そして物語は終演を迎え


「四季っ!!」

駆け寄って抱き起こした時には虫の息だった少女は、部屋の中に男の死体を見つけて、安堵の息をこぼした。そして、なんで、どうして。と問いかける翔に向かっていつもどおりの不敵な笑みを浮かべる。

「この胸の鎌、抜いてくれない?重くて立ち上がれないね」

「なんで、そんな余裕なんだよ!お前、死にそうじゃん!」

「とりあえず、抜けって」

「っ、わかったよ!」

やけくそのように鎌をつかんで引き抜いた翔は、それを投げた。カラン、と音がして地面に叩きつけられる。

「とりあえず、話してあげるよ。オマエの死因と私の行為について」

「無茶だよ……もうしゃべるなって」

「真実を知りたいでしょう。……いや、私が話したいだけか。ただの自己満足に付き合いなさいって、ね?」

血まみれのくせに元気なように振る舞う四季は、血のしみさえなければいつもどおりにしか見えない。

「昨日知ったんだ。オマエが死ぬのは人為的なものじゃないと。オマエは、悪魔の気まぐれで殺されるんだって。悪魔の気まぐれゲ〜ム、ってやつ?悪魔も死神も、たまにいるんだ。禁止されてるのに下界で好き勝手するやつ」

一回話を区切って、息を吐く。翔は黙って聞いていた。

「もちろんそういうことしたヤツには罰が下るんだけど、その過程で死んだ人間や死神、悪魔その他もろもろの命は戻されることはない。翔、オマエはあと少しで退院できる。そしたら今度はまた、夢を追ってみてよ。オマエの夢、輝いていてとっても好きだ。私には見えるんだ。ステージの上で笑うオマエが。だから」

「だから、お前があいつを殺したのか…?未来を、変えてまで」

「そういうこと。やっぱり代償は軽くないね。昨日早めに切り上げたのはそういうこと聞きに行っていたから。神様にね。居るんだよ〜神様って。信じてない人とかいるけど、マジで居る。天罰も実際に下してるし、かと思えば意外と世俗的だったりもする。この間なんか私に麻雀しよーってねだってきたっけ?おかしいっしょ!」

「代償って、なんだよ……」

「代償?簡単だよ、私の命さ」

あっけらかんという四季に、翔は一瞬なにを言われたかわからなかった。その間に四季は翔の腕の中から起き上がり、悪魔をどこかに消した。ぐらり、と倒れた四季をまた翔が支える。


「命って……どうしてそんなことをしてまで俺を助けたんだよ!もう未練、無いって言ったろ!?せっかく人が死ぬことを決意したのに、どうしてくれんだよっ!」

「だって、そんなこと言ったって……目がね。諦めてなかったんだよ。結構ベターなことを言うと、目指した夢を、いまだに追っていた。私にはわかるんだ」

「死神だからか?」

「ただのカンです」

四季は翔を見つめて、目を閉じる。かわりに翔の手をギュッと握り締めた。

「知ってた?私ね、時間を戻す術を使えるんだ。一応神様の血が入ってるぽくて、代償とかホントにいろいろあるけど、早乙女学園、入ってこい!んで、アイドルになればいいよ。オマエはなれる。なってしまえ」

後半から荒くなる口調に、場にそぐわないと思いながらも翔は噴き出してしまう。やっと四季がほっとしたように口元を緩めた。

「オマエは笑っていろ。私はね、嫌になったんだよ。こんな風に魂を取るだけの日々が。苦しかったんだよ、何千年も生きることが。もういい、やめたい。でも使命だから……。はは、オマエのこと、利用しちゃった。でもいいよね、結局はいい結果になったから」

「なっ……四季!」

「でも、実はそんなの建前でね、翔」

「……」

「オマエが好きだからだよ。友達とかの好きじゃない。恋慕なんだ、愛してる。好きだから、助けたかった。部外者のイタズラで、オマエの命が失われることはどうしても避けたかった。だから、これでいいんだ。ごめんね、死神に好かれるとか、迷惑だったね」

