「よし、初日の出だ」 思い立ったと私は手を合せ、年を越したあと布団に潜り込んだ。枕元に水筒を忘れずにセットしてから。 「こっち側丁度東だし、見れるよ。皆で見ようね!だから四時に起こしてぐぅ…………」 「寝るのが早すぎではないか…」 「可愛いですねぇ〜」 「貴方たち、早く寝ますよ。明日…いえ、今日は早起きなんですから」 「あー、じゃあ俺は起きてるよ。そうだね、本でも読んでいようか」 「……その手はなんです?レン」 「そこに積み上がってる一番上の本でいいよ、貸して欲しいな」 「…はぁ。わかりましたよ。ではどうぞ。静かにしておいてくださいね」 「はいはい。それじゃあ四時になったら時雨を起こしにいくかな」 「手は出さないように」 「まさか。身長差が激しすぎるからね」 「………そうですか」 「おやすみ、イッチー」 「おやすみなさい、レン」 ぽやぽやとする気持ちの中、そういえば今日は早起きだっけ、とまだ働かない頭がそんなことを考えていると、枕が軽く揺れた。やっほー、とか朝だよー、という声が聞こえる。むぅ、と私は身を丸めた。 「まったく、こまったレディだ。これでも起きないなら俺が、」 「レン黙りなさい。ほら時雨さん、朝ですよ目を覚ましてください」 ………レンくんやトキヤくんの声だ。むくり、と私は身体を起こした。トロンとした目で視線を移すと、枕でぽよんぽよんジャンプして遊んでいる翔くん音也くんを見つけた。なっちゃんは……まだ寝てる。真斗くんは髪を手ぐしで梳かしてるし、レンくんとトキヤくんは机の上で言い合いながら私を見てる。 ハッとして私は顔を覆った。 「ね、寝起きでした……。見た?」 「もちろん。とろんとしてて可愛らしい顔だったよ」 「シャラップレンくん黙りなさい」 枕元の水を飲むと目元をこすった。目やについてたらどうしよう、いつもは彼らより早く起きるけど、今日は先に寝ちゃってたんだった。うわあ恥ずかしい。 「そ、そうだまだ日は登って……ない。よかった間に合ったわぁ」 おもむろにクローゼットから服を取り出すとボタンをプチプチと外していった。ばさりとシャツを脱いだところで後ろから叫び声が聞こえる。 「わぁああああ何やってんだお前ぇええええ!」 「わああああああでも何か見ちゃう!」 「ああああああそうだったぁあああああ」 やばい、さっきパジャマ下のシャツ脱ぐとき下着が見えたかもしれない!やだどうしよう!そして後者はあれか、音也くんか。音也朝飯抜き。 「……ほら、あれだよ、水着着てるって思えばそこまで苦じゃないよ」 「みずいろ、」 「黙れレンくん」 ぎゅむ、と机の上のレンくんをつまみ上げて頬をつつく。ちなみに今はしっかりとシャツ着てます。慌てたからうしろまえだけど。いいよ後で廊下で着替える。 「と、とにかく……なーっちゃん、おーきーてー」 うふ、とハートマークがつきそうな勢いで声かける私。反応してううん、と寝返りを打つ彼が可愛くて抱きしめたくなった。でも朝起きていきなり抱きつかれるのもアレかと思って握ったまんまのレンくんを代わりに抱きしめる。 「なっちゃん……かわいい……。ほ、ほらー、起きないとダメですよー」 こちょこちょ、と指でお腹をくすぐると、やっとなっちゃんは目を覚ました。私の指を確認すると、素敵な可愛らしい笑顔で抱きついてくる。 「シグちゃん、おはようございます〜」 「おはよー。もうなっちゃんってば可愛い!天使!お嫁においで!」 「お婿さんなら行ってあげますよぉ」 「時雨、光が見えてきたぞ。カーテンを開けなくていいのか?」 なっちゃんと戯れる私に真斗くんは申し訳なさそうに声をかけてカーテンを指さす。おっとと、忘れておったわい。 「よいしょおおお!」 「……年寄りですか」 「うるさいトキヤくん」 掛け声と共に身を乗り出してカーテンを開ける。きらりと眩しい光が顔にあたった。 「ほら音也くん翔くん、上がっておいで初日の出だよ!」 「「わかった!」」 手馴れた感じに登ってきた二人を交えて、六人プラス私の七人で太陽を眺める。 神々しいね、と私が呟くと翔くんが何かお願いしようと言い出した。悪くないと思った私は、とりあえず手を合わせる。あとで神社にも行くけれど、今は今でお願い事をするんです。 「……」 お願い事の最中、ちらりと皆を見てみると意外と真剣に手を合わせていたので、小さく笑ってしまった。なんか、変な気分だ。 もちろん、初日の出を見たあとは三社参り。近所の神社と、ちょっと遠出して残り二つ。おばとやるおみくじバトルが楽しみでなりません。今回はおばも同行するため、六人は家でお休み…なはずだったんだけど。 「…んっとーにごめん!」 「い、いえ気にしないでください。ねーさんも仕事が忙しいわけだし、こんな時くらい友人と楽しんできてくださいよ」 「ホントにごめんね!