「実はね、来栖さん」

「んあ?……んぐっ、どうした、なまえ」


きゅ、とペットボトルのキャップをしめた来栖は、こちらへと視線を向けた。一瞬流し目のように見えてドキリとしたのは秘密。

ともかく、彼は来栖翔。早乙女学園Sクラス、アイドルコースの子で、私が尊敬してやまない人。そして私がどうしようもなく好きな人。

きっかけは本当に些細なことだった。引っ込み思案だった私に、声をかけてくれた、ただそれだけ。それだけで盲目的に人を好きになってしまう自分に呆れてしまうし、唯一の親友にも呆れられたが、好きなものは好きだからしょうがない。略して好きしょ。


こほん、それは置いといて。実は私、彼のパートナーでして。びっくりしちゃいました。向こうから声かけてきて、ワンフレーズしか流してなかったその曲に惚れたから、お前とくみたいって言ってくれて。もう、感激でした。嬉しくて涙が出そうで、ついきつい口調で、別にいいよ。と言ってしまった。


感情表現が苦手な私にも嫌な顔一つせず、ここまで付き合ってくれた来栖は私のヒーローだ。彼のおかげでそれなりに人付き合いができるようになったし。コミュ障もいいところでしたよ。昔の私は!


「…どうしたんだよ、そんな百面相して」

「や、なんでも……ない、です。あっ、でもあの、言いたいことがあって、」

「うん」


来栖はじっとこちらを見て、私が話すのを待っていてくれる。話さなきゃって思うけれど、なかなか勇気が出てこなくて、あのだか、そのだか、言葉にならない言葉ばかり飛び出した。


「……っ、あのね来栖さん、私っ、……あなたのことが」

「ちょっと待った」

「え」


びしっ、と来栖は私の目の前に人差し指をつきつける。その向こうで来栖はニヤリと笑った。


「知ってたよ、なまえが俺のこと好きだって」

「んなっ!?」

「すっげぇ単純だもん。話しかけりゃ赤くなるし、どもるし。他の男子は普通に会話できるのに。最初は嫌われてんのかなーって思ったけど、違うみたいで」

「な、な、な……!」

「…軽蔑したか?気持ち知ってて、気づかないふり。弄ぶようなことして」


来栖は真面目な顔で尋ねてきた。私はゆっくりと首を横に振る。違う、それでも私は好きなんだ、来栖が。


「ごめん、初々しい反応が嬉しくて、からかってると言われてもしょうがないことばっかしてきた。俺の言葉に翻弄されるなまえが面白かったから」

「……っ、じゃあ来栖さんは、」

「でも、ね。……興味本位だったけど、今は違うよ。あのな、なまえ。俺お前のこと好きだから」

「……………………………………ん?」


たっぷりと間を空けて、私は聞き返した。まさかすぎる言葉に、自分の脳がそれを否定する。聞き間違いもいいところだ。って。だけど来栖はニヤニヤしながら、向かい合った机をこえて私に近づくと、耳元でくすりと笑う。


「す、き。だよ」

「あ……う…………え、っと……うい?」

「あははっ!!すっげー真っ赤!」

「か、からかってるんですか!?」

「ううん。少なくとも、一緒にいて心臓がドキドキしてるくらいには、好き」


それってかなりのことじゃ。と言いかけた唇に、来栖の人差し指が触れる。すっとそこを撫でられて硬直した。


「……初心すぎだな」

「来栖さんが人馴れしすぎてるだけでででです!?」


言葉の途中でふにりと唇を押され、どもる。


「もっと来栖さん無邪気キャラ走ってんのかと思いました……」

「こういう俺は嫌い?」

「……いいえ。どんな来栖さんでも、来栖さんですから。私に話しかけてきてくれた、来栖さんはあなたしかいません」



よかった。と笑った彼は、恋人になろっか。と言って私を気絶寸前まで追い込んでくれやがるのでした。




――――
そういう翔ちゃん大好きですもぐもぐ。














「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -