過去→現在


「四季……っ、大丈夫か!?」

「二人とも、吸血鬼、みたいだった。ほんとなんだね、アノコト」

それからどうやってやつの家から部屋に戻ったかは知らない。二人は本当に夜行性とやらになってしまったらしくて、部屋に引っ込んでいた。いや、部屋にもいなかったが正しいかな。どこに行ったんだろう、と思えば思いつくのは一つ。たぶん、地下室。食料庫になってるそこで眠ってるのだろう。

と、やつがいってた。私じゃない。私そこまで詳しくないし。

という私は、片手に杭、片手にカナヅチを持ってベッドに座っていた。私はどうやら、あの人を殺さないといけないらしい。さぁ、行こうか。

私は立ち上がると、言われたとおり胸の前で十字を切ってから足を踏み出した。

ギギギ、と重い音を立てて扉が開く。私の両親だった二人は、食料庫の真ん中で身体を丸めて眠っていた。安らかな寝息。こうして見てると普通の人にしか見えないよ。でも、首のどす黒いあざ、なんか、おぞましい色に変わってるね。

私は杭を振り上げた、パパの心臓あたりに検討をつけて思い切り突き立てた。

「………っ、わぁああああああああ!!!!」

ダメだ。私には殺せない。

カラン、と杭が落ちた。こんな音を響かせても二人は起きないんだね。変なの、死んだように眠って。

私はそこに座り込むと、小さく微笑んだ。

「やっぱり二人は私のパパとママだよ。……弱くて、ごめん。私、迷惑だね、だけど、っ、ごめん…」

何時間もそうやって座り込んでると、眠くなってくるね。うつらうつらとし始めて、私はそのまま大人しく意識を手放した。ああ、ここにいる私を見たら、二人はなんていうかな。喜ぶかな、私を吸血鬼にするのかな、殺すのかな。でももうどっちでもいいや。私はとりあえず、二人を失って生きていける気がしないよ。気持ち的にも、生活面でも。

だから、ごめん。

ごめんね、ここまで手伝ってくれたのに。

ごめんね、ごめん。

おやすみ。





「それで、目が覚めたら私は普通に布団で寝てた。あれから一週間くらい経ったみたい。夢かなって思ったんだけど、でも首にはあざがあって、えりに血もついてた。なにより、鏡で見た私の目、一瞬だけ赤くなったんだ。それで私、吸血鬼になっちゃったんだって気づいた。や、気づいたもなんもないか。自分でなったんだから」

握り締めたカップからはもう熱さを感じない。冷め切った紅茶を無理やりに飲み干すといつの間にか浮かんでいた涙らしきものを拭った。泣くわけにはいかない。これからもっと大事なことを話すんだから。

「もうちょっと続くの。最初はその運命を受け入れたつもりなんだけど……どうも、怖くなっちゃって。はは、最低だよね、私は吸血鬼になったこの身体で、村から逃げた。その間に、その村にハンターは来てたみたいで…数日して戻ったら皆死んでた。吸血鬼じゃない人も、誰も彼も皆、殺されてた。……かばったんだと思う。だって、私のパパ、それなりに尊敬されてたみたいだし、ママは誰にでも優しかったし。かばったせいで、皆死んじゃった。あの時、私が両親を殺さなかったから、何もかも連鎖したんだ。村に吸血鬼が増えてた。子供は普通だったけど、その両親とか、ね」

「…」

「それで私はこの森に迷い込んで……。使われてないこの家を見つけたの。この家を管理してたのがこの間の鳥、ミシェルで、吸血鬼って事情を話すと、ワケアリの森にたつ家でよければ、とかしてくれて、かれこれ三十年、住み着いてます」

「三十年!?」

「吸血鬼って年とるスピードが違うみたい。私もびっくりしちゃった。おかげでこの少女体型よ」

ふん、と鼻で笑うとハンター君は固まった。同い年と思ったろ、すでに思春期は過ぎましたが何か。

「じゃ、なんで四季は……死にこだわるの」

「……私ね、今まで血液、飲んだことないの」

「…は?」

「せめてもの償い。償いにすらならない償いだけど、血は絶対に飲まないの。もちろん、吸血鬼にとって血は命、食事。ないと弱っていく。で、こうやって死にかけてますー。だけどもちろんそんなことしてると狂ってくるわけで…。そろそろ血に狂うころかなって思ったから、無差別に人を殺す前に、殺されたいと思って」

「そんな………」

「罪のない吸血鬼は殺せない?違うでしょう、貴方にとって吸血鬼ってのは仇のはず」

「な!?」

「なんで知ってんの、って顔だね」

そりゃあ、知ってるよ。と小さく呟いた。なんてったって、私は君の兄を知ってるから。

年の離れたお兄さんのこと、知ってるから。

でもこれは言わないでおこう。やつとの思い出はとりあえず、私のものだけでいいじゃないか。一十木、忘れもしないあの家の名前。

懺悔をさせてくれ、お前に。

あの時私がせめてやつの場所に戻ってたら。やつにすべて任せていれば。君が苦しむこともなかったのにね。

なんで君が生きてるかって?簡単だって。死んでるように赤を被っていた君を私が別の街に捨てたんだから。いや、置いたのかな………。誰かが拾ってくれなければ、それまで。よかったね、助かって。

これも、話してやらない。でも、

「ごめんね、ハンター君」

「…音也って呼べばいいのに」

「私にはね、君の名前を呼ぶ資格なんてないんだよ。だから、ハンター君でいいんだー。さて、これでわかったでしょ?まとめると、私が吸血鬼の元凶みたいなもん。村一つ潰したことあります。間接的に。そして三十年近く血飲んでません。そろそろ血に狂いそうなんで、君に殺して欲しいんです。終わり」

指を立ててピックアップすると、ハンター君は重々しく頷いた。わかってくれたようで嬉しいよ。そして私の命もあと少し。

「……俺の血、なんで飲めないんだよ……」

「わかってるでしょ。君がハンターだからだよ」

「契約した時点で、ハンターの血がまじる。それで吸血鬼が飲めない血の完成。……だろ?」

「そゆこと。でも、どっちにしても君の血はいただけないよ」

まぁ、君の兄のこと考えると吸えないってだけだが。というか、まず人のは吸わない。これは自分で決めたことだから、いくら死にそうになっても、苦しくなっても飲まないんです。

「おーけー?」

「自己完結しないで……。とりあえず、わかったよ。君を……殺せばいいんだろ」

「そういうこと」

「…もっと生きたいとか、思わないの?」

「私はね、後悔してるんだ。それに、もう無理なんだよ、身体が悲鳴をあげるんだ。こうして一挙一動すら気分が悪い。もう死ぬ前ってゆーことだろ?」

ここで話は終わりだ。と強制終了をかまし、私は立ち上がった。制止の声を振り切って部屋にこもる。ベッドに倒れこむと、そのまま死んだように眠ることにした。

これで、死ねたら、どれだけ、楽なことか。

おやすみ。


――――――――――――
こーゆー過去でした。
そこ、音也の設定取って付けただろ手抜き!とか言わないの。
暗黙の了解です。どや。
12.10.20



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