夜になって 「…………眠い」 「なら眠なよ」 「…やだ」 「なんだこのワガママハンター君は」 怪我が治るまで、それとサバトの期間が終わるまで。そんなこんなで吸血鬼である四季は、天敵であるはずのハンター君、音也を家に泊めている。これは、あれから二日が経った日の会話だ。 「なぁ、ハンター君。無理しなくていいんだぞ、というか、私の生活に合わせないでよ」 「むぅ…」 「って、聞いてねぇし」 眠そうに目をこすり、コーヒーは飲めないとわがままを言って紅茶を入れさせた音也はそれをすすりながら首を振った。 「言っただろ!?私はお前を殺すことはないって。そんなに心配なら……」 「違うよー……」 「は?」 「だってさ、話し相手になってって言ったじゃん。だったら俺、君の話し相手になってあげないと」 ね?と言ってふにゃりと笑った音也を見て、四季は息を吐く。確かにそんなものを言った覚えがある。半分冗談で。 「あのね、あれは建前みたいなもので…」 「じゃあ、俺が話したい。それじゃだめ?」 (〜〜〜〜っ!このハンターは……っ!!) まるっきり人の話を聞かないどころか、かぶせて話す音也にイライラと四季は机を指で叩く。コンコンコンと規則的な音が響いた。 「お前、めんどくさいやつだね」 「えーそうかなー」 「じゃあ、能天気なやつ」 「あ、それはよく仲間に言われる!」 「そうかよかったな能天気」 おかわり。と突き出されたカップを押し返し、自分で注げと、ポットを指差した。そうする。と素直に立ち上がった音也は何気なくあいていた四季のカップも取ると二人分の紅茶を注ぐ。 「たしか、ストレートだったよね」 「ん」 「えと、じゃあ砂糖もらうよー」 「ん」 「はい、どうぞ」 「ん………。ありがと」 「どーいたしまして」 終始ニコニコと嬉しそうにしてる音也を見て、なぜか四季は自分が音也にほだされそうになってることに気づいて焦った。何をしてるんだと自分を叱りつける。 (まぁ、どっちにしても先は長くない……か) 「わっ、砂糖入れすぎてる!甘ぁ……」 「……」 アホっぽい行動をしている音也。四季はこれがハンターで本当にいいのかとジト目を送る。それに気づいていない音也はすっかり眠気の覚めた顔で紅茶を飲んでいた。 「お前、ほんっとうにわかんない奴ね」 「えーそう?どっちかというとわかりやすいやつって言われるけど」 「私にとっちゃあ、お前って分かんない」 四季はカップを手に取りじっと見つめる。水面にうつる自分の顔を見て、やつれたかもしれないと思った。自分は、死ぬときに全てを秘密にして死ぬのだろうか。それとも、目の前の青年に全てをぶちまけて、身軽になって死ぬのだろうか。音也は信用するに、つまり事情を話すのに値するのか。それも見極めなければいけない。 「……ふぅ」 それを判断するのはもう少し後でいいだろう。誰だって自分の死ぬときのことはなるべく考えたくないものだ。 茶色の液体を喉に流し込み、これが本来の主食だったらどんな味なんだろうな。と考えつつ、音也とそれぞれに、始まったばかりの夜を過ごすのだった。 ―――――――――――― 音也ゴーイングマイウェイなかんじ。 12.09.27 |