人魚姫・中 「トキヤママン!」 「言いたいことはわかりましたゲーム機はあの男のポケットにあります行きたければ場所を教えるのでその声をよこしなさい」 「はや、説明してないんだけど」 「短縮のためです。前半部分が長すぎです」 「ですよねー」 社会科見学で陸地に向かった人魚姫、時雨は面白い男を助けたのはいいですが、なんとゲーム機をなくしてしまい、トキヤママンという、ゲーム機を売ってくれた魔女のもとにむかったのでした。前回のあらすじ。 と、いうわけで時雨は(無理やり)声と引き換えに、人間になれるという怪しい薬を飲まされて、気がつけば海岸に倒れていて、うろうろしてうっかり森に踏み込んで何かに襲われかけたところをあの時の男に助けられてそいつに連れられて大きなお城までやってきたのです。(いろいろカットしてお送りしました) 彼の名前は四ノ宮那月。なんと、あの時助けた男は、この国の王子だったのです!時雨は、声が出せないので、とある国の姫であることを筆談で伝えました。しかし、どうやら時雨の国とは文字が違うらしいのです。しかたなしに、お姫様教育で鍛えた"お絵かき"で状況を説明しました。 「なるほどぉ!貴方は、どこかの国のお姫様なんですね〜」 「(こくん)」 声が出ない旨を絵で伝えると、かわいそうに。と頭を撫でてもらいました。なんだこの男は。私の知ってる、あの無駄に男気あふれるやつではないな。と頬をふくらませます。 そういえば、この男は前の男がつけていなかった、不思議なものを顔に貼り付けていることに気づきました。なんだ、それは。と指差すと、メガネがどうかしましたか、とのこと。 外して、とジェスチャーしてみたが、だめですよぉ。と言われてしまった。 「外すと、別の僕が出てくるみたいなんです。あ、その時の僕は砂月、っていうらしいですよー」 それかもしれません、時雨がみたのは。しかしメガネとはすごいものですね。取り付けるだけで人格が変わるのですか! 私、どうしよう。と那月に伝えると、ここにいればいいと言われたようです。まったく、喋れないのも面倒ですね。ありがとうの意味をこめて抱きつきました。少し慌てているので、時雨の国での、感謝を伝えるという行為とは違う解釈になるのかもしれない、と考えました。陸地については学んできたようですが、やはりまだまだ知識はたりません。 「えへへ、僕は王子ですから、困ったことがあったら言ってくださいねー。なるべく良い環境を作りますよぉー」 ぐっ、と親指を立てた。イイやつだ。こいつも。 それからしばらくは、その男と一緒に暮らしました。何もすることがないので、慣れない二本の足で歩き回ります。少しは動かせるようになったかな。と微笑みました。 那月の部屋に行って、ぐいぐいと抱きつくのが日課になったようです。那月は髪の毛がふわふわとしていて、触り心地がとてもよいとのことです。髪の毛をもふもふしていると、可愛いですっ!と抱き返されました。 可愛いのはお前のほうだろう…。いつもながらにそう思っていました。 そんな日々が続いた、ある日のことです。那月がテンションハイの状態で時雨の部屋に突入してきました。なんだ、と思って見ていると、ひとりの少女が入ってきます。 その子に指を向けると、聞いてくださいっ!とまた抱きつかれました。彼は抱きつき魔のようです。 「彼女は僕の運命の人なんですー!あの、嵐の日に…僕を助けてくれた。…僕は彼女と婚約するんですっ!」 こんやく?わからんが、めでたいことらしい。ぱちぱち、と両手を叩いたら、さらにぎゅーっとされました。これは喜んでくれたんだな、と思い、ぱちぱち、としばらく叩き続けました。 しかし…婚約(漢字を教わった)の話を聞いてから、どうも心がズキズキと痛むようなのです。息がつらい。どういうことでしょうか。ぼーっと考えてみても全然わからないのです。 三日後、時雨はハッとして立ち上がりました。時雨はここにゲーム機を回収にきたのです! ばかばか、陸地が楽しくてゲーム機のことをちょっとだけ忘れていました。そうと決まればお城捜索の開始であります。 探し物は人に尋ねるのがいい!そう思って絵を描いていると、部屋にあの少女が入ってきました。首をかしげる時雨に、女の子は時雨に指を突きつけ、鼻で笑います。 「貴方、どっかの国の姫らしいじゃない?王子をゲットしようと思っていらしたのだろうけれど、残念だったわね!あの人の心はもう私にしかないわ!」 とても難しい言葉を使うんだなーと思った。 「あは、あははは!あっさりと騙されてくれたわね、あの王子も。ねえ、私がどうやってあんたからあの王子を奪ったか、知りたい?」 別に知りたくもないから首を横に振りました。けれど、強がらなくていいのよ。とまた笑われてしまいます。ムカつく姫ですね。 「わたくし、惨めな女を見るとドキドキするの。ほほほっ、教えてあげるわ」 そう言って、ぐいと時雨に近づきます。 「情報ってすごいわね。密偵はやはり送っておくものよ。これで王子はわたくしのもの…ふふ、ふふふ。ねえ、悔しいかしら?」 こくり。 面倒だから頷いておきました。難しい言葉は大嫌いです。早く帰ればいいのに。そんな話を聞いても心がドキドキするだけですから。心臓に手を当てる。心拍数が上がっていた。苦しいようです。 「せいぜい嫉妬なさることね。わたくしと婚約すれば、邪魔なあなたなんてすぐに追放できるのよ?」 追放は困ります。するならばせめてゲーム機を見つけてから。 そのあと女の子は散々喋り尽くしたあと、高笑いしながら帰っていった。なんとも面倒な女である。 面倒な人は嫌われるよー。 そのあとはゲーム機の絵を見せて、探してるジェスチャーをして聞いて回りましたが、誰も知りませんでした。また明日頑張ろう。 そうやって眠りにつくと、不思議な夢をみました。トキヤママンが、とてつもなく早口で、あなたのみがあぶないー、とか言っているのです。無駄に長いので、要約すると…。 「王子が私以外のものと結婚すると、私は死ぬ」 (………明らかにおかしい!トキヤママンの頭が!セリフが!) さて、少女は一体どうなってしまうのでしょう。後編に続く。 ―――――――――――― どうやって収拾つけようか。 13.06.21 back |