「翔ちゃん遊びましょー」

「わああ離せ那月ぃい!」

「こ、こらこら首絞めないの」

四日目の朝です。結構慣れてきたもので、彼らのことも少しずつだけど分かってきた気がする。四ノ宮くんは来栖くんのことが大好きなのか、ご飯のときいつも隣に座ってるし、食べ終わったらぎゅーって抱きついてるし。

いちいち反応する来栖くんも可愛くて、ああたしかに四ノ宮くんじゃなくても抱きしめたくなるかもなぁ、なんて思ったり。

そんな彼らと今日は、隠れんぼをするのです。私は小さなお人形で参加。

「わぁ〜、可愛らしいお人形さんですねぇ。シグちゃんそっくりです!」

「へへっ、昔友達に作ってもらったものなんだ。私のお気に入り。どうよ来栖くん!」

「小さい頃のお前ってこんなに可愛かったのか…」

「っ、いやほらほら、デフォルメみたいな、あれ、ええと、うん、まぁそんなのだよ来栖くん!もう照れるなぁ!」

ばしばしと人形の手で来栖くんを叩くと、うわっやめろよ!なんて言ってジタバタと抵抗する。隠れんぼする前からどこかに隠れちゃいそうな勢いだな。

「じゃあ四ノ宮くん、来栖くん、私、だれが鬼?」

「時雨!」

「私かよ」

「それでさ、お願いがあるんだけど……」

「え?」

来栖くんは何か言いにくそうにしてたけど、ぐっと拳を握って私を見た。

「制限時間十分で俺ら二人を見つけられなかったら、俺らのこと名前で呼んでよ!」

「はぃ!?わっ、私が!?」

「ダメ、か?」

「僕からもお願いしたいです〜……」

二人からキラキラとした目で見つめられ、私は逃げるようにいいよと呟いていた。

「よっしゃ!約束なっ、絶対だぞ!」

「ふふっ、はいはいわかりましたよ」

彼らを名前で、かぁ。翔くん、那月くん…………。うん!仲良しって感じがして悪くないかも。私が勝っても、名前で呼ばせてもらおう。

「じゃあ、数えるね!いーち、にーい…………」

範囲は居間と一ノ瀬くんお気に入り(?)のプチ書斎。テレビ前のソファーに座って目をつむりながら三十を数えた。ぱたぱたと足音が遠ざかっていく。十分で彼らを見つけることは出来るのだろうか。隠れる用に準備した人形は今はお休みだな。ソファーにそっと人形を置くと三十!と叫んだ。

「さて、どこかなぁ〜」

小さい二人を見つけきるかは不安だけど、タイマーをセットしてぐるりと部屋を見回した。

「四ノ宮くーん、来栖くーん、どこにいるのかなー?」

中学のころ職場体験で園児たちとやった隠れんぼを思い出しながらあちこち見て回った。机の下とか、座布団の下とか、食器棚とか。部屋には居ない、と見切りを付けたのが丁度五分たった頃。プチ書斎に私は足を向けた。

「あと五分かー……。やばいやばい」

勝負に負けるのはなんとなく悔しいため、最後まで粘ってみよう。積まれている本の後ろとか、引き出しの中とかあちこち探す。小さいから普通の人間よりもはるかに隠れる場所が多過ぎるんだよね。

