灰かぶり・下


翌日、とあるお触れが国中を駆け巡ります。もちろん、時雨の家にもお触れは届きました。とあるガラスの靴がピッタリあう人が王子様の花嫁であるということ。

一軒一軒回って、全ての舞踏会に来た女性に靴を履かせて回るというのです。時雨は、それを実行する従者さんはなんて大変なのだろう、と思いました。どっちにしても、今はそれどころではないので、ガラスの靴についてツッコミはしませんでした。

「……他に娘はおらぬのですか」

「ええ、いないわ」

「そうね、いないわ」

「この子たち二人しか、うちに娘はいませんわよ」

三人が言い切ったときです。時雨が機械を片手に降りてきました。

「姉さん方ー。飯の準備が整いやがりましたよー」

「おお!その方もおなごでありますな!」

「い、いいえ従者さま。あの子は舞踏会になんてきておりませんわ。その……体調を崩して休んでいましたの」

おほほ。と継母がごまかして、特に時雨もなにも言わなかったので、従者は納得して踵を返しました。

「あ、お送りしますねー」

時雨は機械をカチカチ弄りながら玄関を開ける。そして馬車まで見送った。

「お疲れでしょう。ほんの気持ちですが、おやつにでもしてくださいな」

ポケットから飴玉を出して従者と御者に渡した。その頃は飴玉はまだ高価なものでしたので、一度は断ろうとしましたが、どうせ余り物ですで。ということで押し切られてしまいました。従者が礼を言って馬車に乗り込みます。その時、中に入っていたひとりの少年が、「あっ」と声をあげました。

出発しかけた馬車が急に止まります。手を振っていた時雨は、何事!?と驚きました。中からひとりの少年が出て、走ってきます。そして、時雨の手の中にあった機械ごと、時雨の手を握りました。

「貴方、確か昨日の…!その機械、確かに見覚えがありますっ」

「へ?あっ、もしかしてあの時のボーイさん!?」

丁度、王子様と会う前に機械について説明していたボーイさんだったのです。なんと!と時雨は驚きました。

「この方です!僕は見ていました。たしかにこの機械を持ったお方が、王子と踊っていらっしゃるのを!」

「なに!?それは誠か!!」

従者がガラスの靴を片手に駆け下りてきました。そして、キラキラとした目で時雨と靴を交互に見つめます。時雨は諦めるしかなくなりました。ええそうです。とため息混じりに答える。

丁度いいシーンでレンきゅんをストップさせているので、早く再開させたいのです。

「お時間はとらせません!どうかっ、どうかこの靴を!」

「はい、すっぽりー。というわけで私は、」

「見つけたぞ!まさしくこのお方だ!王子の妻になるのは、このお方だ!」

「え、あの、ちょ、あーれー」

えっさほいさ、と馬車に押し込まれ、向かい合う従者とボーイさんがうむうむと頷いて満足そうにしてるのを見ながら、時雨はお城まで連れて行かれました。

「たしかに、三流貴族の出とか、そんな情報が……」

メモをめくりながら従者は頷きます。

「女中のような行為。灰かぶり…と呼ぶにふさわしいその格好」

なにげに失礼なボーイさんも頷きます。

「「まさに、王子の述べた特徴と一致!」」

「失礼ですね!?」

「しかし、ふぅむ…」

「ええ、ですね」

「「美しい……」」

「…」

空いた口がふさがらない、とはきっとこのことを言うのでしょう。時雨は馬車に揺られながら思った。



「おお!まさにお前だ!昨日の令嬢…!」

「は、はぁ……」

「その受け答え、やる気のない返事、ああ………ようやく見つけた、俺の花嫁」

「え、えーと…マジ?」

「ああ、マジだ!」

謁見の間に連れて行かれた時雨は、王子様にあっという間に部屋へ連行され、そのまま向かい合ってお話しをしているのです。

「…お言葉ですが、王子様。貴方のその…無駄にかしこまらないで堂々とした態度が好ましい、という動機ですが、それならば別に私でなくてもいいと思います。私はただズボラなだけです。述べます、私は貴方にふさわしくないっ!!!」

どうだ!とニヤける時雨に、王子様は頬を染めながら素晴らしいと呟く。

「えっ、ええええー…」

「……お前はそうやって言っているが、俺のことが嫌いなのか…?」

王子様が悲しそうに告げます。

「…ああいや、そんなんじゃなくて……。私はまだ若い。経験もないものが王族に関わるのには抵抗がありますし、なにより、そんな第一印象だけで結婚相手を決めてしまうあなたを悲しく思っているのですよ。ほら、せっかく容姿に恵まれているのです、よく付き合った上で、相手をよく知ってから結婚となっても遅くないかと、私は思いますね」

そうでしょう。と王子様に同意を求めました。すると、たしかに。と王子様は頷きます。別に、時雨は王子のことが嫌いというわけではありませんが、あまりにも突然に結婚を決められてしまうことに、少しだけ腹を立てていたのです。王子はどうして自分を大切にしないのか、と。

「時雨よ。先程から俺はいろいろと理由を述べてきたが……。一目惚れ、という理由はお前の心に響かないのだろうか」

「……っ。…………や、あの…その……。あは?」

「ゆっくりでいい。俺のことを知って…好きになってくれ」

「あー、うー…うー………は、い」

にこっ、と美しく笑った王子様の言葉に、真っ赤になりながら頷く時雨なのでした。


それから数年後…。めでたく一国の王子ととある少女は結ばれたのでした。

――――――――――――
だって即結婚ってちょっとおかしい……。
というわけであんなんなった。
13.04.05


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