「ああああああ!!緊張するやぁああああああああ!!!!」
「落ち着いて」
「無理ばい!自分こーゆーの無理ばい!おじぃよぉ〜!むり〜!」
「素が出ていますよ」
「だって!だってうわぁあああああああああ!!!!」
無理だって!なんであの人は私に頼むの!?なんで、いやいろいろおかしいよね、気づこうよ!
…あ、どうも……。薄氷時雨と申します。若干取り乱しているため汚い絵づらとなりますがこれでもアイドル目指してる人間です。そうそう。なぜ私がこれほどまでに取り乱してるかといいますと、あれは思い返すことかなり前……。
「Ms.薄氷サーン、アナタにおりいって頼みがありマース!」
「…はぁ………」
突然授業中に全校放送で呼び出された私は、部屋に招かれるとすぐにソファーに座らされた。テーブルを挟んで目の前にドカンと座った学園長は、キランと目を光らせると私をジッと見つめる。しばらくの間、無言が続く……。
「アナタにー、舞台のお仕事なのです」
かと思えば、唐突に爆弾発言をかましてくれやがりました。
「……はぁ?」
「去年卒業したアイドル、一ノ瀬トキヤはご存知ですネ?」
脈絡のない、というか脈絡つかめない言葉にぎこちなく頷く私。そりゃあ、一ノ瀬さんくらい知っています。なんせ、私がアイドルを目指したきっかけは彼なのですから。そして幼馴染のバカヤローでもある。
「そのセンパイが、どうかしたのですか?」
「今度企画で、ホールをかりて芝居をすることになったのですが………」
話の内容によると、学園の生徒もゲストとして呼ぶことになったらしい。役者が全て、早乙女学園卒業者だったためすることができた企画。それで選ばれた人というのが…
「YOU!アナタなのデース!」
「……あの、本気ですか」
「マジでーす」
「……なぜ?」
「Sクラスだからデース」
「他にいい人とか、いなかったんですか?」
「…私の目を疑うとでも?」
「……いいえ。貴方の目は確かだと思います」
「ならば、よいだろう」
一瞬見えた好戦的な光にぞくりと鳥肌がたつ。私は仕方ない、と覚悟を決めて頷いた。丁度、トキヤに会いたいとでも思っていたところだ。日々のメールやたまの電話では愚痴もまともに吐けないからね。
「よし、受けましょう」
「もとより、そのつもりでーす」
「……ですよねー。……話はそれだけですか?」
「以上だ!」
「はいー……。じゃあ、詳しい説明は誰から?」
「林檎サンにまかせてある」
「はーい。……失礼しましたー」
外に出た瞬間に、ため息を一つ。なんてことを引き受けてしまったんだと後悔してしまったのは、数日後にトキヤら向こう側のメンツを顔を合わせてからなのでした…。
「へい!トキヤ、久しぶ…………り?」
「おや、やはり時雨が選ばれましたね。おめでとうございます」
「いや、あの……ありがとう。えと、あのさトキヤ」
「なんでしょう」
「その方たちが、今回の参加者さまで……?」
そこにいたのは、トキヤと同じく……グループデビューした、スターリッシュという方たちが勢ぞろいしていたのです。これ、本当に私が参加してもいいのでしょうか。スターリッシュといえば超人気新人アイドルではないですかー。聞けばこの舞台にはテレビも入るようだし、本当怖いんですけど。
「おや、皆いい人ですよ」
「見ればわかりますが…あのさトキヤ」
「?」
「私、頑張るけど……うん、頑張るね」
「ええ、頑張ってください。じゃあ、挨拶からどうぞ」
そんなこんなで練習づくしの日々はあっという間にすぎ、いつの間にか本番直前まで日付は進んでいたのです。学園長も見に来るし、休日だから私の友人も来るとか言ってた。どうしよう今緊張で胸が張り裂けそうです。舞台袖に立っているのですが、ここからでもバチバチと、なんというのでしょうか、やばそうな気配がぎゅんぎゅんします。
で、最初の場面に戻るわけですよ。わかってくれましたか、私のこの緊張が。
「どうしよぅうわあああああトキヤぁああああああ!」
「ちょっ…少し声を落としなさい」
「だが断る!だってほら、怖いもん!無理、とか言わないけどさすがに緊張するぅううううう!!」
さっきまではスターリッシュの方たちがいてくれたから見栄的なものを張っていられたけど、今はどっかに行ってしまったので見栄張れません。トキヤ相手に見栄はる意味がわかりません。
というわけで、緊張マックスです。一応、舞台なれはしているはずですが、こんなに大きな舞台なんて聞いてないわけで……(なにせ学園長のどっきり☆さぷらいず!だから)私はトキヤを意味なく叩く。
「いたっ!時雨、何するんですか!」
「叩いてんだよ!アイドル?知るか!お前なんか幼馴染じゃ!」
「痛いです!痛いって!」
「じゃあ私の緊張を解きほぐせ!」
無理難題をふっかけた私に、トキヤはため息をつくと私の手をとった。え、と一瞬動きが止まる。私の手のひらに自分の指を押し当てると
「大丈夫」
と書いた。子供だましのような方法をまさか使うとは思わなくて、可愛いなあ、と笑って頭を撫でようとした。ら、トキヤはそれだけでは終わらずに、その手のひらに顔を近づける。
ちゅ、と小さなリップ音が響いた。
「…え?」
「じゃ、頑張ってくださいね」
「……え、え?」
「ほら、もうすぐ本番ですよ。セリフは頭に入ってますね」
「……は?」
「ほら、フリーズしてないではい、最終チェックしなさい」
昔見た、意地の悪い笑みを見せるとどこぞへと行ってしまった。私に台本を手渡したあとに。
「…っ〜〜〜〜〜〜!!!!」
自分の手を胸元でぎゅっと抱きしめると、トキヤの馬鹿ぁああああああ!と心で叫ぶ。
「あれ、どうしたの?顔赤いですよー」
声をかけてきたスタッフさんに、慌てて首を横に振ると、どもりながら返事を返す。
「だだだっ、大丈夫ですぅうう!!き、今日は頑張りましょうね!」
「はい、頑張りましょうねー。さて、そろそろですよー」
「ほんとだ……。では!」
「いってらっしゃーい」
ほのぼのとしたスタッフさんに癒されてから、私は押されるままに舞台へと駆け上がった。(最初に登場する役なので)
とりあえず今は舞台に集中して………。終わったあとでみっちりと文句を言ったあと、行為の意味を問いただしてみようと思います。
――――――――――――
何がしたかったんだ^q^
とりあえず、手のひらにちゅーさせたかっただけ。
お題配布元:依存 様
12.09.09
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