文字を追うのに疲れてふと視線を上げると、丁度読書を終えたのか彼も顔を上げた。視線が静かに絡み合い、私はうつむく。すると彼は身を乗り出して机を挟んで反対側に座る私の頬に手を添えた。彼の細い指が頬をするりと撫で、その行動に私はビクリと肩を震わせる。
「……みょうじさん。好きです」
「……一ノ瀬、さん?」
突然向けられた言葉の意味がよくわからなくて、彼の目をぱちくりと見つめる。すると彼はおもむろに机に片手をつき、ぽかんとする私に口付ける。
「っ、なにするんですかっ!」
「答えなんていりません。どうせ、貴方も私と同じ気持ちなのでしょう」
「なんでそう決め付けるの……?私、一ノ瀬さんのことあんまり知らない……。貴方も私のことを知らないはずでしょう?」
「いいえ。私はいつも貴方を見ていました。お願いです…私を受け入れてください」
なぜか泣きそうな顔の彼は、私に添える手に力を込める。少し頬が痛くなった。なんで彼は私なの。私じゃないといけないの。
「言ったでしょう。私はいつも貴方を見ていました。いつもこの場所で読書する貴方を見てるうちに好きになっていたんです」
「私、そんなあやふやな気持ちは嫌いです」
「あやふやではない。信じてください、みょうじさん」
「っ……一ノ瀬、さん」
何なんでしょうね、この真摯な瞳は。正直言うと彼からの告白は嬉しかったりする。よく見かける人だし、容姿はもう素晴らしいし。きっと性格もいいのかな、なんて勝手な乙女の妄想をしたこともある。だけど。
これ罰ゲームだったら私もう一生恋なんてできない。
「なんで一ノ瀬さんは、私なんですか」
「貴方がいいからです」
「……。その。……お友達からお願いします」
かぁぁ、と熱くなる頬を見せたくないのに頬の手はそれを許してくれなくて。さっき口づけられたことを思い出してさらに熱くなった。ふつう、知らない人(?)からこんなことされたら嫌がるよね。じゃあ私、嫌じゃないってことなのかな…。
「っ、必ずみょうじさんのこと、惚れさせてみせますから」
「お、お手柔らかに…」
ともかくひとつ確実なのは、これからの私のスクールライフはとてつもないものになりそう、そんなことです。
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