四季はそっと目を開く、その前に唇に温かいものが触れた。

「ねぇ、ねぇこれどういう行為?」

唇が離れた瞬間、四季が尋ねる。ロマンもへったくれもないが、翔は笑って答えた。

「キスっていって、好きなヤツにする行為。ほんと、ものを知らない死神だな。何千年も生きてるとか言ったくせに」

「どーも、すみませんね。じゃあ翔、この時計あげる。私の宝物だから、大事にしてね。んじゃ、今までありがとう。だっさいところ見せたくないから、綺麗なまま散らせてね。ばーい」

腕をほどいて立ち上がると、窓から身を乗り出した。そして、翔が止めるより早く窓枠をけって消えた。

残された翔は膝から床に崩れ落ち、やがて片手で顔を覆って涙を浮かべた。

言葉はない。ただ、静かに涙を落としていた。

時計に涙が触れた瞬間、キラリと光が溢れ出し白で包み込む。光がやんだとき、そこに翔の姿はなかった。


その日は、憎らしいほどに空は澄み渡り、瞬く星と優雅な満月がほのかな明かりを放っていた。







チラリと下界を覗くと、今日も元気にいじられている翔が見えた。那月という男とは上手くいっている(?)ようでなにより。ぎゃあああ、という悲鳴が下手すればここまで聞こえてきそうだ。

そんなことはありえないが。


審判を待つこと早1年。その間に翔は病気と戦いながら倍率200倍とも戦っていたようで、早乙女学園に合格し楽しげな学園生活を送っている。

四季は小さく笑った。ポケットから見えるチェーンが心を安心させてくれる。代償は、彼の記憶できっとすでに四季のことは何も覚えていないであろうが、別れ際に渡した時計は今のところ捨てられた様子はない。

一方的ではあるが、好きという感情は消したくないものだ。1年間、与えられた狭い小さな部屋で暮らしていても苦しくないのは翔との想い出があるから。寂しくないのは下界を覗くことができるから。

どこぞで大量虐殺か戦争でもあったのか、丁度四季が消えた年は死者が多かった。そのため、冥界では死神より人間の方が優先して審判を受けることになっていたのだ。

どうせ審判を受けたところでマトモなところにいけないとわかりきっている四季は、一生審判の時がこなくていいのに、とぼんやり思う。このまま、彼の様子をずっと見ていたい。

さて、寝るか。と四季が腰を上げたところで翔が突然那月に抱きしめられたまま空を仰いだ。そして何かを呟いた。






「――四季。」






びくり、と肩を震わせて四季は下界をまじまじと見つめる。

すぐに、那月にそれは誰ですか、と問われてしきりに首を捻っている翔を見つけて苦笑いした。

執念深いやつ。


「願わくば」


四季は目を閉じて首からさがるクロスを握り締めた。




彼があと少しでいいからその名を覚えていてくれますように――――。




――――――――――――
お、終わった…………。
結局これ何エンドなんでしょうねー。あんまりスッキリするもんじゃないねぇ。
ちなみに死神サンの行方は
→窓から落ちる、天界にのぼる、そこで息絶えては居ないけど傷を治して審判待ちみたいな?まぁ、天界=冥界的なノリだから死んではいないと思う。審判下るまで出禁!という感じだろうか。死神の権利は剥奪されました。お父様(神様)から。だから死神として生きることは出来ない=夢主の命を捧げるー、という感じ。

来栖氏はもちろん、記憶と引き換えに時間を巻き戻して見事早乙女学園合格、那月に追われSクラAクラと戯れながら日々を過ごしているようです。時折夢主のことを思い出すようだが、結局何かはわかってない。きっと朝みた夢的な感覚だと思う。適当だな来栖氏。

長くなるのでとりあえずここで切り上げます。もしかしたら続編っぽいの出るかも。というか、ハッピーエンドにしたいから出したい。
読んでくださりありがとうございました!

12.07.17~12.08.09



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