「止まぬ雨はないといいますが、心に降る雨は止むことがあるのでしょうか」


私はふとした拍子に、そんな言葉を思い出した。本当に、なんで出てきたのかはわからない。でも気が付けば呟いていた。

目の前にいた我が友人、真斗は読んでいた楽譜から顔を上げ、こちらを凝視している。なんすか。と聞いてみると、静かに首を振っていた。ゆっくりと立ち上がって机をぐるりと回って私の隣に立つ。


「………泣くな」

「ないて、ないです」

「たかが失恋だろう、もとより、恋かもわからない気持ちだ」

「だけどっ!!」


君にはわかるまい。


私は七海春歌が好きだった。私も彼女も女性だが、恋慕していたのだ。恋に性別はないと言っても、それは所詮建前で。きっとこんな邪な気持ちを知られたら気持ち悪いって言われるんだろうな、と思って、怖がって気持ちを隠してきた。

そしたら、ある日言われたんだ。




わたし、しょうくんのこいびとになったんです。



理解したくなかった。理解し難かった。…え?と聞き返せば、照れくさそうに笑いながら、そうなったいきさつを教えてくれた。本当に信頼してくれてるってのはわかったけど、それがなにより辛い。

なんで私は男じゃないんだろう。ああでも、男じゃなかったらこんな時、オメデトウって言って抱きしめることもできないんだよね。女でよかった。


「春歌、好き」

「はわわ……私もなまえちゃんが大好きです!」


今でもそんなことを言ってくれる。でも、本当の笑顔は翔さんのもので、私のものじゃなくて。


「恋、だったんだよ。私、真剣に春歌が好きだった」

「……お前の考えや恋愛について、とくにどうとは思わないが、ひとつの失恋でそこまでへこむな」

「…ああ、曲のクオリティが下がりますもんね。ラストスパートの時期なのに、」

「違う」


珍しく声を張り上げた真斗は、もう一度優しく、違うと言った。そして腰を落として、椅子に座る私と目線を合わせる。



「お前の心が弱い時を狙ってしか言えない俺を許して欲しい」

「なんのこと?」

「…俺は、おまえが好きだ」

「無理です。私は貴方を親友としか思えません」

「それでいい。……だが、覚えていてほしい。俺はお前のことが好きで、叶うなら抱きしめたい。愛を告げたい、手をつなぎたい、口付けたい。七海のことを忘れろとは言わない。ただ、お前を好きな俺がいることを知っていてくれ」


それだけ言うと、今までの勢いはどこへやら、しゅんとしながらすまんと謝り、部屋を出ていった。




たしかに、心の雨は止まないかもしれない。けれど、いくらでもそれを防ぐ方法はあるのではないだろうか。

例えば、優しい傘をさしてみる、とか。















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テーマ「人外ファンタジー」
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