長い付き合いだった子だから」 「気にしてませんってば。それに、今はひとりじゃないですし」 「…え?」 「ふふん、ほらほら、お友達待ってますよ、準備しないと!」 そう、彼女は友人と三社参りということになったのだ。友人は私も誘ってくれたけど、折角だから私なんて入れずに楽しんできて欲しい。そう思って辞退したらこんな風に謝り倒されたわけなのです。 いやほんと気にしなくていいのに。 「…というわけで、君たちも一緒に来る?」 一人でお参りもアレだし、この時間帯だったら近所の方はまだすいているはず。コートのポケットでよければ入るよー、なんて冗談めかして言うと、音也くんがノリノリで手を上げた。 「俺行くー!連れてってよ」 「音也が行くなら俺も!」 「翔ちゃんが行くなら僕も付き合いますぅ」 「では俺も参加だな」 「おやおや、珍しいな聖川」 「神宮寺こそ。……来ないのか?」 「行くに決まってる。イッチーもだよね?」 「いえ、私は……」 「よし、皆で行くか。トキヤくんも強制です。来ないと今日からぼっちくんに名前が変わります」 「………仕方ないですね」 こうして皆を確保したところで財布と時計、一年間お世話になったお守を持つとコートを着た。ついでにマフラーも巻く。だって寒いの嫌いだもん。 「じゃ、レッツゴー!」 「「いえーい!!」」 ぐっと拳を突き出すといつもの二人が合いの手。楽しいなぁ、と笑いながら私は家を出た。 「っ、寒いなぁ…………」 「はぁ、風邪をひかないように気を付けなければ…。喉を壊しますよ」 「そっか、皆アイドルさんだもんね。あぁ、だったら無理やり連れ出したの悪かったかな…」 私はよかれと思って連れ出したとしても、一応トキヤくんは嫌がってた、というか家に居ると言ったわけだし、もしかしたらこれで体調を崩してしまうかも。 うわぁ、反省。ちょっと自己中心的すぎたかなぁ。 しゅん、としてるとトキヤくんがため息をついた。 「なにを落ち込んでいるのですか。ああ、どうせ自分が無理やり連れ出したせいで私たちが風邪をひいたらどうしよう、なんてこと考えているのでしょうね。気にすることはありませんよ、体調管理くらいそれなりに出来ます」 「トキヤくんすごいね」 「貴方が分かりやすいだけかと」 「失礼な。置いて帰るぞ」 「すごく困りますね」 「……ぷっ、ははっ」 お腹痛い、と笑いながらお腹を抑える。なに変な会話してるんだろう。見れば音翔コンビも笑ってる。……音翔コンビ、うん悪くない。嘘ですごめんなさい。 「おお、ついたついた。ってガラ空きじゃん!」 正月だというのにガラーンとしている神社。朝早いせいもあるかもだけど、昼にもなってこのままだったらあまりにもこの神社可哀想。 「でも、こういう神社の方が御利益ありそうですよねぇ〜」 「なっちゃんプラス思考!よしその考えいただきっ」 「しっかり手は洗うようにな。手順を間違えないように」 「真斗くんが教えてくれればいいと思うよ!」 「ふむ、それもそうか」 真斗くんは神社とかそういう作法詳しいのだろうか、丁寧に教えてくれた。なんだっけ、二礼二拍一礼、だっけ、そんなのまで丁寧に。来年まで覚えていられるか分からないけど、一つ知識がついたと喜んだ。 「よぅしみくじだ!皆も引く?」 「引きたいけど…届かないですねぇ」 「そっか。…あー、なんかごめん」 音也くんも翔くんもしょんぼりしてる。そっか身長が足りないのか。残念だなぁ、と呟いてから私は五十円を入れた。 「どっ、れっ、にっ、しっ、よっ、うっ、かっ、なっ、かっ、みっ、さっ、まっ、のっ、みっ、こっ、こっ、ろっ、のっ、まっ、まっ!」 「なげぇよ!」 「翔くんナイスツッコミ。自分でも長いと思った。さぁて、今年の運勢は〜〜〜〜〜」 でけでん! 「…」 「時雨?何故無言で握り締めているんだい?」 「みくじで大凶を引く人を始めて見たな」 「真斗くん、………私心が痛いの」 「よしよし、お前は強い子だ、前向きに考えるんだ」 真斗くんに励まされて、私はもう一度紙を開いた。大凶なのは変わりないが、めげずに文章を読んでいく。すると、大凶は大凶でもそれなりにいいことが書かれていた。 「やった!これいいんじゃない!?どうよ真斗くん」 「ああ!よかったではないか、時雨!」 「きゃっほい!大凶ねーさんに見せびらかそう!ドヤ顔で!」 その後は普通にお守を買って帰ってきた。遠出するのはねーさんの車なしではキツいので取り止め。そのかわり家でおせちをつついたり、皆でおしゃべりしたりと比較的のんびりとした、つまりいつもと変わらない普通の日を過ごした。 ―――――――――――― 大凶なんて引いたことない私ですが。 半吉なら引いたことあるんですけどねえへへへへ。 半吉ってすっごい微妙ですよねフリーズした気がする。 12.04.22 |