「………、」
歌い終わると、私は静かに目を開いた。ここは早乙女学園内にある森、のようなところ。広いなぁ、と思ってて、歩き回っていたらいつの間にか迷ってしまいました。出る手段もわからないので…しかし待っていても暇なのであちこち歩き回っていたのです。するとどうでしょう、なぜか森の中に小さな湖があるではありませんか。
わお、びっくり。
というわけで私はそこで休みながら歌うことにしたのです。アイドルクラスですから歌えます、歌の練習です。
「……ははっ、気持ちいいや」
「……騒々しい」
「え?」
突然声が聞こえて振り返ると、そこには私と同じクラスのたしか、四ノ宮那月さんが立っていた。手には五線譜を持ってるところを見ると、四ノ宮さんも練習中だったのかな。それにしても……なんか声が違わないですか?
「…おまえ、まさか」
「え?」
「……みょうじ、か?」
「そですけど……って、わああああああ!」
そういえば、今気づいた。私かなり感情のままに歌ってしまったと。それを聞かれてしまった、よりにもよってなんかいろいろ素晴らしい四ノ宮さんに。かあぁ、と頬が熱くなるのがわかった。四ノ宮さんはそんな私に気づいているのか、気づいてないのかわかんないけど何故か寄ってくる。
「わひゃっ」
そのまま鼻をつままれた。ぜんっぜんかわいくない悲鳴が漏れる。綺麗な四ノ宮さんの顔がまじまじと私を見つめるので、あの、と不審感をあらわに声をかける。
「そっちの方が、いい」
「え?」
「今の歌のほうが、いつもより何倍もいい」
「え、えと………」
わからないけど、褒めてくれたのだろうか。ありがとうございます。と頭を下げれば四ノ宮さんはぷいとそっぽを向いてしまう。どうでもいいけど、鼻、痛いです。
「四ノ宮、砂月」
「……?」
「砂月、と呼べ」
「あっ、は、はい!」
それが彼の名前だと把握するのに、しばしかかったが、慌てたように頷く私を見て、満足そうに笑ったあと手をはなした。ちょっと痛い。
「それであの、砂月さんは那月さんと………。ううん、やっぱいいや。またここ来てもいいですか」
どういう事情があるかわからないけど、私のクラスメートに雰囲気さえ除けばそっくりな彼。詮索する気はすぐに失せて、その代わり彼とちょっと親しくしたいと思った。なんだろ、一目惚れ…?うーんわからん。ともかくそう尋ねてみると彼は、てっきり首を横に振るかと思ったけど、勝手にしろとだけ言い捨てて木に寄りかかって眠ってしまった。
「んーと………。あじゃます!」
私は冗談交じりの敬礼をすると、これ以上彼の昼寝の邪魔をしないうちに、とその場を去った。
また明日も、あの場所へ行こうと思った。
…そういえば私、迷ってたんだった。
――――
補足。
砂月は、授業の時の歌を「テンプレートな表現をしている」と思ってて気にもとめてなかったが、森での歌に「自由さ」を見つけて楽しそうだったからついつい声をかけた、的な。
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