これの続き





すぅ、と声が夜に溶けていく。こんなに歌が素晴らしいと思ったのは、とても久しぶりだった。音楽性の違いから楽団の仲間と衝突して、それが大きな亀裂になって俺はあの場所を出てきたから、とてつもなく心が荒んでいた。そんな心を覆い、ひび割れを修復するようにしっとりと包み込まれるような、優しい歌を聴きたかったんだ。

いつまでも聞いていたい、と思うようなそれは、唐突に止んだ。


「……いるんですか?ショウ=クルス」

「ばれちゃった。ごめん、聴きたかったから聴いていた」

「海に飛び込みたくなりました?」

「いいや、全然」


隠れていた岩の影から出て行くと、夜の砂浜で三角座りをしながら歌っている自称セイレーンのなまえがいた。いや、あの歌の力を見た限りは、自称という言葉は外すべきなのかもしれない。


「ショウ=クルスとは最近よく会うね。会いに、来てくれてるの?」

「正確には、歌を聴きに、かな?」

「だよね。私、セイレーンにしては見た目も綺麗じゃないし」

「うーん、可愛いとは思うけどなぁ。ただ、ちょっとマニア向けな見た目というか…うん」

「うるさいぃいいい!!!」


ぴーぴー泣き始めたなまえに、あーやっちゃった。と頭を抱える。こいつの泣きポイントがわかんねぇ。たしかに今のは俺が悪かったかもしれないが…。


「ああもう。わかった、ごめん。だから歌聴かせてくれよ」

「うたをうたっていいの!?分かった、歌う!」


ぴゃっと涙を引っ込めたなまえは、二、三度咳払いをして喉の調子を整えると、歌い始めた。相変わらず、なまえの歌は極上である。心地よいメロディに柔らかな声。しかしその声も曲によってコロコロといとも簡単に変えてしまうからすごい。

バラード風の異国の歌を歌い終えると、続けてもう一曲、バラードを歌い始めた。その曲を聞いて、俺は目を見開く。

なまえはそんな俺の変化に気づきもせずに、伸びやかな声で歌い終えた。ふぅ、と息を吐いてこちらを見る。

海をチラチラ見てるところから、またあのセリフを飛ばそうとしてるのだろう。大丈夫だ、という意味を込めて拍手を送った。


「あの、さ。最後の曲、どこで知った?」

「…?ああ、あの曲。んーとねぇ……この間一度だけ街の広場から聞こえてきたから、覚えちゃった」


あっは、とこともなげに笑ったなまえに俺はいよいよセイレーンてのはすげぇと思う。あの、歌うのが困難と言われる曲を一回聴いただけでこうも簡単に歌い上げることができるのか。


「そうそう、私が聴いた曲はね、別の解釈で歌ってたんだけど………」

「けど?」

「私は今歌った解釈の方が好き。だって、あの解釈はあまりにも乱暴だよ。誰が×××を×××だって決めたの」

「そりゃそうだ」


なまえが歌ったのは、俺が仲間と衝突した原因の曲。皆があの解釈がいいというのを違うと言い張り、反発して出てくる原因になった曲。そしてなまえが歌った解釈は、俺のとまんま同じ解釈だった。


そう、そのイメージなんだ。俺が伝えたいのは。なのにアイツ等、違うっていう。


「ねぇさまにこの歌の意味を聞いてみた」

「……」

「そしたら、今の解釈ができたんだよ。切ないだけじゃなにも作れない。悲しみだけじゃ歌にならない。その切なさや悲しみから、新しい気持ちを派生させて、前を向く力が必要だよ。…………ショウ=クルス?どうしたの」

「おま、え。は……ああそうだ、俺はそんな解釈を望んでいたんだ」

「ショウ=クルス……」

「なぁ、お前。…陸地に上がって、俺と組まないか」



極上の歌を奏でるために。俺の正義を貫くために。


自己満足でセイレーンを利用とする俺の考えは間違ってると思う。だけど、どうしても歌いたかった。己の解釈で。

なんと言ったってその曲は、





この国では知らぬものは居ないというほどの天才、ロイ=クルスが。


俺の母上が作った最後の曲なのだから。



――――
母の名前は捏造です(キリッ






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