「おままごとがしたいですー」

なっちゃんの、何気ない一言でこの物語は始まった。



「シグちゃ〜ん、いってらっしゃいのちゅーしてください」

「ええっ!?わっ、私がっ!?」

「ほらほら、はやくー」

(くっ、確信犯!?天然!?どっちなのぉお!)

おままごとで家族ごっこをすることになった私となっちゃん。そして、翔くん。翔くんの場合は、死なばもろとも!と、逃げ回るのを捕まえて強制参加って感じですが。

それで、役は、私がママ、なっちゃんがパパ、翔くんが息子さんらしいです。なんだか、とてつもなく恥ずかしい構図ですが、翔くんとなっちゃんが親になるとそれはそれで怪しい関係の出来上がりになっちゃうので。

健全な、むしろいろんな意味で健全すぎる二人を汚せない!と、泣く泣くママ役を。人形で参加という、まぁ可愛らしい方法ではありますが。

こうしているとミニ家庭みたいでとても楽しいです。

そういえば、ままごとで一番身につくのが社会性って言っていたなぁ。社交性だっけ?まぁどっちでもいいや。小さい頃、はまっていたなぁ。

「ほぅ………」

ため息をつき、はるか過去へ思いをはぜていると、つんつんと人形を引かれた。ちらりと見やると、なっちゃんがウルウルとした目でこちらを見上げている。

「シグちゃんからのちゅーがないと僕、頑張れそうにないです…」

「うっ」

「アイドルとして生きてる僕だって、妻の前ではただの男なんですよぅ……。ちゅーしてほしいですぅ…」

演技派ななっちゃん。どうやったら一瞬で目をうるませる事ができるのか、是非伝授していただきたいところですね。

「わっ、わかった!わかったからそんな捨てられた子犬のような目で見ないで!」

人形を動かして、なっちゃんの頬に顔を近づける。ぷにっ。となっちゃんの可愛らしい頬が形を変えた。自分がしてるわけでもないのに、なんとなく恥ずかしくなって私は寝転がったまま床に顔を伏せる。

「あぁ〜!もう!」

「ああもう、はこっちのセリフだっての!んだよその甘々な雰囲気はっ」

「家族ですもんね〜。じゃあ行ってきますねシグちゃん」

「いっ、いってらっしゃい………」

だんだん語尾が小さくなり、最終的にはごにょごにょと誤魔化したような呟きだけがもれる。翔くんはそれにため息をつくと、私に…もとい、人形に抱きついた。

「しょっ、翔くん!?」

「俺、子供だから甘えるんだし」

「何歳設定よ!」

「何歳がいい?子供だったら甘えられるし、それなりに大人だったら那月がしないようなこともしてやれるぜ…?」

「っ…!」

人形ではなく、私に向かって挑戦的な目を向けた翔くんは、妖艶に笑った。いっつも元気な彼からは想像もできないような色気が見えて、ばっと顔が赤くなる。

アイドルだけあって、色気の放出もお手の物だったりするのかな……。

「ね、どうする……?ママ」

「ぐはっ!」

やややややややや、やばい!どうしよう、相手はこんなにちっちゃな子なのに、動揺してしまうっ!

唯一のすくいが、彼が手乗りサイズってことなんだけど…それすら忘れちゃうくらい引き込まれそうになった。信じられない。翔くんは純粋なハズだ。そんな脳内真っピンクよりも脳内お花畑が二番目に似合うはずなんだ!!

きゃあー、と悶絶していると、翔くんがふっと微笑んだ。

「ばーか。冗談だよ。そうだなぁ、この際だから子供っていう立場を利用して存分に甘えちゃうか!」

「うぅ………そうしてください」

「むぅ…なんか納得いきません〜。僕が置いてけぼりじゃないですかぁ」

「なっちゃんは仕事中!」

「だったら翔ちゃんも学校とかですよ!」

「へっへーん。今は冬休みで学校ないんだし。ねっ、まぁま」

そういって人形にぎゅーっと抱きつく翔くん。なんとなく可愛いなんて思ってしまった。

なっちゃんが仕事(のフリ)してる時間は、翔くんがベッタベッタに甘えてくる。母さんの手料理食べたい、だとか、一緒にお昼寝しよう、だとか、宿題ちょっと手伝って、だとか。なにかにつけて一緒にいようとする翔くん。

こんなに構って欲しいオーラだしてる子供なんてめったにいないと思うけどな。特に翔くんの年とかになると、親離れしそうじゃない?

