約束をしよう。


「……う、ぅ……ん」

「あ、起きた」

「マジで?どれどれ」

目を覚ました青年は、目の前の光景に一瞬あっけにとられた。先ほどまで森にいたはずなのに、気づけば見知らぬ天井をぼんやりと見つめている。そしてやや重い胸元、飛んでくる二つの声。

「……あれ?」

覚醒した青年は勢いよく起き上がる。あーれー、と声が聞こえた気がした。ふと胸元を見下ろしてみるとかけられた布団に転がった白い鳥を発見する。次に見たのが自分を見下ろしてくる少女。青年の頭は覚醒後、混乱に陥った。

「ええと?ごめん、君は?」

「ん?私は四季。森で倒れてた貴方をこの焼き鳥が見つけて、違った、ミッシェルが見つけて、」

「ミシェルだつーの」

「おお、ごめんよジェラール。それでこの鳥が貴方を見つけて、それを報告してくれたのよ。で、私が救助に向かってここ、私の家に連れてきたわけ。流石、男の人って重いのね……肩が痛いよ」

「そう、だったの…?ごめんね、助けてもらっちゃって。この包帯も、君が?」

額と、腕にまかれた包帯を見て青年が首をひねると四季は小さく頷く。

「そ…っか。ありがと。俺は一十木音也、ヴァンパイアハンターって仕事をしてるんだ」

「そう、大変だぁな。ケケッ、でもこの森って結構危険って話流れてるんだけど、どうしてこんな場所通るんだよ」

「うるさい、ミッチェル」

「……ミッチェルって、その鳥のこと?もしかして」

音也がまだ布団の上に転がってる鳥を指差すと、うんとまた頷く四季。

「あのね、私は鳥の声がわかるんだ。鳥だけじゃなくてまぁ、いろいろ分かるんだけどなぁ。なんでかわかるー?」

くくっ、と四季が笑うと、だんだんと音也の顔がひきつりだした。布団をはねのけると距離を取って腰に手を伸ばす。そこに目当てのものがないとわかると、顔を真っ青にして身体の前で拳を構えた。

「俺の荷物、どこにやった?」

「危ないから私が預かってるよ。大丈夫、返すから」

「吸血鬼…」

四季は静かに笑うと、ベッドの下から音也のらしき荷物を取り出した。それを投げると、両手を上げる。音也が荷物の中から銃を取り出して四季につきつけたからだ。

「怖いな、睨まないでよ」

「君は吸血鬼だ。吸血鬼は……俺の仇」

「おい、四季!てんめ、何自分から正体ばらしてンだ!?」

「ミシェルは黙ってて。それで、森を抜けたいの?」

「ああ。そうだね、抜けないと。用があるのはこの先の村だからね…でも予定変更。君を倒すよ」

ぐっ、と指に力を込める音也。それを静かにみつめる四季は、おもむろに窓を指差した。

「一つ、提案があるんだ」

「……何」

「あのね、この森は基本、危ない生き物とかいないんだけどここっていつからかサバトに使われるようになっちゃったんだよね。だから、これからちょっとの間、禍々しいものへと森は変化する。歩いてくるときにわかってると思うけどこの森は浅くない。一日、それも日が昇ってる間に抜けることは不可能だよ。だからさ、それまでここにとまらない?」

「そうやって騙して、俺を殺すのか?」

「わかるよ、ハンターだから敏感になるの。でね、とめるかわりにおねがいがあるんだ。話し相手になってほしいってのもあるけど、そのほかにさ、」

「……」

「ここを出るときに――――私を殺して」

「なっ…!?」

音也は驚きに目を丸くすると、銃口を下ろした。四季は両手を上げたまま、静かに目を伏せた。

「どうせ私はもう長くない。だからせめてでも知ってて欲しいんだ。……あのことを、ね。だからどう?三食昼寝付き、部屋は南京錠とともに好きな場所を。ってまぁ、広くないけど」

「……よし、のった」

「吸血鬼は約束を破らない。人間とは違うから……。我々の神に誓って、お前を殺しはしないさ。さて、もういいかい?手がしびれてきたんだよ」

「…へんなの。変な吸血鬼!あはははっ」

「んだよ、笑うことないじゃん」

むすぅ、と頬を膨らませた四季は、とりあえず音也が笑ってくれてよかったと胸を撫で下ろした。どうも殺気立った目は好きじゃない。今も昔も、ずっと。

いまだに笑ってる音也について来いと目配せをすると、適当に空いてる部屋を案内した。

こうして、吸血鬼とそれを狩るものはしばしの間、同じ家に住むことになったのだった。

――――――――――――
ハンター君よ、こんな簡単に懐柔されていいんスか。
いや、いいならいいっスけどね…。

12.09.01



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