私は、全力で走った。とにかく間に合わせないといけない。誰だよどっきりであの子の誕生日を祝おうとか言い出したの。あ、私だ。

という脳内コントを振り払って、日々こき使ってくたびれたスニーカーでひたすら走る。胸に抱えたケーキを崩さないように走るのはなかなか疲れてしまうことで、走り方がおかしくなるのはしょうがないだろう。誰も見てないことを祈ろう。

ちなみに、時刻は深夜。もっというとあと少しで12時といったところだろうか。いつもあの子にスーツにそれ(スニーカー)は合わないよ変だよ、と言われているがあの子のハードスケジュールをこなしていくにはマネージャーたるもの走り回る根性が必要なのです。

「こういうときっ、新米っていいよね!」

パワーがありますから。

たかが歩いて五分のケーキ屋だと思って侮っていた。知り合いが家族ぐるみでやってるケーキ屋だから遅くになってもケーキ売ってもらえたけど、まさか途中であんなことがあろうとは…(割愛)


というわけで、すでに11時50分となってしまった時計を見て青ざめつつ、目的のビルに戻ってきた。間に合う気がしない、と呟いてエレベータを待つ。ようやく降りてきたエレベータに乗り込むとボタンを連打。気持ち悪い浮遊感もなんのその、ようやく降りて一息つく。

で、私は振り返った。目に入るのは5階の文字。一階分間違えた最悪どうしよう。

「ええい、階段登ってやりますよ!」

手にもったケーキと、先ほど回収してきたやつらのプレゼントを握りしめると階段に足をかけた。



というわけで、現在楽屋前でございます。大丈夫、彼は能天気だから気づいていないはず私がサプライズを仕掛けていることを!扉を開ければ大人しく待ってるはずの、可愛い担当の子。ええ、16だろうが17だろうが、20過ぎの私から見ればまだまだお子様よ!

話がそれました。私は扉に手をかけると、時計をチラリと見た。ちょうど十二時一分前。私は勢いよく扉を開けた。

「ハヤトさん!お誕生日おめでとうございますっ!」

いつものマネージャスマイル。出迎えたのはハヤトさんの素敵な笑顔。

「おかえりなさい時雨さん!どこいってたの?」

「ふっふーん、はいどうぞ、ケーキでございますよ。ハヤトさん誕生日でしょー?」

プレゼントはまだ渡さず、ケーキの箱を見せると、目をキラキラさせてハヤトさんは箱に飛びついた。ついでに私も抱きしめられる。

「もうっ、時雨さん大好きだにゃ!まったく、今日一日ちらりともそんなの見せなかったんだもの、忘れられてたのかと思ったにゃぁ…」

「ふふっ、担当して早二年。去年はできなかったけど、今年こそはと思って準備をしてたのよ。さ、あけてごらん?」

「んー、わぁ、モンブラン!美味しそうだにゃぁ……でもカロリーとか、」

「気にせず食え!太ったぶんはしっかりしぼりとってあげるからねぇ〜?」

ふふふ、と笑うとハヤトさんは箱を持ったまま後ずさった。嘘だよ、と笑顔で付け足す。

「ま、お食べ。…………あ、ちょっと待って、その前に……ハヤトさんオンリーの誕生日はこれまで」

「…え?」

「トキヤくん、次は君の誕生日を祝う番だよ」

私は目の前のハヤトさんに向かって笑いかけた。するとハヤトさんはわからないというように、こてんと首を傾げる。それがまたみてて可愛くて、そして苦しくて私は眉を下げた。

「なんで悲しそうな顔をするの?」

「…あのね、ハヤトさん、私とりあえず明日の予定、できるだけ切ってきたの。結局あまり時間とれなかったけど、夜の6時からはフリーよ。…………トキヤくんとして、本来の貴方で明日は過ごしなさい」

「……あなたという人は」

「おかえり、トキヤくん」

私の担当するハヤトさんはちょっと特殊な人だ。本当は一ノ瀬トキヤという一人の男の子で、クールでストイックなのが彼。でもテレビに出るのは、私が担当してるのはキャラを被ったハヤトさん。

ね、複雑でしょ。彼はハヤトとしてテレビに出ることしか選択肢がない。そんなのはもったいない。自分を壊してることと一緒だ。それを知った私は一時期遠巻きにしか相手をできなかった。すごく、彼の事情に触れるのが怖かった。

でも今は違う。皆がトキヤくんを見つけられないなら、私がトキヤくんを見つけてあげればいい。無理しないでいいんだよと言えない、言わない皆にかわって、私が遠まわしに伝えてあげればいい。

「だからね、トキヤくん」

「なんですか」

「はい、プレゼント。ハヤトさんのと、トキヤくんの。二つ分だよ。得したねぇ〜」

あははっ、と笑って紙袋を渡すと、トキヤくんは少し複雑そうな顔をして……それから小さく微笑んだ。

「ありがとう、ございます」

久しぶりに見た"トキヤくん"の笑顔、それだけで今までの疲れなんか吹き飛んでしまうような感じがした私は、かなりトキヤくんを気に入ってるんだろうなーと思った。

「君を生んだ世界に乾杯」

「なんですかそれ」

「巡りあえたことに感謝って言いたいの。はいジュース」

ペットボトルのレモン水を渡すと、自分もマイ水筒を引っ張り出した。今日はちょっと甘くしてみたよ、なんて言うとカロリーが、と思春期の女子かとつっこみたくなるような台詞を言う。

「ああ違った、思春期のアイドルだ」

「…聞かなかったことにしますね」

「冷たいなぁ、トキヤくんは。じゃあ、明日は楽しんでね!」

「…貴方も一緒ですよね…」

「んー?なになに?」

「いっ、いえ!なんでもないです。さぁ、いただきましょうか」

嬉しそうなトキヤくんを見て首をかしげるけど、まぁ楽しそうならいっかぁ。可愛らしいトキヤくんにニマニマしそうになりながらマイ水筒からちょっと甘めのレモン水を飲むのだった。


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一日遅れでごめんなさいぃいいいい!
いや、当日にあげようと思っていたんですけどね、途中で寝落ちしたんですよ!私は悪くない!襲ってくる睡魔が悪いのでs(ry
12.08.07



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