きっと翔くんはパパやママが大好きなんだろうなぁ、なんて思って存分に甘やかしておいた。

私にパパやママが居たら、翔くんと同じようなことしてた。抱きついたり、本読んでもらったり、宿題手伝ってもらったり、一緒に料理したり!買出しまで一緒にしちゃったりして。

もう私には叶わない願いだってわかってるから、せめて今だけ。ママ役だけど、こうだったら喜ぶだろうな、なんてことをしてあげたいねぇ。

「ただいまですぅ〜」

「おかえりなさい、なっちゃん!ご飯出来てますよー。お風呂も沸かしてます。どっちにしますか?」

「まずはおかえりのちゅーが欲しいなぁ」

「はいはい…ふふっ」

人形と割り切っていると楽なもんで、なっちゃんの頬に人形を当てた。とその時、ちょっと手がぶれてなっちゃんの眼鏡にあたってしまう。

かしゃん、と音がして彼の眼鏡が落ちた。

「…………」

「あっ!ご、ごめんなっちゃん!眼鏡割れてない?大丈夫!?」

「な!?那月の眼鏡がはずれた!?まずい、今すぐそれをかけ……ろ?」

ベッドで寝たふりしてた翔くんが起き上がってそう叫ぶが…最後に小さく首をかしげた。

「僕は大丈夫ですよ〜。それよりも、疲れましたぁ」

えへへ、と笑うなっちゃん。翔くんは肩透かしくらったような顔でなっちゃんを見ていたが、気のせいかと言ってまた布団に潜った。一体何事なのかと気になったが、それよりも先になっちゃんの手に引かれて食事の準備をすることとなった。

「さて、ご飯もお風呂もすませましたねぇ」

「ん。そうだね!」

「シグちゃん。今日は一緒に眠りませんか?」

「ええ!?…うーん、まぁいいよ」

人形だしね、と付け加えて、ハンカチを折りたたんだだけの簡易布団に潜り込んだ。

「シグちゃん、僕のこと好きですかー?」

「好きだよー」

「じゃあ、なにしちゃってもいいんですねー」

「そうだねー…え、は?」

「…へ〜ぇ」

途端、なっちゃんの声がガラリと変わった。人形に触れてる私の手を取ると、目を細めて人差し指を握る。

「どうし……ッッ!?」

指先に何か柔らかいものが触れた。ちゅ、と音が聞こえて、私の頭は真っ白になる。

「チッ。身長差があるのが残念だな。少し大きくなれねぇのかよ」

「なっ……ちゃん?」

「おーきくなぁれ!」

なっちゃんボイスで、そう聞こえた。え?と思ってなっちゃんを見てると、急にPSP的サイズから、ちょっと古いお店とかに飾ってある…フランス人形?あれくらいのサイズに変化した。うそ、これ絶対私の膝より高いって。元が高いのか!?たしかになっちゃんは背が高いけど、ええ!?おっきくなれるの!?それってどうよ、設定的にっ。

「これくらいならいいんじゃねぇの?」

「な、なっちゃ……ん?」

「…俺は砂月だ」

「砂月くん?」

結構大きくなったなっちゃん……じゃなくて、砂月くんは私の手を取ると、上目遣いで妙な色気を垂れ流しながら私の指に舌を這わせる。

ちらりと見えた赤い舌に、ドキリとする。だ、誰なのこの人……。

翔くんに助けを求めようと布団を見たが、寝たふりのハズが本当に寝ちゃったみたいで……。そうだね今ちょうどお昼寝の時間だね!もうやだ!

「っ!」

私は、指先を軽くはまれたところで我に返って砂月くんの手から自分のを引き抜いた。

「なんだ。初心だな」

「だっ、だれでもこーゆーことされたら……!」

「いたずら半分でその唇奪ったら、どんな顔すんだ?」

「やだ、ちょ、近寄らないでええええ!」

ぎゃあ、と叫んだと同時に、砂月くんが元のサイズにぽんと戻る。

「え……?」

「時間切れか。くくっ、おまえ、顔真っ赤」

そう指摘されて、さらに頬が熱くなるのがわかった。再びちゅ、と指先に口づけられて、私の意識はブラックアウト寸前です。ひく、と頬が引きつった。

「原因は眼鏡か!悪霊退散!なっちゃん戻ってきてぇええええ!!こっくりさんこっくりさんお帰りくださぃいいいいい」

「俺は某狐女かよ」

「こっくりちゃん馬鹿にしたら呪われ……呪いますよ!」

「お前が呪うのか」

このあとはどうにかして砂月くんにお帰り願って那月くんを呼び戻すまでに三十分。タイミングが一番悪い例の場所"だけ"を何気に見てたらしいレンくんの誤解を解くのに一時間ほどかかり。私の貴重な休日はこんな感じで消費されたのです。

……結局砂月って何だって話だよ。

(さっちゃん!次出てきたら、めっ!ですからね!)
(はいはい、もう出て行かねぇよ。………しかし、面白いやつだ)
(さっちゃん〜?)
(わぁったって!)

――――――――――――
結局砂月エロいんだよコノヤローって話だよ。

とにかくさっちゃんを出したい私の妄想でした。さっちゃんは那月を通してみてて、とりあえずからかいたくて出てきたようです。一話限りの出演でしたあざましたー。
艶やかな話の書き方を教えてくだしあ真剣に。

12.06.11



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