「………頑張ったね」

「……ん」

「頑張ったよ、翔ちゃんは」


よしよし、と頭を撫でると、三角座りをしていた我が友人、来栖翔は顔を上げた。泣くまいとしているが長く一緒にいた私はわかるよ、泣きたいんだよね。


「翔ちゃんは、すごいね」

「ぜんぜん。好きな人すら振り返らせることできねぇし」

「ううん。すごいよ」


だって、好きだって言えたでしょ?本当に好きな人に、あなたが好きですって言えたんでしょ?
じゃあ、それってすごいことだよ。だってさ、私はそんなことすら出来ないんだから。

やろうと思えばできるんだよ?今彼を抱きしめて、あなたが好きですって言えないことはないんだよ。だけどね、言えないんだ。君のことを真剣に好きだから、こんな弱みにつけこむようなこと、したくないよ。


"私はあなたが好きだよ"


そんな一言すら言えない。飲み込んだ言葉の代わりに微笑みを吐き出すと翔ちゃんを優しく抱きしめた。


「私がいるからね。翔ちゃんはひとりじゃないよ。だから安心して新しい恋をすればいい」

「お前……。本当にいいやつ。俺、こんな親友をもてて幸せだ…」

「…っ、そう。よかったね」


泣きたいのはこっちだって一緒だよ。翔ちゃんが恋するたびに苦しくなるこの気持ちを、どこに捨てればいいのかな。鈍感な翔ちゃんは一生私の気持ちに気づかないんだろうね。でもそれでいいや、翔ちゃんのそばに、親友だろうがなんだろうが、居ることができるだけで、幸せなんだから。


多くは望まないから、私を捨てないで。






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