「思えば、答えることのできない約束ばかりしてました」

「思えば、心無い言葉で誰かを傷つけたりもしました」

「思えば、みんなを騙していたことになるのかもしれません」


「それでも私は、あの場所で生きてみたかったのです」


少女は懺悔をする。閉じ込められた箱庭で、楽しかった一年間を思い出しながら。大切な人と過ごした一年間を思いながら。一心に懺悔をする。胸の前で組んだ手が細かく震える。


「いや…………。いやだよ、俺、いや」


乾いた笑みを浮かべると、首を振った。

もう"俺"である必要などない。少女は見つかったのだ。見つけられて、しまったのだ。自分を偽ってまで夢を追ったのだけれど、結局は箱庭の中の鳥だったのかもしれない。


「真斗…」


好きだということすら言えなかった。少女は男であったし、青年も男であった。どれほど悩んだか。身分をばらし、女であることすら話してしまって残り少ない青年との時間を本当の自分として過ごすか。自分の夢のためにいっときの感情など諦めてしまうか。

結局、少女が選んだ道とは。


「結局私は、自分の気持ちを捨て去りました」

「しかし私は何をしても逃げられないのですね」

「本当に……本当に後悔しているのです」

「せめて貴方に、好きだと告げたかった」

「貴方だけには、私を女としてみてほしいのです」

「ああ、ああ、ごめんなさい」

「好きでした。とても、好き、でし、た」


少女は泣き崩れ、涙で頬を濡らした。翌日、少女は見知らぬ男と婚約する。少女はひたすらに後悔した。どうして言えなかったのだろう、と。

窓すらなく、音すらなく、移動するものすらなく、ろうそくだけがふわふわと揺れるその部屋で、少女は叫んだ。


「出してよっ!!!私をっ、自由にしてよぉおおおおお!!!」

「嫌だぁあああああああ!私はっ!私は自由になりたいのよっ!ああああぁあぁぁぁあ!」

「……静かに」

「……え?」


ふと声が聞こえたと同時に、後ろから抱きしめられる。少女は恐ろしくなり身体をこわばらせる。しかしその声に小さな疑問を持った。


「だ、れ」


震える声で尋ねると、あの一年間に何度も聞いてきた、懐かしい優しげな声が降ってきた。


「俺だ………。真斗、だ」

「どうし、て…」

「神宮寺から聞いた。お前のこと、全て…。すまない、知っていたんだ。最初から、お前が女であることを」

「っ!!」

「言えば、迷惑になるだろうか………。好きだ、と」

「もう明日には私、婚約が…」

「破棄、してほしい。お前は、俺がもらいたい」


頬から、先ほどとは違った意味での涙がこぼれた。









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