「あ。雨………」
「げえっ!?うそ、マジで!?」
音也の声に振り返って縁側へと目をやると、たしかにぽつり、ぽつりと雨が降ってきている。今日は十五夜。せっかく恋人の音也を呼んで二人きりでお月見しようと思って張り切って用意をしてたのに。
あれほど嫌だった(だって両親が、彼氏!?彼氏なの!?きゃーうそー!とか叫ぶから。彼氏じゃない恋人だ!)実家に帰ってでも、絶景の場所でお月見してほしかったのに!
「はぁ…………。残念だね、なまえ」
「雨月、ですかぁ……」
「雨月?」
呟いた言葉に疑問を持たれ、私は知らないの?と首を傾げる。
「雨月というのは、まぁ……十五夜楽しみにしてたのにせっかくの雨で名月が見れない〜、っていう状態、まさに今私たちのような状態のことかな?厚い雲に覆われて見えない場合は、無月ともいうんだよ」
「へぇ〜。ものしり〜」
「ありがと。でもそれほどでもないよ…………。あー、それよりこの団子!どうしよう!」
「花より団子。食べちゃおっか!」
子犬のように嬉しそうに笑う音也を見て、まぁ仕方ない。と濡れないように縁側から垂らした足を引っ込めさせて正座をさせた。そしてお茶とお団子を持っていく。
「雨は雨で、私は好きなんだけどね。綺麗だし」
「……」
「音也?」
「いや、あのさ。ここって、君の方が綺麗だよっていう方が正しいの?」
音也のあほらしい問いかけにしばし固まったあと、小さく吹き出した。
「アンタはアホか!まぁ、でも一度は言われてみたいセリフだね。だけど私は私なんかより自然の方がはるかに雄大で、美しいと思うからそんなセリフは今はいらないかな」
はい、団子。と指でつまんだそれを口元に持って行ってあげると、嬉しそうにぱくんとくわえた。餌付けしてるようで楽しいと一瞬だけ思う。そんな風にして団子を食べていると、音也が、あ…。と声を漏らした。
「今、雨の音を聞いていたらいい音楽が浮かんだんだ……」
「……よし、作っちゃおうか!」
「そうしますか!」
うちに常備してあるアコギを持ち出すと、音也に渡して自分は琴を持ってきた。これでも良家の子女ですからね、嗜みはありあすよ。
「あうかどうかわからない、微妙な組み合わせ」
「だいじょーぶ。俺、なまえとならなんだってできる気がするんだ」
それからしばらくして作られた曲はそれなりにいいもので…。個人的に聞いてもらった林檎先生に頭を撫でられました!たまには雨も悪くないものですね。
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