「ねぇ、愛島」

「はい、なんでしょう」

「アンタさ、セキレイって鳥を知ってる?」

ふと思い立って尋ねてみると、異国の人間は目をパチクリと瞬かせた。その様子だと知らないようだ。それはなんでしょう?と問いかける愛島に、なんでしょうねと微笑む。

「どうしても、知りたい?」

「アナタの知ることを全て知りたいと思うのはワガママでしょうか?」

「ふっ、悪くないね」

素直すぎてイジる気も起きない。音也あたりならいじめがいがあるのに。

ちぇっ、と唇を尖らしてから、愛島を手招きした。本当についさっき、猫から人間に変わったところなのでベッドの上でゴロゴロとしてる愛島。可愛いけど、うん、それあたしのベッド。

人数関係上ひとりべやとなってしまった私は、それなりに部屋を広々と仕える。設置してある長椅子つまりソファに座らせるとお茶を出した。

「あ。アリガトウございます」

「気にするな。それで、そうだな。やはり知りたいか?」

「はい、モチロンです」

「じゃ、話してあげる。セキレイっていうのは凄く綺麗な鳥で……。別名がね、恋教え鳥って言うんだよ。なんでかわかる?」

わからないと知ってて問いかける。我ながら意地悪なやつだな。案の定愛島は複雑そうな顔でかぶりを振った。ちょっとだけ嬉しくなって机を挟んで向こうに座る愛島へと身を乗り出す。

「古事記っていう、昔の本っつーか話に由来するんだけど……。昔、人を作った最初の神様っていう、イザナギ、イザナミがいたわけ。その二神は結婚したんだけど子供のつくり方がわからなくて…。そのときね、丁度飛んできた鳥がつがいのセキレイ。その交合の所作を見て二神はめでたく結ばれたわけっていうね。それでセキレイは恋教え鳥っていうの」

「なるほど…。時雨は物知りですね」

「あは。そうでもないよ。私もこれ、この間本で知ったばっかりだから。それを愛島に教えてあげたくて」

ニコリと笑ってみせると、愛島は嬉しそうに頬を染めた。ちょっと待て、なぜ頬を染める。愛島はおもむろに立ち上がってこちらへ向かうと、私の隣に座った。二人用のソファだから狭いわけじゃないけど、こちらへくっついてくるから密着度は高い。

くそう、お前地味に美形なんだから寄るな!恥ずかしいだろ!

そんな心の叫びを口に出す間もなく、愛島は私の手をとり、優雅にキスした。ちゅ、と鳴る音にドクリと心臓が高鳴る。

「では、アナタは私のセキレイですね」

「へ?」

「アナタはワタシにいろいろなことを教えてくれる。この国のこと、学園のこと、友人のこと、そして、恋のことも」

「なっ、ななな…!」

「でも、教えるよりも、一緒に恋してくれたほうが嬉しいですね…」

色っぽい目を向けられ、あたしはどうしていいかわからなくなり、ついと目をそらす。愛島はくすりと笑うとあたしから距離をとった。

「そのうち、振り向いてくださいね」

「男なら振り向かせるくらいの強引さも必要よ」

「では、そうしてみせましょうか」

しまった。ヤブヘビ。と思った瞬間には、愛島はあたしの腰を抱き寄せるとそれなりに長い髪をすくって、ちゅっとキスをする。

「楽しみにしててくださいね」

とりあえず今の流れで決定したことは、今後、夜寝るときは愛島を猫に戻すということでしょうかね。



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ダストに放り投げるつもりが、書いていたらちょっと長くなってしまった…。急遽こっちにほうった作品でござい。偽セシル注意。二セシル注意。

12.08.27



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