「好きです、好きです、好きです…」

「……うん」

「……なまえ、アナタになんと言えば気づいてくれるんですか」

「うん」

「なまえ………」

「…え?なっ、なに、セシル。もしかして何か言ってた!?」


なまえは耳につけてたヘッドフォンを外すと、慌ててセシルを振り返った。あまりにも慌てすぎて手からペンやら紙やらその他もろもろを取り落とすが、気にした様子は無くセシルに駆け寄る。

そんななまえに苦笑しながら、イイエ。と首を振る。


「なんでもありませんよ」

「なーんだ。あーびっくりした。もしかして無視してた!?って思ってさ。そっか、何でもないならいいや。……ちょうどいいし、休憩しよう。お茶用意するね」


ホッとしたような、でもちょっとだけ残念そうな顔をしたあと、なまえは台所へと向かった。寮のベッドに座って足をぶらぶらと遊ばせながらセシルはなまえを待つ。小さくため息をついた。


「怖い、です……。好きというのが」


ぽつりと呟く。もちろんドアを隔てて向こうにいるなまえには聞こえるはずもなく、作曲家志望だというのに調子っ外れの鼻歌が聞こえるだけ。シーツをくしゃりと握って天井を仰ぐ。ベージュ色の壁紙が目に入った。

優しい色だと思った。


「一体いつの間に好きになっていたのでしょうか。ワタシには分かりません……。でも、気が付けば好きだったのです」


自分の気持ちがわからない時は、普通に接していた。ハグもしたし、頬にキスもした。もちろんなまえは抵抗したが、純朴そうなセシルを見て渋々といった様子で受け入れてくれる。でも、意識しだしてからは何もできなくなった。


恋慕というものは、つくづく不思議なものである。


「セシルー。茶ぁ、イングランドな方とアメリカンな方とジャパニーズな方があるんだけど、どれだったっけ」

「今日はコーヒーでお願いします」

「はーい。アメリカンな方ね。気が合うなぁ、私もそっちが良かったんだ!」


グッジョブ、と親指を立てると、なまえはまた引っ込む。と、すぐに扉をあけて戻ってきた。手にはコーヒーの入ったマグカップと、クッキーが添えられている。


「ででーん。こないだ春歌んとこから貰ったお菓子!ふっふーん、心して食べるように。私が作ったわけじゃないが」

「美味しそうですね」

「でしょう!?もう、春歌は料理の天才!もちろんオカンも」

「真斗、ですか。ふふ、彼も上手ですからね」

「うむうむ。さてどうぞー」


ソファーに座ったなまえと向かい合わせに座り、クッキーを手に取る。一口かじると甘さ控えめの優しい味がした。なまえもクッキーをほおばり、ふわりと微笑む。


「おいしいねー」

「そうですね」

「ふふー。私、セシルとこうしてる時間が幸せかも」

「!!……私もですよ」


セシルもつられて微笑むと、一瞬だけなまえが目を見張った。すぐにふいと逸らされ、あはは。と苦笑する。


「私には、君が必要なのかもね」

「?」


ふふん。とどこか誇らしげに胸を張ると、コーヒーをすすった。セシルは立ち上がって抱きしめそうになる衝動を抑えながら、せめてとばかりになまえの目を見つめ、言い放つ。



「I NEED YOU.」









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