「あーねぇさん今日までか、ゆっくりできんの」 「そうなるわねぇ。はぁ………明日からまた仕事だわ」 「頑張って、ねぇさん。家のことはドンと任せてくれていいからさー」 「やる気が来て〜」 「うーん………。あ、そだそだねぇさん」 私はポンと手を叩くと、ねぇさんに笑いかけた。今日一日の暇を潰して、尚且つねぇさんに元気になってもらえること。それは―――― 「ねぇさんにクッキー作ったげる!」 と、いうわけで私はねぇさんを部屋に押し込めて(休んでいて欲しいからですよ他意はない)財布を取りに部屋に行った。 「ふんふ〜ん」 「おや、楽しそうですね」 「おおトキヤくんか。聞いてくれたまえ私は今日の暇を潰すための最善の策を思いついたのだ!」 「え、なになに!?」 音也くんが身を乗り出してワクワクと身体を揺らしている。可愛いなぁ、と小さく呟いてから、 「お菓子でも作ろうかと思って」 タルトとかもいいな、と階段を上る間に考えていたので、クッキーではなくお菓子と言った。すると音也くん、すっごい嬉しそうに俺も手伝う!と申し出てくる。 「え、いいの?」 「どうかしたのか」 「あ、真斗くん。それがね、かくかくしかじか…」 「かくかくしかじか?」 「察してよ!」 「ああ、ふむ。そういうことなのか」 いまだに頭にクエスチョンマークを浮かべる真斗くん。さすがにアニメや小説ではあるまい、かくかく以下略で通じるわけがないので、私は音也くんとトキヤくんにした説明をもう一度した。 そうしてると皆ぞろぞろやってきて、口々に手伝うとのこと。あらやだどうしよう嬉しすぎてお姉さん涙出てきそう。料理はできるのか、とか高さは大丈夫なのか、とか主に身長のことについて悩んだが、そこは彼らのことだ、どうせ小さくしたり大きくしたりで臨機応変にどうこうすることだろう。 楽しくなりそうだな、と私は財布を持つと買い物に出かけた。昨日降っていた雪はまだ屋根とか道とかに残っていて、しかもそれが真っ白な雪なもんだからスーパーに行く間、何回か手に取って遊んでいた。おかげで手はキンキンと冷えちゃったね。ちょっと痛い。 「まー!さてとやろうか」 「ま?まってなんだ」 「ただいまの略だよ翔ちゃ……翔くん」 「あーお前今ちゃん付けしようとしたな!」 「未遂だから許せー、王子ー」 「時雨はお転婆だねぇ。そんなところも可愛いけれど」 「レンくんはホストさんだ」 「それは褒めてるのかい?」 「眉をひそめるなって。褒めてる褒めてる」 数日前の遠慮はどこへやら、からかい合いながら準備を進める。那月くんが誰よりも楽しみなようで、しかもお菓子トークができる子だから私との会話もばんばん弾む。 「やっぱりここはアレンジしちゃおうかなー?」 「ああ、いいと思いますよぉ。チョコレートで絵なんて描いてみますか?」 「可愛いクッキー出来るね!じゃあお絵かき担当はなっちゃんだ!」 「うわ〜い!翔ちゃんも一緒にしようねー」 「わっ、ば、ばか抱きつくなぁあああああ!」 賑やかかな。どうせねぇさんは部屋で音楽がんがんかけながら寝るか眠るか休憩中なんだから聞こえるはずはない。それなら騒がないと損々。タルトをまずは作るか、と腕まくり。キュロットが好きなんだけど時間かかるからパス。 「みんな、アップルパイは食えるよね?」 大丈夫〜、と六人の返事を貰い、よしと拳を握る。アップルパイはねぇさんの大好物で、彼女から秘伝のレシピを教えてもらいながら作っていたため、絶対みんな満足するよー。 「はいっ!ぐりぐり混ぜてくださいっ!翔ちゃんなっちゃん」 「わかりましたぁ〜」 「翔ちゃんいうな!」 「トキヤくん音也くんはこっち」 「私もですか」 「まっかせて!」 「当たり前。んで、レンくん真斗くんはこれね。切るように混ぜること!」 「わかった」 「了解」 混ぜる工程を終了させてなんだかんだで生地を寝かせる。均等にうすーく伸ばしてっと………。かたづくり完了! ふぅ、と額を拭うと、皆も疲れたようにぐてっと座り込んでいた。あと少しだよ、と声をかけ、続きを作り始める。 こうやってお菓子つくってる間は難しいこと考えないし、楽しいって気持ちだけで頭ん中いっぱいになるから好きなんだよね。 「次は詰め物じゃー!」 「はぁ〜い」 「なんだ、元気なのはなっちゃんだけか。根性出せおめーら」 「時雨、キャラ変わりすぎ」 翔くんに突っ込まれたが、気にせずに続きをしよう。空焼きが終わったので中に処理を済ませたリンゴを突っ込む!いいねぇ楽しいねぇこの感じ!盛りつけは皆に任せ、その間にシナモンの用意。ただ私が好きなだけで、一度使ってみたら意外と美味しかったのでかけることにしている。 日々の食パンにもかけると美味しいのよ。これ本当。 さーてと、 「あっ、」 「というまに」 「完成です〜」 信号機〜ズが私のセリフを取って、完成したタルトを満足そうに眺めている。トキヤくんはうんざりとした表情をしていて、いろいろ申し訳なくなったけどこれもいい経験だろ、と笑う。 様子を見てると、さらにクッキー作るなんて言い出したら数名からブーイングの嵐必須なので、あとで自分だけで作ることにしよう。完成したタルト(プチサイズで一人一個はあるのです)を持って、 「先に食べててくれよー」 六人に紅茶をついでからねぇさんの部屋に向かった。実はねぇさんのだけ特別、リンゴ増量バージョンなのです。 「ふふっ、失礼しまーす」 ふすまをゆっくり開けると、案の定というか。仕事の資料を眺めている間に寝たのか、分厚い紙に突っ伏してるねぇさんがいた。こんな日まで仕事のこと考えなくていいのに、なんて眉をひそめて、でもそれは自分の好きなことだからやってられるんだろうなと頬を緩める。タルトと、紅茶ポットをこぼれない場所に置いて肩に毛布をかけた。私も昔してもらったことだ。 こんな小さなことでしか恩を返せない私を許してほしいな 「ゆっくり。ねぇさん」 席について頬張ったタルトは最高に美味しかった。 ―――――――――――― 後にしっかりとクッキーを作って手渡ししましたとさ。 アップルパイ……いいですよね美味しいですよね大好きです。 趣味ですハイ。 次回は音也&トキヤのターン! 12.05.18 |