「なぁ。愛島」
「ハイ、なんでしょう」
「……近い」
「はい。抱きしめていますから」
なぜ、と聞くのは愚問なのだろう。私はため息をひとつつくと愛島から顔をそらした。ニコニコと美形スマイルを惜しげもなく向けてくる彼は、いつの間にか私の部屋にすみついた猫、だったもの。詳細を述べるのはあえて避けよう。そんな愛島は、なぜか私にいつも好きだ好きだとなついてくる。
彼の好きにどれくらいの価値があるかは分からないが、私の好きはそんなに安くはない。それに私はとりあえず、この学校を卒業しなくちゃいけないらしい。だから、私は彼を好きになってはいけないんだ。
「ねぇ、なまえ」
「なに、愛島」
くるぞ。またあの、好きだー攻撃が。この間なんか耳朶に囁かれましたとも。やつは私の嫌がるポイントをしっかり把握してるようだな、ったくもう。そう思って身構えた私にやってきたのは、いつもとは違った攻撃でした。
「私の国に来てくれませんか…」
「…は、ぁ!?」
なんで、どうして。それは求婚かなにかですか。自意識過剰なんですか。
「アナタが好きなんです。アナタがどうしても必要なんです!なまえ、お願いです……」
「あい、じま……?」
「なまえ……」
「……っ、そんな目で見るな!とりあえず一回離せっ!」
愛島の腕の中から抜け出すと、息を整えて愛島を見た。優しげに微笑む愛島に釣られて頬を緩めそうになって、ダメダメと気を引き締める。
「あの、ね。愛島。そういうのは本当に大切にしてるひとにいうもんだよ……」
「でしたら、アナタ以外に言うわけにはいきません」
「っ、バカ愛島っ!なんで…なんでアンタは私が突っぱねても懲りずにひっついてくるのよ!おかげで、自分でもセーブできなくなっちゃったじゃない!」
「え?」
「……。私、両親から見捨てられたのよ。そんな私でもいいの?」
愛島は私を強く抱きしめると小さく頷いた。
「アナタじゃないとだめなんです」
「……私に、存在意義を与えてくれるなら。忘れられたぬくもりを与えてくれるなら。アンタのこと好きになりたい」
愛島は嬉しいのか、私を抱く力を強めると首筋にくちづけた。
それは、私はアンタを愛していいという印なんですね?
←