「……なまえ、ほら、今日も来てやったぞ」


君はいつもこんな風に、偉そうな声で、それでも声に心配をにじませて喋りかけてくるね。まったく、少しはスターというか、アイドルというか。そんな自覚を持ってくれないものだろうか。今もほら、扉の外でミーハーな看護師さんと患者さんが数名、控えているはずだよ。

でも君はそんなのまったく気にしてないというように、持参してきた花を花瓶に飾った。


「綺麗な花を、いつもありがとうね。それと、忙しいはずなのによく来てもらっちゃって」

「なまえのためだから別に問題はねーよ。それに、今の俺があるのって、お前のおかげだからさ」

「…ったく、眩しいな、翔は」

「なまえも、あの頃の俺には眩しかったよ」


今はどうなんだよ。と突っ込むと笑って流されてしまった。でもおそらく、こんな会話ができるのはあと少しの間だと思う。ここで少し、翔と私のことについて話そうと思う。翔とは私は、この病院で知り合った。お互い、病室が一緒だったことから、気づけばとても仲良くなっていた。お互いの病気の事情を話すくらい、親しくもなっていた。


重い病気を持つ二人は、普通の人間たちより強い絆で結ばれたもんだと思う。薬の服用時間とか、種類とか言えちゃうくらい。あれ、これは違うっけ。

ある日、二人で将来の夢を語ったことがある。私の夢は美術さん、彼の夢はアイドル。なんという偶然か、二人とも芸能界に興味を持っていた。


「美術さんって、素敵だね」

「アイドルって夢も素敵だよ」

「ははっ、ありがとな。お互い夢が叶っていたら会えるかも」

「そうじゃなくても会いに来たり行ったりするだろーけど」


幼い頃の笑い話。でも彼はなんと、気が付けば退院していて夢に向かって走っていた。今では有名な新人アイドルとして名を馳せている。
一方私は、病気が悪化するばかりで、自分の夢に向かうどころか退院すらままならなくなっていた。そんな私を気遣ってか、翔は学生時代からよく見舞いに来てくれた。


「……ね。翔」

「なんだ?」

「……おめでとうね。アイドルになれて」


ニコニコと笑ってみせる。本当は言いたいことは違うものだったんだけど、翔の幸せそうな顔を見てたら、その顔を暗く塗り替えることなんてできそうもなかった。

"もうすぐ私は死ぬ"

それをいうだけの話なのに、なぜか苦しくて。冗談で死ぬとかはよく言ったことがあるけれど、本気で言うとなるとやっぱり無理なもんだね。すごく胸が苦しくなって、これが病のせいか気持ちのせいかはわからないけど、今だけは笑っていたいと思った。翔には黙って、私は天へと旅立とうと思います。だから翔、私のことを決して忘れないでくださいね。


「翔くん」

「……なんだ?」

「私はね、幸せな夢を見ていたようです」


そう、この世に生まれて、貴方と会えて、立派に成長できた貴方を見れた。たぶん、それだけで幸せだったんだと思います。幸せなゆめ物語をありがとう。そして、芸能界でも、頑張ってね。


のんびりと微笑むと、一枚散ってしまった花びらを指にのせてそっと抱きしめた。














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