『ねぇ、約束しよっか』
『やっ、やだやだ!おれ、兄ちゃんと別れたくないっ!!だっておれ、お兄ちゃんのこと大好きなんだもん!!』
『まぁ、まぁ落ち着いて。大丈夫だよ、私はしばらく遠くに行かないといけないけど、君が大きくなったとき、また会おう。たしか君は、アイドルを目指していたよね?』
『うん』
『そっか。じゃあ、君が入学する年、そうだね、十五歳の日にあそこに入学できていたら、その場所で会おう』
『…お兄ちゃんも、アイドル目指してたっけ?』
『ちょっと、いろいろあってね。詳しくは言えないけど』
このクソガキに、私はお姉ちゃんだよ〜、と言っても通用しないどころか、本物の兄ちゃんを返せー!と蹴りたくってくるのは経験済みなので諦めている。私はこの、正義感の強い(そして女を見る目がない)翔という子供に微笑みかけると、彼の前から姿を消した。
私には、しなければいけないことがある。だから、この街を去らなければいけなかった。本当に彼に示した年に会うことができるかはわからないけれど、できるだけ努力しないとなぁ。
目を閉じると、翔と過ごした数年間が頭をよぎった。
『……おまえ、誰だよ』
『さァ。誰だろうね。だけどちびっ子、そんな所で泣いてたら邪魔だろう?てを貸すから、立ち上がりたまえ』
『……あり、がと』
『うわぁ……』
『な、に。君をいじめてたやつらをちょっと懲らしめただけだろう。怪我しない程度に背負い投げだ』
『すげ、兄ちゃん小さいのに』
『あぁん?んだとチビガキ。てめぇもちいせぇだろ。あと私は女だ』
『せけんてい、みたいな嘘だろ!おれしってんだぞ!』
『……』
『その女の姿って、ヨヲシノブカリノスガタってんだろ』
『兄ちゃん!』
『姉ちゃん言ってんだろくそがっ!』
『だって女ってそんな怖い言葉遣いじゃねぇもん』
『きれ……怒りますよ?翔くん?』
『うえ、気持ち悪』
『し、め、こ、ろ、す、ぞ!!』
『おれ、兄ちゃんとこに住む!』
『……』
『ちょ、なんで無言で下がるの!』
『私そんな変態じゃねぇよ!阿呆!』
『なんでそれでヘンタイになるんだ?』
『……』
『おれ………。やっぱ兄ちゃんのこと大好きだ』
『おいてめコラ』
『……嫌いなのか?おれのこと』
『好きだよ。可愛い子』
『なら、』
『それとこれとは話が別だ』
『…………』
『どうした、翔』
『おれ、生きてるの、辛い』
『例の病気かい?……辛いね、だけど、君がそんなこと言ってると、聴いてるこっちも辛い』
『おれがしんだら、悲しんでくれる?』
『いや、全然』
『…』
『だから、死なないでね』
『……!!』
翔、翔。なんとなくいつの間にか一緒にいるようになった、公園で会う可愛い男の子。いつしか私は、用事もないのに公園のベンチに座るようになっていた。
ふふ、翔。君の成長が楽しみだね。
続く。
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