※僕っ娘
「ねぇ、覚えてる?よくぼく達、不思議な遊びしてたよね。……もう君は忘れちゃったのかな」
私はあの人に向かってそう告げた。あの人は目を開けない。
「いつもやってた。王子の話。アグナパレスの昔話であったよな、世界を飲み込む恐ろしい魔獣と、世界を救う王子の話。きみはいつも王子で、ぼくは魔獣の役だった」
あのね、本当はぼくだって王子の役をやりたかったんだ。だけどね君をみてたらぼくはこれでいいのかなって思ったんだ。
ぼくじゃ、ない。
ぼくじゃ、ダメなんだ。
「国王様を見ていればわかるのですよ。ぼくではなく、君に期待している。ぼくじゃダメなんだ」
再三言い聞かせてきた言葉。ぼくは女だ。いくら男のように育てられたとしても、結局自分が女だという事実は変えられない。丸みを帯びるからだつき、育つ胸部。いくら布で締め上げてもわかってしまうそれ。
自分で自分の首を絞めたくなった。いらない子なんだ。と何度も叫んだ。遊びの時ですらもあの子を見て死にたくなった。だけど、死ねない理由があった。
「ねぇねぇセシルぅ…………」
返事をしないあの子の頬に、そっと手を添える。暖かくて、とても暖かくて……涙が出そうになった。
「ずっと起きないで。お願いだから、目を覚まさないで…。日本てとこから、戻ってこないで……今戻ってくればきっとミューズの子を連れてくる。したらぼく、君のこと、君のこと…」
意識だけを飛ばして、むこうで仮宿を造って魂を収めるという、高度な術を使ってでも身体をこちらに残したのは、きっとぼくが居るから。いつも君の後ろをついていった、君にとって弟みたいなぼくを置いていけなかったから。ね、そうでしょう。
このままあの子が戻らなければ、ぼくは毎日君の傍にいられる。あの綺麗な瞳は見られないけど、君がここにいる、それだけで安心できた。
「…………また、ここにいたのだな」
「…国王様、あの、すみません…」
「よい。仕事はしておるのだからな」
「……あの、国王様」
「どうした?」
「ぼくを殺しちゃダメですか」
「ああ、ダメだ」
「そーですか」
女として生きてはいけないかと言ったが、それが伝わったのか、伝わってないのか。国王である父は淡々と言った。そっか、一時とはいえ、仮の王子なんですからね。公共の場に出ることは無いが、書類など、やることは山積みだ。ぼくは以前、あの子からもらった時計を開いて時間を確かめると、ゆっくりと立ち上がった。
ぼくは、王子だ。この、アグナパレスのための。
(あいしてます。いとしいひと)
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