おはようございます。ただいま、真斗様を男子寮の前でお待ちしているところです。くせが抜けないのか4時に目が覚めてしまい、ひづきちゃんを起こさないように身支度をすませた。 軽く持参した本を読んで時間を潰してみるも、まだ6時だ。ここからは7時30分にでも出れば余裕で間に合うから、もう死にたくなるくらい時間がある。 くそう、夜ふかしでもして時間調整してみようかしら。 そんな馬鹿な考えを抱きつつ、そうだ真斗様を待てばいいんだ。なんてさらにアホっぽいことを思いつき、今に至る。 さすがに男子寮に入るほど根性はすわってないので(真斗様の危機ならば別ですが)普通に門の前で待機です。 しかし……。 (……暇だ) やはり、暇なものは暇なのです。時計を見ると、やっと6時15分。真斗様が起床する時間ですね。そして朝食を取って…。朝食を、 「あああ!!しまった、真斗様の朝食を用意しなければっ。いや自分で作るかもしれませんが、そこはアレです、私が行きたい!じぃになんかやらんぞこの役目は!」 そこまで叫んだところで、私の隣の壁が突然ベラリと剥がれた。そこから見知った爺が顔を出す。 「呼んだか?」 「呼んでません帰れ」 即答で返すと、その爺……じぃは傷ついたような表情になった。 「……そうか……」 「ああいや、じゃあじぃ。真斗様の食事をつくるので食材持って来てください」 「ふ、真斗様のためならお安いご用だ!待ってろ、すぐに買ってくる!」 (扱いやすいなぁ……) 同じ使用人の、しかし立場的にはぐんと上のじぃにそんな失礼なことを思いながら、私は再び壁に寄りかかった。 ちらりと壁を見、なぜ気付かなかったのかと眉をひそめる。あれは忍者か何かなのか。まったく、あの人の経歴誰か詳しく。 それからしばらく待っていると、じぃがデカい袋をいくつも抱えて戻ってきた。その時の会話は割愛し、袋を難なく受け取ると、ギチギチ言う手持ちの部分にあの爺なんて重さのもん抱えてきたんだと若干の恐怖を感じながら真斗様の部屋へ向かった。 男子寮?知るか、今は真斗様の食事の方が大切です。 重たい袋を持ち上げてノックをすると真斗様の返事が聞こえた。失礼します、とドアノブをひねって中に入る。 「おはようございます、真斗様」 「……あずま!?」 「はい、あずまでございます」 私の姿を見ると声をひっくり返して名前を呼んだ真斗様に、静かに頷いた。その間も私の手に袋が食い込んで痛いのなんの。しかし真斗様への愛で乗り越えようと思います、 ぶちん! 無理でした。袋の方が。 破れた袋から転がりでるリンゴと野菜の数々を見、次に私へ視線を戻す真斗様。 「あずま…………」 「…………はい」 「……何をしに来たか、聞いてもよいか?」 「……真斗様に、朝食を作りに参りました」 「そうか…とりあえず、食材を無下に扱ってはいけない」 「今すぐ拾います」 転がったパプリカに手を伸ばすと、それに別の人の手が重なる。ふと顔を上げるとレン様が上半身をこれ以上ないくらいにはだけさせて微笑んでいた。 「おはようレディ。聖川とのコントはもう終わったのかい?」 「真斗様どこにそのレディはいらっしゃいますか。あとコント言うな」 「神宮寺。うちの使用人を口説くな」 カッ!と怒る真斗様を無視して、(許すまじレン様)私の手に口付ける(さらに許すまじレン様)。 「せっかく可愛いレディが部屋に来てくれたんだ。おもてなしくらいしなくちゃね」 ウインクとともに吐かれた言葉に、ぞわりと鳥肌が立った。唇が触れたところを制服で見えないように拭き取って立ち上がる。 「真斗様に朝食を作りに来たのですが、レン様の分もお作りしましょうか?」 「おや、いいのかい?俺のことを敵視してるのに?」 「……同室の方の前で、自分の主だけに豪華な食事を作るような冷たい使用人だと言いたいのですか?」 