予兆


「じゃん」

「え、なにハンター君」

「俺の仲間!の写真!」

「いや見りゃわかるよ。だって君いるもん。で、それがどうした………」

「これがねー、トキヤで、こっちがマサ!こっちは翔ってやつでこっちは那月ー、で、このよくわかんないのがレン!」

「知るかアホ。少し黙れ」

「うん、じゃあ少し黙るね」

「…………」

「……」

「…やっぱ喋って。ほどほどで」

「わかった!」

四日目の夜。今回のサバトは妙に長引いてるようであと三日かそこらはかかりそうだった。

そんなこんなで音也との生活をそれなりに楽しんでる四季としては、このままサバトが長引いてほしいと思っているようだが……。それはやはりかなわぬようで、あと少しらしいと、よく家に来る鳥のミシェルが報告してくれた。

音也は適応力が高いのか、次の日の夜には吸血鬼の四季と同じ生活をするようになり、さらに次の日には最初の敵意はどこへやら、のんきに世間話などをするように。そして四日目の今日は仲間の話までやりだす始末。

あまりの能天気さ、というかアホさに呆れ返った四季であるが、まぁ楽しいのでよしとしている。

楽しそうに仲間の写真を見せ、紹介する音也は二パッと笑うと、また今度紹介するね!と言った。途端、四季の表情が険しくなる。

「アンタ、正真正銘のアホだろ。あのね、私はなーんだ」

「四季」

「アホ」

近くにあったクッションを投げる。音也はそれをキャッチすると、ふわっふわ!と顔をうずめた。

「あのね、私は吸血鬼なの!」

「うん………あ、そっか」

「そうなの!君に殺されるの!君が森を出るときにっ!」

「……ね。殺さないと駄目?」

音也がクッションからちらと視線をよこす。それはどこか、殺さなくていい方法はないの?と問いかけてるように見えて……四季は動揺する。

「な、にを言ってるの」

「だって………。吸血鬼だけど、四季っていいやつじゃん。面白いし」

「君の前だけでかもよ」

「それでも!……それでも、君の優しいところ、知っちゃったし」

「罠かもしれない」

「そんなことするような奴なら、とっくに俺のこと殺してるでしょ」

「っ、」

四季は言葉につまる。そういうことを言われれば反論できないではないか。何も言わなくなった四季を見て、音也はクッションにまた顔をうずめた。

「俺、四季のこと、殺したくないなぁ…………」

それを聞くと、喉がぐっとしまった気がした。息が苦しくなってまゆをひそめる。

「それ、は。だめ」

絞り出すようにして呟いてみたがおそらく聞こえていない。音也は呼吸できなくなったのか、クッションから顔を上げて四季を見つめる。


一瞬の出来事だった。


とっさに立ち上がった四季は、目にも止まらぬ早さでテーブルに乗り上げ、音也の首をつかむ。そのまま地面に引きずり倒すと手を素早くまとめて頭上に縫い付けた。

「なっ……!?」

「ほら、ね。私は悪い吸血鬼だよ?」

にぃ、と口角をつりあげると音也の首元に顔を近づける。

「こうやって、君の血を吸うかもしれない。いつだって、君のこと、襲える」

「四季………」

「一度、痛い目に合わないとダメみたいだね。ハンター君は」

口を開く。犬歯がチラリとのぞいて、息が音也の首にかかった。音也は目を見開いたまま、抵抗を見せない。四季は、ぎゅっと目を瞑り音也の首へ歯を突き立てた。



否、突き立てようとした。



行動をしようとした瞬間に、四季は自分から音也から離れた。音也は起き上がると四季から距離を取る。四季はその場に膝をついて頭を抱えるとぎゅっと耳を塞いだ。

「違う!駄目だよっ!……………なんで、私は……。とも、か、く…。音也、これで私という人間が……いや、吸血鬼がわかったでしょ…」

「なに、を」

「吸血鬼はね、存在しちゃいけないんだ。とくに私みたいなのは。だから音也、お願い、私を殺さないなんて言わないで…………自分じゃ、死ねないの」

それだけ言い捨てると、四季は消えた。四季が初めて見せた瞬間移動、そして拒絶だった。音也は自分の喉をおさえたまま、動くことができずにしばらくの間、そこに立ち尽くしていた………。


――――――――――――
ちょっと時間飛んだのは突っ込まないでくだしあ。
12.09.27



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