」

「俺は、その笑顔が見れればそれでいいんですよ。……とある人と、約束したんです」

「…ふふ、どうやらその人は貴方の大切な人のようだ」

「もういませんけどね。……とてもすごいひとでした」

気を付けて。と声をかけて二人と分かれる。これだ。これを目指していたんだ。道を踏み誤ったと思うなら笑えばいい。しかしこれが彼の正しい道だ。これしか道はない。


村を一巡りして、自分の家に戻ってきた。中に入れば報告書と移住希望者からの手紙に埋もれることになるだろう。ああつかの間の自由。と苦笑して音也は扉に手をかけた。

そんな彼の背後に、誰かが音も無く立つ。

「おはよう。今夜もいい日だね、」

柔らかく、どこか懐かしい声が降ってきた。

振り返れば、そこにはずっとこがれ続けたその姿とは違った人物が立っていた。

「ハンター君」

少女は小さく笑う。

「……四季」

「っと、今はハンター君じゃなくて、村長君だったかな?」

「…どっちでも、い、いよ。それにね、四季、今晩はって言うんだよ。でも、おはよう」

「……この会話、懐かしいね」

「本当に、君、なの……」

縋るような口調で問いかけた音也に、静かに頷くと両手を広げた。

「ただい、ま」

「四季っ!!!」

音也はその少女に抱きつく。少しよろめいたが少女は持ち直し、肩口に埋もれる頭をよしよしと撫でる。

「素敵な村だね。…………綺麗よ」

「きれ、い?」

「君の努力が見える。苦しかったね、辛かったね、大変だったね、でも……頑張ったね」

熱くなる目頭から、ぽたりと雫がこぼれた。音也はそれを拭うこともせず、ひたすら泣き続ける。しまいには力が抜けて地面にうずくまる始末。一緒にしゃがんだ四季は、ただただ頭をなで続けた。

「よしよし」

「…」

「よしよし」

「……っ、四季、」

「ん?」

「はなれ、ないで」

「…ふふっ、いいよ。ここにいてあげる。そのために来たんだから」

姿が違うが、あの頃と同じ手だ。それが音也をひたすら安心させた。

「ね、…………お、音也」

「!」

「移住、希望」

「喜んで!」

涙と鼻水で汚れた顔で笑った音也は、そのまま四季を抱きしめた。




――――――――――――
(そういやなんでここに?)
(知らん。友達の死神がパパとやらに取り次いでくれたらしい)
(そんなことで戻っていいの…?)
(ご都合主義の世の中になったということさ)
(……)
(まぁでも、世界に対して偉大なことを成し遂げた人物を見守るため、特別におろしてやるという神様のお達し……だけど秘密にしておくか)


ご都合主義とか突っ込まない。自分でもわかってるんですから!!
というわけで完結扱いとなりました、君の求めた色、でございます。
とくに補足するようなこともないので、結局はハッピーエンドにできました!ということだけお祝い。ばんざーい。

お付き合いいただきありがとうございました。

12.11.05



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