現在→過去


私は、ごく普通の村に住む、ごく普通の家庭に入ってる、ごく普通の両親をもつ、ごく普通の女の子だった。

朝起きれば顔を洗って、母の料理を手伝って、父と母と私の三人で朝食を食べる。父は村で唯一の学校の教師をしてたから、父と一緒に登校して、授業を受けて、めんどくさい宿題をたっぷり抱えて父と下校。

休みの日は母の手伝いのあと、三時のおやつを楽しみにしつつ、絵本を読んで、お絵かきをする。たまに外に遊びに行けばとしの近い男子と共にボール蹴りを楽しんだり、鬼ごっこというゲームをしたりした。

そんな日常が退屈で。でもすっごく楽しくて。私はこんな風にゆったりとした時の中を生きてるんだなぁ、なんて思ったりしてた。けれど、そんな日常は通常では考えられないほどの非日常によって壊されてしまったのだった。

「…………ぱぁぱ?どうしたの、その首に怪我」

学校から帰ってきたパパの首に、擦り傷のような赤いあざが見えた。私が首をかしげて尋ねると慌ててそこを抑えたあと、なんでもないよと笑った。パパが大丈夫っていうんなら、と私は小さく頷いてママの手伝いに行った。

その日からパパの様子がおかしくなって…顔色が悪いみたいだし、カーテンを開けるのを嫌う。

「ぱぁぱ、開けないと部屋がジメジメするよ」

「じゃあ、わたしが部屋をでるよ。いいかい、四季、わたしの部屋には入らないようにね」

「はぁい。あ、お昼ご飯はどうしますー?」

「わたしはいらないよ。ママにもそう伝えてくれ」

「わかったー。じゃあ私は遊んでくる!」

「勉強もしなさいね」

「ぶー」

部屋にひっこんだパパを見送ってから、私はボールを片手に外に出た。すでに友達が数人やってきていて、私はやつらと一緒に広場へ走り出した。

「ただいまぁー。ねね、まぁま、聞いてよ!まったく、あいつってば私に負けたのが悔しくて山で修行するとか言ってるんだよっ」

「あらあら。あの子ってば相変わらずね」

「ま、どうせ一日も持たないけどね。まぁま、それより今日の夜ご飯は何ー?」

「四季の好きなシチューという約束でしたね」

「だった。いやっふー!ぱぁぱ呼んでくる!」

あは。と笑ってママを見上げるとママは首にバンソーコーを貼っていた。

「パパと同じ場所、怪我したの?」

「えっ!?え、ええ。そうね…ちょっと転んじゃって」

(転んでそんなところ、打つの?)

私はそう疑問に思ったが、転んだというなら転んだんだろう。ドジと言われてるママならやりかねん。私は無理やりに納得して、パパの部屋に向かった。外からノックして夕食ができたことを告げると後で来るとの言葉。素直に返事して、私はまたママのところに戻った。夕食中、ママをじっと見つめていると、なぁに?と笑われたため、なんでもないと首を振った。

気のせいだよね、ママの目、赤かったなんて。

もう一度見てみればいつもと同じ空色の、私が羨ましいと叫ぶ瞳だった。

じゃあ、気のせいだ。

「そだ。明日は友達の家で本を読ませてもらうの!帰りは遅くなるから」

「夜ご飯までには帰ってくるのよ」

「ほーい」

ママやパパに密かに起きていた異変について、私は次の日に知るのであった。


「……っ、ねぇ、お前!あのっ、これ、この本……」

「んー?ああ、吸血鬼について、か。どうしたんだ?そんな風に取り乱して」

「この本って…あのあの、全部読んだ?」

「ああ、読んだよ」

「…ねぇ、絶対絶対口外しないって誓える?」

「んだよ、どうしたんだよ…………」

「うちのパパがね…ママがね…」

そうして友達に私はその出来事を話した。やつは無言で聞いてて、全部聞き終わるや否や、私の肩を強く掴んだ。

「それ、本当ならお前の両親、やばいことになってんぞ!」

「っ、まじ、で?」

「吸血鬼がお伽話の中の出来事だけな時代はもう終わったんだ。実際に目撃情報も出てるし…たしか別の、遠くの大陸ではヴァンパイアと呼ばれるものがいるらしい。だったらこっちに来てても…」

「うそ……だよ……」

「四季?」

「うそ、だよね。そんなのってうそだよ。あは、皆でグル?私を騙そうとしてるんでしょ」

「四季、現実をみろ!」

「見てるよっ!!!!」

私は肩に置かれた手を振り払った。固まる友達に、私は涙目で訴える。

「じゃあっ、私にどうしろっていうの!?何をしろって!?」

「……お前の両親はもう人間じゃない」

「わかってるよっ!!!」

「…伝説上の話だから、効くかどうかわからないけど心臓を杭で打ち抜けばいい。それでお前の両親の魂は楽園へ導かれるよ」

「それは、私に、パパとママを殺せって言ってんの?」

「もうお前のパパママじゃないって言ってんだろ!」

ヤツがキレた。私は肩を震わせて、身を縮める。やつははっとしたように動きを止めると、私の頭を撫でた。

「これ以上、被害が拡大する前に、殺そう」

「…っ、やだよ、私のパパだよ。私のママだよ……」

「……今夜、もし部屋にお前の両親が来たら必ずこう言うハズだ。部屋に入れて、と。そう言ってきたら必ず吸血鬼だから、朝まで布団にくるまってろ。何があっても部屋から出るな、絶対に、入っていいとも言うな」

「なんで…?」

「吸血鬼ってのは、部屋の主人に許されなければ部屋にはいれないんだ」

「わかった………でも、怖い……」

「今日は帰れ。怪しまれる」

「うん」

「そして、明日の朝、すぐに俺の家に来て」

「わかった。じゃあ…ばいばい」

私は手を振ると急いで家に帰った。もうここは自分の家じゃないみたい。パパもママも私のじゃない。知らない人…いいや、吸血鬼。

私、パパとママを殺せるかなぁ。でも、もう私のパパとママじゃないから、大丈夫だよね。ううん、それより吸血鬼じゃないって信じないと。

私は頷くと、夜になったので布団にくるまった。


コンコン。

ノックが聞こえる。びくり、と私は肩を震わせた。なに、と震えそうになる声を必死に抑えて問いかける。

「ママよ。あのね、四季に話があるの。入れてもらえない?」

「………」

「四季?起きてるんでしょう?私を入れて。中に入れて。今すぐに入れて。ね、可愛い四季。私を中に入れて、入れて、入れて、入れて、入れて、入れて、入れなさい、入れなさいよぉおおおおおおお!!!!!!」

「ひっ…」

「四季、パパだよ。お前に大事な話があるんだ。さぁ、あけなさい。開けて、わたしたちを中へ入れなさい。ねぇ、お利口な四季ならできるだろう。さぁ、開けなさい、開けなさい、開けなさい、開けなさい開けなさい」

壊れたカセットテープみたいに何度も何度も固い声で繰り返す二人は、もう本当に人じゃないみたい。怖くて怖くて、布団をかぶって震えてた。もうやだ…。なんで私が、なんでこんなことに…。

「部屋に入れて、入れて、入れて、入れて、入れて」

「扉を開けなさい、開けなさい、開けなさい、開けなさい、開けなさい」

「やだぁああああああああ!!!」




――――――――――――
なにこれこわい。そしてもう一話ほど続きます。
切る場所わかんなかった……。

12.10.17



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