灰かぶり・中


そうしてまた数日を過ごしているうちに、すごい話が家に入ってきました。

なんと、お城で舞踏会が開かれるそうなのです。王さまの息子、つまり王子様の花嫁を見つけるための舞踏会でしたので、国じゅうの若い娘たちは全て呼ばれるというものでした。二人の娘と継母は舞踏会に参加できると聞いたときたいそう喜んだそうな。そして娘二人は時雨を呼びつけます。

「今度、舞踏会に行ってくるわ。いいこと?わたしたちの髪をとき、靴を磨きなさい。ドレスも綺麗にしておいてね。わたしたちは王さまの宮殿に行くのだから」

おーほほほ、と娘は笑い、時雨を部屋から追い出しました。

「ふーん、舞踏会ねぇー。…うわぁ、退屈そう」

だって、きついドレスきて、必死に自分を綺麗に見せて、王子に気に入られようと媚を売るんでしょう。と笑う。

それくらいなら愛しのレンきゅんと遊んでおいたほうが心が癒される。時雨はひとり頷くと、言いつけられた仕事をしに向かった。


「お姉さま方ー。言いつけられた仕事終わりましたよー」

「ふん、終わって当然ね。次は…」

そうやって仕事を続けること、数日。とうとう舞踏会当日になりました。三日三晩開催されるということで、三人はルンルン気分でお城へ向かいます。

「けして、来ようなんて思わないことね。まぁ、どうせ来たところで貴方のような汚い娘、相手にされるわけないでしょうけれども」

「おーほほほほ!そうですわね、お母様。さぁ、参りましょう?」

「じゃあ、行ってくるわね。おーほほほほ!」

「おーほほほほ!仕方ないから私はここで貴方たちの帰りをしょうがないからこの心の広く優しい私が待ってて差し上げてよ!さぁ、早くお行きなさい脳みその足りない可哀想なお三方。そして世界の美人を見て自分たちはぶっさいくねぇー、と反省して戻ってくるといいわ」

……とは言わずに、無言で三人を見送りました。そのあとは時雨は喜んで部屋にかけ戻ります。これでゆっくり、レンきゅんをカスタムできる。

幸せいっぱいな時雨は夜が更けるまでゲームをして過ごしました。そして三人が帰ってきた頃には、育成疲れして眠っておりました。そして次の日も、同じように三人は舞踏会へいきました。それを見送った時雨は同じように

「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおい!レンきゅーん!私が今行くわよぉおおおおお!!」

と前日よりテンション高く(なんと言ったって、幻のルート、純粋レンきゅんルートが開放されたのですから!)部屋に滑り込んで、一晩中純粋レンきゅんを楽しみ尽くしました。そして育成疲れをした時雨はまた朝まで眠り尽くすのです。

「おー、今日が最終日でいやがりますね。楽しんできやがれです。ささ、早くレッツゴー」

早く遊びたいものですから、さあとっとと出て行け!と言わんばかりに三人を馬車に押し込めると出発させた。

「ふー、よっしゃ!今日は何モードにしようかなぁ〜」

馬車を見送り、くるりと屋敷を振り返った瞬間、

「おいこらあああああああああああ!!!」

突然叫び声が聞こえました!びっくりした時雨は、声の方を見て、更に驚きました。なんと、ひとりの男の子がコスプレに近い格好で立っているのですから!

「…ぼく、お家まで帰れないの?」

「やめろおお!子供扱いするなっ!俺は魔法使いの翔さまだ!」

「ほうほう、精神も迷子なようだ」

「お前このやろう!これだと話が滅茶苦茶じゃねえか!おら大人しく舞踏会に行ってこいー!」

その翔という魔法使いはそうやってがなりたてると、杖を振るった。すると、なんということでしょう!あっという間に時雨は素敵なドレスにつつまれておりました。靴はなぜかガラスの靴です。

「……ガラスの靴って、割れない?」

「…気にするな。特に体重制限はないからな。ほら、馬車も用意してやっからよぉ!大人しく王子に見初められてこいっ」

「興味ないんですが…」

「豪華な飯をたらふく食えるぞ」

「行ってきますねー」

簡単に意見を翻した時雨は、ドレスをさばきながら馬車に乗り込んだ。もちろんレンきゅんも忘れずにもって。

「ありがとー、しっかりおウチに帰るんだよー」

「馬鹿にしてんのかー!!!!あっ、あと十二時前には戻ってこいよー!」

「はーい!」

魔法使いに手を振った時雨は、馬車の中でレンきゅんと甘いひと時を過ごしました。がたん、と馬車が揺れて止まると、従者が時雨を下ろしてくれます。

「いってらっしゃいませ」

「はーい、いってきまーす」

ばいばーい、と言って時雨は城を見上げる。後ろを見れば門から馬車が出て行くところでした。会場に入ると、それはそれはとても広いところで、優雅な音楽が流れておりました。テーブルには時雨の家でもなかなか見ないようなご馳走が並んでおり、一段と時雨の目を引きます。

