私は、世間で言われるセイレーンと言うもの。なんか、珍しいみたいで、皆私の噂をしてる。とくに、船乗りがしている。最初は、私の歌を褒めてくれるのかなって思って、船が通るたびに張り切って歌っちゃった。


けれど、最近、気づいた。それは違うんだよって。

みんな、私の歌を聴くと海に飛び込んでくる。そして、そのまま溺れていく。幸せそうな笑みで。私たち、人ならざるものにとって、死というものは尊いものなんです。だけど、人は、価値観が違うみたい。みんな……恨めしそうな顔で話をする。

ああもう、意味がわからないよ。でも、私は歌っていたいよ。


歌だけが、私を励ましてくれる。歌だけが、私を裏切らない。

歌うことだけが、好きなんです。


なのに、どうして歌っちゃいけないの?みんなが聞き惚れてくれるっていうのは歌い手にとって幸せなものなんでしょう?

歌わせてよ………。お願いだから、歌うことを、奪わないで。





「どうしたんだ?」






俺は、とあることで失敗して、ものっすごい怒られた。それで、イライラしてて、一人で海に言ったんだ。もうこのまま、海に向かってバカヤローって叫んで青春病でもやらかしてやろうか。と、むむむー、考えていると、岩にべたーと貼り付いてびーびー泣いている少女を見つけた。あまりにもその姿が奇妙すぎてしばらく呆然としていたが…なんかそれが思いつめているように見えて、俺は声をかけた。すると、その少女は、ずるずると鼻水をすすりながら、こちらを向いた。


それが、すっげー綺麗で。いや、鼻水垂れてるけど、すっげー可愛くて。俺はついつい見とれてしまった。少女が、濡れるのも構わずに、水の中を歩いてこっちまで来る。そして、一言。


「うた、すき?」


もちろん、好きに決まってんだろ。アイドル志望で生きてんだから。小さく頷くと、少女は、ぱぁと顔を明るくした。


「私は。うた、だいすき。でも。みんな私のうたを……」

「……俺に、よかったら聞かせてくれよ」

「でも。…………じゃあ、じゃあ、絶対、おかしいって思ったらすぐに、耳塞いでね」

「お、おう」


少女の熱心なお願いに、俺はとりあえず耳の横に手を置いた。いつでも塞げるように。そして、少女は息を吸うと…静かに歌いだした。


「っ………」


すごい、と思った。すげぇ、綺麗な声だった。耳から媚薬みたいに入り込んで、ねっとりと脳を侵食していく。どろり、と気持ちがもやに消える。目がうつろになっていく気がした。


ぴたり、と少女が歌をやめる。もっと歌って、とねだりそうになって、俺は危ない、と言葉を飲み込む。その代わりに出た言葉は、あまりにも在り来りな感想だった。すてきだよ。綺麗な声。ごめん。もっと褒めたい。歌声に、惚れた。ごめんな。

それでも少女は嬉しそうに笑った。


「ありがとう。私、そんな褒めてもらったの初めて。…………そっか、陸で歌えば、いいんだ」


少女はポツリとつぶやいた。どういうことだろうか。彼女は陸以外のどこで……。海?


「あの、さ。名前教えて欲しい」

「……?」

「名前」

「セイレーン」

「…え?セイレーン……って、海の」

「……うん。皆が海の魔女って呼ぶもの。歌いたいのに、私が歌うとみんなが困る」


セイレーン。だから、少女はこんなに美しい歌声なのか。本当に引き込まれるようだった。いや、引き込まれてた。この時、俺はすでに少女に惚れていたのか。その腕をとって、笑顔を見せた。


「お願い。その…また、聞かせて欲しい」







「…喜んで!」








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