「あと三分」

むりむり、ほんとドコいるの二人とも。

「ちびっちゃいと探すの大変…」

「チビって言うなぁああああ!………」

「「あ」」

呟いた瞬間、来栖くんが電気スタンドの裏から飛び出してきた。

「………わかるよ、その気持ち」

「……おぅ」

「明日から牛乳も準備しようか?」

「…乳製品は好きだ」

うわーい見つけられたのはいいけどすごい微妙な心境…。

「………ごめん、来栖くん」

「………気にすんなって…」

ピピピピピピ……

来栖くんを抱きかかえ頭を撫でているとタイマーが十分経過を告げた。しまった来栖くんに夢中になって時間のこと忘れてた。

「やった!俺らの勝ちだな!」

「わぁー、負けちゃった……ショック」

自信あったのに…。ところで、四ノ宮くんは一体どこに隠れているんだろう。

「四ノ宮くーん、どこですかー?」

「那月ー、もう終わったぞー」

来栖くんと一緒に四ノ宮くんに呼びかける。そうしながら居間に戻ると

「ここですよー」

そんな声が聞こえた。

「うそ、居間にいたの!?どこどこ!?」

「ここですー、翔ちゃん、シグちゃーん」

まさか、と思ってバッとタンスの上にあるぬいぐるみが沢山入ってるかごに目を向ける。四ノ宮くんは、ひよこのぬいぐるみに抱きつきながら手を振っていた。

「うっわ…全然気付かなかった。どうやってのぼったし」

来栖くんを乗せた手とは反対の手に四ノ宮くんを乗せるとソファーに座った。

「えへへー。頑張って僕たちを探してくれるシグちゃん、すっごく可愛かったですよ、一生懸命、って感じで」

「っあああああもうなにこの天然!恥ずかしい可愛いって言わんといて!」

天使のごとき美貌で微笑まれ、手乗りサイズのくせにときめいてしまう私。なんだこれなにこの天使!

「もう………そこらのアイドルより可愛いじゃない」

「まぁ、これでも俺らアイドルだしな」

「あらーそうなのー?さて、次は……いやちょっと待て聞き流すところだった。え、何、アイドル?」

「あれ?言ってませんでしたっけ、僕たち六人、グループアイドルとして最近デビューしたんですよ。歌って踊れるアイドルさんです」

「………」

なんとなく六人が綺麗すぎる理由がわかった気がした。たしかに皆、声いいし一十木くんなんか初日に歌ってくれた歌すっごい上手だったし。

「まじ、ですか」

「マジだぜ!でもこっちには俺ら居ないみたいだな…」

「うわ、住んでる世界がガチの方向で違うんですね」

「シャイニング早乙女、っていうスーパーアイドルが学園長をしている学園で一年間、アイドル修行をして……」

三人してソファーに座ると、四ノ宮くんと来栖くんが彼らの世界についてそうやって教えてくれた。彼らが小さいのはどうやら彼らをこっちに寄越した人の配慮らしい。大きいままだとある意味怪しまれるし、こうやって二週間も泊めてくれない、だとか…。

(いやそれ多分私だから二週間も泊めてあげることができたんだと…。他の家にやったらいろいろと問題が……)

言うに言えないので心にとどめておくことにします。飛ばされたのが私の家でよかったね、本当に。

グループを担当する作曲家さんは、同じ学園出身の仲良しな女の子らしい、たしか七海春歌さん。私と似たような年齢なのに作曲できるなんてすごいな。

会ってみたかったけど、もう一人いるアイドルの女の子と一緒に別の場所に出かけているらしい。

「さて、というわけでこれから僕のことは名前で呼んでくださいね。なっちゃん、でもいいですよ」

「俺は翔でいいぜ!そのかわり俺も時雨って……いや、その…」

「…ははっ、オーケー、オーケー!約束だもんね、なっちゃんって……なんか可愛い呼び方。よろしく、なっちゃん、翔くん」

私も時雨って呼んで?と笑うと、翔くんは真っ赤になって頷いていた。なんだろうこの反応に親近感。

「僕はいつもどおりシグちゃんですねぇ」

「照れるけどね、その呼び方。さて、続きでもしますか!翔くんの鬼でっ」

「なっ、俺かよ!」

「さ、隠れるよなっちゃん!」

「わかりましたっ!じゃあまた後でね翔ちゃーん」

その後は人形片手に二人と夕方までたっぷりと遊びましたとさ!

夕食中、六人に隠れんぼの時聞いた話をすると、たしかにそうだと頷いた。すごいな、よく考えればアイドルさんと一緒に生活してるんだ……。小さいけど。

そしてなんと!!明日は皆が歌ってくれるそうです。聞いてもらいたいんだ、なんて音也くんが声をはずませる。

そうそう、皆のことはめでたく……めでたいのかわからないけど、名前呼びになりました。なっちゃんや翔くんのことを呼んでいると音也くんが反応して、なら俺も!…といった感じです。意外なのはあの一ノ瀬くんまで名前呼びを許してくれたことです。レンくんにつつかれながらだったけどね。本格的に仲良くなってまいりました、私のテンションも上がってきますね。

ああ、明日が楽しみすぎます!どきどきわくわくしながら私は布団に潜った。


――――――――――――
私の家をモデルに考えているので、なっちゃんここに居たら可愛い的な場所に隠れさせてみた。うーん、あの人形の中に隠れられたら見つからないわ…。うん。
めでたく皆を名前呼び!ただしトキヤは一ノ瀬の方が呼びやすいという不思議。
12.04.06



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -