「ふぁぁああああああああああああいやあああああああああああああ!!!!」
「ど、どうした!?」
「いや、キャンプファイヤーって、テンション上がらない?」
突然叫びだしたなまえは、俺に向かってブイサインをする。は、ぁ。と俺は戸惑いつつ頷いた。俺は聖川真斗。彼女はみょうじなまえと言って俺の大切な親友だ。なぜキャンプファイヤーなどやっているかというと、それにはまず俺の職業について話すことが必要でな…。
俺、聖川真斗はスターリッシュというグループでアイドルをやっている。なまえは俺たちの専属作曲家だ。同期(一緒に早乙女学園を卒業した)で、それなりに人気らしいが、なまえはそれほど欲がないのか…詳しくは知らないが、俺たちの作曲以外やりたがらない。社長もそれを認めているというか、後押ししてるからそこが不思議なのだが…。まぁ、嬉しいことだ!
それで、俺たちスターリッシュに仕事が寄せられて…なぜか無人島にいる。そして本当に不思議なことになまえまでついてきているのだ。なんでも、
「貴方たちといるとインスピレーション半端ないのよ」
らしい。俺にはよくわからん感情だ。
「きゃあああああんぷふぁいぁあああああああああああああああああ!!!」
「ふぁいいあああああああああああ」
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおううう!!!」
……しかし、賑やかなものだ。翔に音也までまじって三人で飛び跳ねている。あれは本当に俺の一個上か?違うだろ、精神年齢もっと低いと思う。隣でマシュマロ焼いている一ノ瀬からため息が聞こえた。
「……マシュマロ食べます?」
「ああ、もらおう」
「元気ですよね、あの三人」
「ああ。夜だというのにな。昼もあれだけはしゃいでおきながら、子供か」
「……ノーコメントです」
「ほぉらあああああああああ!!きぃみたちも遊ぼおぉおおおおおおおお!!!」
スタッフがクスクスと笑っている。楽しそうですね、とカメラ担当が生暖かい目で見ている気がした。……俺はあの仲間扱いなのか。
「ほら、いい加減にしなさい。もう仕事の時間です」
「ちぇっ、トキヤ空気嫁ー」
「誰が嫁ですか。襲いますよ。ほらこっちで準備して。音也も翔も早く」
「いやんナチュラルにセクハラんぬ」
「なまえ、お前に慎みという言葉はないのか」
「あっはっは、まぁまぁ、悪友じゃないか」
走ってきたなまえに肩をバシバシと叩かれ、そのままテントに引っ張られた。衣装を出されそれを突きつけられる。いいようにスタッフに使われてるな。とは言わずに無言で衣装を受け取った。着慣れているのでややこしい飾りもお手の物だ。じいっと見てくるなまえにも慣れたもので、さすがに背を向けるが最初ほど抵抗はない。あれはじゃがいもだ。トマトだ。この瞬間なまえは脱人間を遂げる。
「……真斗ー」
「なんだ」
手を動かしながら短く尋ねる。あはは。という声が聞こえてきた。
「ねね、真斗ー。君のこと好きだよ」
「お得意の冗談か?」
「まさか。今は本当だよ。本気の本気で君が好き」
「……俺はアイドルなんだが」
「早乙女はオッケーって言ったよ?」
「…今なんと!?」
「うっそぴょーん。ね、ドキドキした?ドキドキした!?」
「するか馬鹿」
一瞬の戸惑いをなかったことにして、俺はボタンを止めた。しまった、掛け違えてる。慌ててボタンを外しにかかった。その間も、背中に視線はバッチリと感じている。
「ね。真斗」
「どうかしたか」
「怒らないでよ。……。あのね、さっきのは嘘だけどね」
「知ってる!」
「だから怒らないでよぅ。早乙女がね、オッケーじゃなくて、全力でやっちゃいなさーいって。私、なんだかんだで早乙女とは馴染みだから、頼んだらオッケーって」
馴染み?とても初耳なのだが。ようやくボタンをかけ終わって振り返ると、なまえは慌てて後ろを向いた。見間違いだろうか、顔が赤かった。
「今見るな!あーもう、だからね、言ったでしょ、君のことが大好きだって。わかんないかなー、恋情的な意味で好きなの、すーきー、あいしてーるー!」
「……っ、」
不覚にも顔が赤くなった。口元に手を当てる。何故、だ。今までコイツに緊張したことなんて、ないはずなのだが。どくどくと早鐘を打つ心臓を必死に沈めていると、なまえが後ろを向いたまま、ラストとばかりに叫ぶ。
「ずっと前から好きでしたー!!!お付き合いしたいほど大好きですー!付き合ってください!!」
「………」
「ちょっと、無言とかマジやめ、て………うわっ」
振り返ったなまえを、ついひっぱって抱きしめてしまう。なんだかとても柔らかかった。
「……ね、こういうことするってことは、私のこと好きってことですか」
「まだ、自分のこの気持ちが恋かはわからない。……だが、好意的な目で見ているのは確かだ」
「だ、だったら、」
「ちょっとー、遅いわよみょうじちゃん聖川くん着替えさせて連れてきてって言ったじゃ…」
言葉を紡ごうとすると同時に、私と仲の良い(……私に遠慮のない?)スタッフさんがテントに叫びながら入ってきた。うわ、と声を上げてしばしの沈黙が降りる。
「……お邪魔、だったみたいね」
「いいいいいえ!とんでもないありがとうございますあああああ!」
「よよよ、よし、む、向かうか」
「にやにや」
「「うるさいですよ!」」
「んっふっふー(社長に報告ネ)」
…なんだか寒気がしたが、俺はその笑みを見なかったことにしてテントを出た。
←