「ねぇ、ねぇ」
「んー、なんだー?」
「あの、さ」
音楽を編集しながら、私は隣で楽譜をペラペラとめくってたまぬい音取りをしてる我が相棒、来栖翔に声をかけた。疲れきったような、眠いという感情がにじみ出た返事が返ってくる。
ぽちぽちとやるせなくボタンを押してると、ふと思い立ったこと。いや、本当はずっと前から考えていたこと。
「もしさ、もしもだよ。私が貴方のことを好きと言ったらどうしますか」
「おう、俺も好きだと答えるな」
「そっか、ありがと」
にっこりと私は笑ってくるりと椅子ごと後ろを振り返った。設置してあるソファの上であぐらをかく翔を見つめ、泣きたい気持ちを抑えて紙を渡す。
「これは…?」
「春ちゃんからの、ラブレター」
私はそれだけ渡すと鍵を放り投げPCをシャットダウンさせてから部屋を出た。ねぇ、知ってた。君が好きと簡単に私に言えるのは、私が貴方の幼馴染だから。私が好きと言っても違和感なく答えてくれるのは、私をそういう目で見てないから。私の気持ちを、知らないから。
今日、渡してほしいと春ちゃんに手紙を受け取ってから私はじっくりと考えた。春ちゃんは、翔が好き。私も、翔がすき。じゃあ、翔は誰が好き……?
まっさきに消去法で消されるべきは私だった。だったから、私は最後のかけに出たわけです。今日の一日の間、タイミングを見て翔に好きだと言う。で、いつもどおりの反応だったら私は失恋確定。春ちゃんの手紙を渡しておさらばというわけだ。
「別に…あいつは私の気持ち知らないから、ギクシャクなんてしないし。私が我慢すればいいだけだし。春ちゃんに罪悪感、持ってもらいたくないし」
言い訳がましいセリフをはいて、私はレコーディングルームを振り返った。翔は追ってこない。フリーズしてるのか、帰る準備してから来るのか、いつものことだと思ってるのか。それとも、春ちゃんの手紙を、読んでいるのだろうか。
まぁ、わかっていることと言えばですね………。
今日が全ての、ラストチャンスだったということですよ。
「翔。大好きだったよ」
不思議と涙は出なかった。
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