「レディにはこれが一番似合うと思うな」

「いやいや、ここはこっちの方がいいだろ。ワンポイントに抑えるのが綺麗なんだよ」

「……まだもめてるんですか」

「あはは、まぁまぁ。二人とも楽しそうだし、いいんじゃないかなー?」

ため息をつくトキヤくんを、私は笑ってなだめた。今は朝の11時。あれからもう三時間近く経過したのか、そしてこの店に来てから一時間経過。と時計を見て少し驚いた。

「おちびちゃん、これは譲れないところだよ」

「俺こそ譲れねぇな。時雨にはこれが似合うんだって」

「いーや、こっちだね」

「終わんないね」

「すみません…」

「気にしないで。三人が楽しそうで嬉しい」

とは言っても、流石に服屋で(レンが常連と化してるすごいところ)小一時間着せ替え人形となるのは飽きる。トキヤくんが話し相手だとしても、だ。

さて、一体どうしてこうなってしまったのだろう…。と暇つぶし程度にぼんやりと思い出してみるのだった。あれは、朝起きたばかりの頃だろうか。

「ねね、起きてる?時雨、起きてるー?」

「んー…。音也くん?」

「俺もいるぞ!」

「翔くんもか……。ちょっと待って、顔洗ってから開けるー」

扉に向かって叫ぶと、りょうか〜い、と見事にハモった声が聞こえた。急いで顔を洗って寝癖を直し、ついでにパジャマから高速で着替えると扉を開ける。途端に音也くんに抱きつかれた。

「時雨ー!ねね、今日はなにしよっか!」

「うん、音也くんが離れたら考えようか」

「えー」

「だって恥ずかしくて頭回んないよー。ねー翔くん」

背中に回された腕をはがしつつ翔くんに同意を求めると、頬を染めながらコクコクと頷く。ああ可愛いなと思ったのは秘密にしないと怒られそうなので、何も言わずに音也くんを押しのけた。

「ここはホテルの廊下だから、だめ。そして他の皆は?」

「ああ、そうだった。お前を呼びに来たんだ」

「どこに?」

「俺たちの部屋」

「おっけ。すぐ行くね…。408?」

部屋の番号を尋ねると、そうだよ、と音也くんが笑う。はやく、はやく、と子供っぽく手を引く二人にきゅんとしながら(きっとこれは母性本能)引かれるままに部屋へと向かった。

ここのホテルは、まぁかなり高いところで(階数とか値段とか、その他もろもろ…)そこに泊まるのは腰が引けた。しかし場所を提供した真斗くんはなんてことないという顔でチェックインを済ませてしまい、その他メンバーも当たり前というように、真斗くんに礼を言ってから部屋に向かってる。

遠慮するな、と言われてもやはり私と彼らとじゃ色んな感覚が違うのね…と実感した瞬間であった。

そういえばレンくんと真斗くんはどこぞの御曹司とやららしいね……。アイドルって、おま。

「おーい、時雨、連れてきたぞっ」

「時雨ご案内ー」

広々とした部屋、とても綺麗な景色が見える窓。しっかりと整えられたベッド。

「トキヤくんの部屋だね。たぶん」

「ええ、私の部屋ですよ。よくわかりましたね」

「だってほら、すごく…うん、ピッシリしてるもの」

ソファーに座ってた四人におはよう、と挨拶するとそれぞれの返事で返してくれた。そしてさも当然というように、座ったソファーの両サイドに音也くんと翔くんが座る。音也くんは本当、人に懐いてる子犬みたいに私の腕にからみついて嬉しそうに笑う。トキヤくんに怒られたけど、気にしてないのか離れる気配はない。

「まったく。あなたという人は」

「いいですよ、トキヤくん。まぁ、可愛いですし」

「えー、俺可愛いより格好いいって言われたいー」

「そういうところが可愛いの!で、今日は何しよっか」

「そのことですが、すでに決めてあります。午前はそうですね、私たちと貴方の洋服でも選びに行きましょいうか。もちろん、プレゼントです」

私たち、と言って指差したのはレンくん、翔くん。おそらくトキヤくんも入るから、たしか高校の頃のクラスとやらで分けたんだと思う。

というか、え、プレゼント……?

「そんな!悪いよ……」

「では貴方はずっとその格好のまま過ごされるつもりで?」

「……。えーと、でも」

「気にすんなって!昨日も言ったろ?世話になった分を返してるだけだって」

翔くんに言われれば他のみんなからも頷かれ、私は照れながら礼をいった。服選びは、ファッションに自信のある翔くんがノリノリなようで、予定を決めたらレンくん御用達の場所に行くらしい。

ちなみに、午後からはなっちゃん、音也くん、真斗くんと街を散歩という予定だ。

アイドルが散歩なぞして大丈夫か、と思ったが変装でもするから大丈夫とのこと。軽いな、アイドルそれでいのか。…いいらしい。



「…、……、時雨ってば!」

「おぅわ!び、っくりしたー」

「目を開けたまま寝るなよ、呼びかけても反応ないから驚いたぜ」

「ごめん、ちょっと考え事してた」

目の前で手を振ってた翔くんにごめんと謝ると、何故か困ったような顔をされた。

「その……ごめん。今レンが会計してるんだけど、その…俺たちばっか楽しんでて時雨のこと考えてなかった」

「そんなこと、」

「まったくですね」

「トキヤくん!?」

隣の椅子に座ってたトキヤくんは、腕を組みながら翔くんを見る。もしかして、ちょっと怒ってるのだろうか。

「…罰として、残りの一時間はしっかりと時雨をエスコートしなさい。レンにも言っておくように」

「あはは……なかなかトキヤくんは厳しいようで」

「時雨の代弁をしたまでですよ?」

「ちょっと、まるで私が二人に困ってるみたいじゃないの!」

「ふふふっ」

「うわー、トキヤくんいつの間にそんな子になったんだよ」

その後は、戻ってきたレンくんに服を渡され、服を着替えてから街へとくりだした。このままの流れだと昼ごはんまで豪華なブツになりそうな会話をしてたので、無理やりファミレスへと連れ込んだ。財布は持って来てるが、きっと払わせてくれないだろうからいっそのこと滅多に食べないもの食べようということでスパゲッティとパフェとアイス。

「太りますよ」

「煩いトキヤくん!たまのご褒美だからいいの!」

「アイス一口もーらいっ」

「んなっ!?ふ、ならばこちらはそのポテトをもらうぜっ」

「あああ俺のポテトぉおおお!」

「おちびちゃん隙有り」

「あ、また俺のポテト!」

「レンくん、GJ」

「貴方たち…」

頭を抱える翔くん、からぶんどったポテトをもぐもぐと食べるレンくん。に向かってぐっじょぶ、と親指を立てる私、に呆れ顔のトキヤくん。

なかなかに面白い組み合わせだな、とパフェだけは死守せねばと器を抱えて食べる私は、ニマニマと笑った。

――――――――――――
次は待ち合わせした場所でメンバーチェンジして街へ繰り出します。前半ぐだぐだは許してくだしあ。

12.09.22



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