「とんでもない。……ただ、意外すぎて」 「真斗様、よろしいですか?」 「まぁ、いいだろう」 真斗様の許可も出たことだし。制服の上着を脱ぐと、持参したエプロンというか割烹着を着た。レン様が目を丸くしていたが、スルーして調理に取り掛かる。時間が時間なのでそこまで豪華なものは出来ないが、真斗様の満足いくものを作れればそれでいい。 真斗様の好物を最低ひと品は入れ、和食テイストで作っていく。レン様の好みも聞いて、レン様用に味噌汁の代わりに適当なスープを作った。 朝は白米というのを譲らない私は、レン様がパン食だろうと朝だけは白米を食べさせる気でいたのだが、意外にも白米は好きとのことで、安心して用意ができた。 「さぁ、召し上がれ!」 レン様にはドヤ顔で、真斗様には使用人の笑みで並べていく。よくシェフさんに料理は教えてもらっていたから、旨いはず。うまくないと今までの約十年は何だったんだと叫ばせてもらおう。 「いただきます」 真斗様が食事をしている間に、ベッドメーキングくらいはしておこうとシーツのシワを伸ばした。改めて部屋を見るが、こんな不思議な部屋は初めて見た。 なんというか、見事に半分。 和風だったり洋風だったり、もうどうして間に仕切りがないんだろう。っていうくらいに、床までお互いの好みにわかれていた。 生徒の待遇がすごい。というか、よくここまでやったな早乙女学園。私たちの部屋が和風だからか、せめて分かれていても部屋ごとに和室、洋室程度だと思っていた。でも、本当にすべて生徒の好みに合わせているのね…。 早乙女学園、恐ろしい場所……。 「ご馳走様でした」 「あ、お粗末様でした!」 「美味しかったよ、レディ」 「ありがとうございます」 食器を片付けて洗い、テーブルをふく。その後ろで真斗様がレン様に、いい使用人だろうと得意そうに言っていた。否定するだろうと思っていたレン様が普通に同意したことは驚いたが。 褒められると気はずかしいものですね。 「ふふ、あずまは菓子の腕もすごいのだぞ」 「へぇ、それは一度ごちそうになりたいね」 「……私の、菓子ですか?」 二人して頷く。うーん、私の作る菓子かぁ。ふきんを洗いながら首を捻った。たしかに、シェフさんの代わりに作ることはあったが、そこまでの腕かはわからない。なんてったって、シェフさんの腕が尋常じゃないからね。一流というか、三ツ星以上でもいいと思う。 「そうですね、私のでよければ今度お持ちしましょう」 「本当か!」 「はい、真斗様。もちろんレン様の分も。アレルギーとか、苦手はありますか?」 「そうだね……。チョコレートは入れないでほしいな」 「了解しました。じゃあ今度、タルトでも。真斗様は和菓子ですか?」 二人分、違う品を作るのは面倒だが、真斗様のためだと思えば苦じゃないむしろ幸せだ。 「ああ、そうしてもらえたら嬉しいのだが……。大変ではないか?」 「いいえ、真斗様のためですから!聖川家の使用人として、これくらいはやってみせます」 言ってから、あ。と呟いた。そういえば使用人として振舞うのは一時ストップということになっていたんだ。おそるおそる真斗様を見ると、困ったように笑っていた。 「やはり、使用人をやめろ、は大変か?」 「い、いいえ!真斗様のためならそれくらい…ぅ、あぁ〜…」 「ははは。無理はしなくていい。だがせめて、俺以外には普通でいいからな。様付けもしなくて、お前の同僚のように話していいんだぞ」 「真斗様……。ああ真斗様!真斗様の広い御心に感謝します!やはり私が仕えるのは生涯、貴方だけです」 「………二人が仲いいのはわかったから、俺を空気にするのは止めてくれないかい?」 ぽぅ、と真斗様に見惚れていると、突如レン様の声が降ってきた。たしかに空気にしていた感が否めないので、すみませんと素直に謝る。 「というわけで、真斗様、レン様以外は努力してみますね。レン様は神宮寺財閥の御子息様ですので一応敬語はつけます」 「一応ってあたりに引っかかるね」 「私の主は聖川家、真斗様だけですので」 ドヤ顔で言い切ると、真斗様に制服を差し出した。まだ着物だったので、着替えを促す。 「では私は出ておりますので、着替え終わったらお呼びください」 軽く頭を下げて外に出る。のをレン様に止められた。 「いやいや、ここ男子寮だからね?女子が居るとなにかと問題だろう?」 「そうでしたね。……くぅ、いっそのこと男装して入学すればよかった。いや、性別から偽装して……むぅ、しかし難しいだろうな、相手は早乙女学園か」 「この子物騒!とりあえずレディはこっち」 腕を取られてレン様のスペースに引き込まれた。ベッドに座らされて、真斗様が見えないようにレン様が隣に座る。よしよし、と頭を撫でられた。 「……レン様って、普通にいい人?」 「あれ、今までなんだったの」 「真斗様の敵」 「う、うーん……敵、というか。とりあえず好きではないね。気に食わない。おっと、君の前でこういうこと言うのはあんまりだったかな?」 その問いかけに、いいや、と首を振るとレン様を見上げた。 「無理に仲のいいフリをされる方がムカつきます。陰口と同じです。そういうこと昔ありましたから。レン様は素直で素晴らしいと思います」 「そう…ありがと」 「いいえ」 「おい、いつまでひっついているつもりだ。神宮寺」 着替えを終えたらしき真斗様が、真斗様スペースから話しかけてくる。私は慌てて立ち上がってレン様に礼を言うと駆け寄った。 「真斗様、時間です。準備はよろしいですか?レン様も」 「ああ、大丈夫だ」 「俺はもう少ししてから行くよ。いくらレディがいるっていったって聖川と一緒は勘弁してほしいね」 「そうですか。ではお先に」 真斗様の鞄を持ったところで、自分の鞄を忘れたことに気がついた。途中で女子寮に寄ることを言えばまっててくれるとのことなので、お言葉に甘えてちゃちゃっと鞄を回収しようと思います。 真斗様との登校に若干のときめきを感じながら扉を開けた、その瞬間。 「わああぁあああ!」 誰かの悲鳴が聞こえたと同時に、身体に衝撃が走った。誰かにぶつかってしまったようで、私の身体は簡単にはねとばされる。 「あずま!」 地面に叩きつけられる寸前のところを、真斗様に支えてもらった。 「あずま、大丈夫か!」 「は、はい大丈夫でございます」 「翔ちゃ〜ん、待ってくださいよぉ〜…って、そこに居るのはあずちゃん?」 どこぞで聞いた声のような気がして、ついでに私をその名で呼ぶのは一人だけということで私は顔をしかめた。おそらく相手は四ノ宮那月様。私のパートナーなのです。 しかしぶつかってきた人は那月様ではないようで、とりあえず私はいつまでも真斗様に抱えられてるわけにはいかないので立ち上がった。ああもう真斗様素敵でございます。使用人の分際でときめいてしまいましたよ! 「え…なんで男子寮に女子がいるんだよ!」 「あずちゃ〜ん!ぎゅ〜!!」 「ごふぅ!」 那月様に強く抱きつかれ、無理無理助けて、と早くも朦朧としてきた頭で真斗様に助けを求めた。 気づいてないのか見事にスルーされてそのまま那月様との会話に花を咲かせる真斗様。ため息をついて、先ほど私について何か言っていた人を見た。 帽子を被っていて、あれ、爪が黒い。ネイルか。くりっとした可愛らしい目で、これヅラつけてスカートはかせたら性別不明だろうなぁ。と軽く失礼なことを考えた。 「あの、那月様…いい加減、はな、して…」 「ああ、すみません!大丈夫ですかぁ?」 「どうにか…ぐはぁ」 もうこの人危険人物だこんな人とパートナーやっていけるのかな。と真剣に考えてみた。うん、慣れるしかないのかな。 「おい、那月。知り合いか?そもそもどうして。ここ男子寮………だよ、な?」 「もし俺が男子だっていったらどうする?」 ニヤ、と笑って言ってみれば、ねぇな。ときられた。 「だってお前、スカートはいてるじゃん」 「でした」 一本取られた。と笑い、では!と真斗様をつれて逃げようとしたが、普通にあっさり手をつかまれてしまった。 観念するしかないようです。 「はぁ。初めまして、わたくしは聖川家の使用人、山瀬と申します」 「あずま?」 「真斗様、今はとりあえず」 こう言っていた方が問題はないだろう。そういう判断で私は使用人と名乗った。しかし相手は眉をひそめるばかり。 「……失礼ですが、貴方は?」 「翔ちゃんは翔ちゃんですよぉ〜」 「うるせぇ!俺様は来栖翔!Sクラス期待の星だ!」 「それは失礼いたしました。来栖様ですね。ところで那月様、真斗様、そして来栖様、そろそろ遅刻しそうなのですが…」 時計をチラ見してそう言うと、三人そろってあああ!と叫び、走り出した。青春ですね。と呟き私も後を追う。真斗様の鞄と、途中で女子寮に寄り、驚異的スピードで自分のものを回収して…。なんで朝からこんなに重労働なんでしょう、私は。 来栖様が途中で走るのをやめたため、私も足を止めた。 「どうかしましたか?来栖様」 「ああいや、ちょっと……」 「…来栖様、少々お待ちを」 前に言って真斗様に少々遅れることを告げると、那月様に鞄をたくし、来栖様の元へ戻った。 「来栖様、調子が悪いなら無理しない方がよろしいかと。顔色もあまりよろしくはないですね」 「ほっとけ。大丈夫だから」 「はい、深く探るようなことはいたしません。疲れたのですね。水筒、私のでよければどうぞ」 鞄に入れていた水筒を手渡して飲むように促すと、木陰に座ってもらった。遅刻はこの際気にしていられない。体調不良なのだから、言えば分かってもらえるだろう。 「最悪だ……発作が起きるなんて」 「え?何か?」 「いいや…。大丈夫だ、行こう」 「はい、来栖様。完全に遅刻ですが、まぁいいでしょう」 「…あの、よ」 「はい?」 歩きながらの来栖様の呼び掛けに、一歩後ろを歩きながら首をかしげた。 「俺の事は来栖様なんて呼ばないでさ、普通に翔でいいよ」 「翔様、ですか?」 「ちっがーう!そのだな、様とかつけんなっていってんの」 くるり、と振り返り帽子をなおした。そのまま後ろ向きで歩きながらいいだろ?とたずねてくる。 「翔…ちゃん」 「な、ん、で!よりにもよってちゃん付けだ!」 「っ、はは!あーもう、お前面白いなぁ」 「それだ!」 来栖様はびしっと指をさすと、ニヤリと笑う。わけがわからなくて、はい?と聞き返すと嬉しそうに言う。 「敬語ばっかり使ってないで、砕けた言葉も使ってみろよ。さっきのみたいでいい。って、初対面でここまでは望みすぎか?」 「……いーや。子供特有のフレンドリーってゆーか、友達作り精神は尊敬する何かがあるね」 「おまっ……」 「私、山瀬あずま。あずまって呼ぶといいよ、翔!」 「っ!わかった、よろしくな、あずま!」 そんなこんなで、お友達ができました。この調子で友達増やせるといいな。培養培養。青春くさいこととか、やってみたい年頃なんです見逃して。 来栖様、これから翔と呼ぶ彼には悪いけれど、彼の発作が出てよかった。あれがなければ帽子被った小さい彼という認識でしかなかっただろう。え、どうしてわかったかって?うーん分かったっていうか、あれだよ、聖川家の使用人ですからね。ある程度の知識はないとね。喘息あたりかな?意外と重い病気だったりして (おっそーい!もうっ、二時間目の途中で入ってくるとか、どうしたの!) (おせーぞ来栖!こんな時間まで何やってたんだ!) ―――――――――――― あれ、これ書いたのかなり前だ。うp忘れですねあはははははは。 日付訂正っと。 12.09.25 |