下品にならない程度に食事をたんまりととりつつ、会場を見渡しました。

すると、一際人間が集まっている場所があります。おや、と皿を持ちながら近づいてみると、どうやらひとりの人間を取り囲んでいるようでした。覗き込んでみると、そこにはこの国の王子が笑って女性と会話をしているではありませんか。

青の髪が一目を引く王子です。ほー、あれが王子か。と時雨は遠目に眺めて、まぁ飯を食べてから眺めよう。ともぐもぐ食べ始めました。

もぐもぐ。

食べ終わりました。

「さぁて、腹ごしらえもすんだ!帰ろう!」

すっかり目的を違えてやってきた時雨は、背伸びをして出口に向かいました。いつもの癖であの機械を突っ込んでるポケットらしき場所に手をやったときのこと。時雨の顔は一瞬で真っ青になりました。

「……ない!」

なんと、レンきゅんのあの機械がなくなってしまったのです。どこで落としたのだろうか。時雨は扉から手を離して急いで会場に戻りました。そこかしこにいるボーイさんに、落し物の説明をして、見つけたら絶対に起動せず渡して欲しい、と念入りに頼みます。

何人目かのボーイさんにそのことを頼みにいったときでした。トントン、と時雨の肩を誰かが叩きます。

「それは、もしやこのようなものか?」

そして、あの機械が差し出されました。

「あっ!!私のレンきゅん!拾ってくれたんですね、ありがと…う…あれ」

なんと、そこにいたのは王子様だったのです。あれ、人ごみに飲まれてたんじゃ、と言うと王子様は愉快そうにくつくつと笑います。

「それが落ちているのを見つけてな。知らぬ機械だったもので、爆発物だろうか。と言えば令嬢方はあっさりと引いてしまったよ。遠巻きに眺めている。……それは、危険物ではないのだろう?」

「はっ、はい!私の癒しですから爆発物なんてとんでもない」

ありがとうございます〜!と拝み倒す勢いで礼を言って顔を上げると、王子様にじっと見つめられていました。

「な、なんすか?」

「お前は…俺を見てなんとも思わないのか?」

「はい?…あ、かしこまった方がよろしいでしょうか。王子様」

「い、いい。さっきので」

「…わからん人ですねぇー、王子様は」

はっはっは。と笑いながらポケットに機械を素早くねじ込む。スリープモードから起動したらR-15の展開が待っているのだ。ここで間違っても起動してしまえばその場で爆発したくなるでしょう。時雨はとりあえずホッと一息ついた。

「そ、それじゃあ私はこれでお暇しますねー。舞踏会、お楽しみくださいー」

ぱっとあげた手は、下ろす前に王子様に掴まれてしまう。へ?と間抜け面で自分の手と王子様の顔を見比べていると、優しい笑みが王子様の顔に浮かびました。

「ぜひ、俺と踊ってくれないだろうか」

「………。や、あの、私ですね、踊れな、」

「さあ、こっちだ!」

「ちょ、人の話をー!」

あれよあれよとフロアの中心に引きずり込まれてしまった時雨は覚悟を決めて王子様のステップにあわせていきました。さすが王子様です、ダンスなんてほとんどしたことのない時雨も、それなりに見えるようなリードをしてくれました。

「…王子様ー」

「なんだ」

「…なんでこんな引っ付いてるんですか。私今超絶恥ずかしい」

「チークタイムとはそういうものだ。なんだ、俺とは嫌か」

「ソンナコトナイデスヨー。ダッテ王子様ですものー」

「うん、それがいい」

王子様は嬉しそうに呟きました。

また曲調が変わって、別のワルツになりました。少しだけ離れて踊りを続けます。会話も続きました。

「お前、名前はなんというのだ」

「名乗る程のものでは…すみません、灰かぶりです」

「灰かぶり…?」

「ふふ、そう呼ばれてるんです。さって王子様よ」

足を止めると、王子様をとん、と軽く押しました。そして王子様に笑いかけます。

「楽しい夢をありがとう。私は本当はしがない三流貴族の娘です。訳あって女中のような仕事をしてるんで、こんな場所で遊んでるとバレたら怒られちゃいます。…楽しゅうございました。この思い出を胸に、私は夢から現実へ戻らせていただきますね」

ばいちゃ。と王子様から逃げ去る時雨。王子様はぽかんとしていましたが、ハッとしたように時雨を追いかけます。しかし、時雨の足は思ったより早く、なかなかその腕に捕まえることができません。

時雨は階段を夢中でかけおりました。全ては、早く家に帰ってレンきゅんとイチャイチャするためです。最後の言葉も、レンきゅんのバッドエンドのとき主人公が言ったセリフそのまんまでした。そういう言葉を言ってみたいお年頃だったのです。

妄想を始めたらキリがない時雨は、今度はヤンデレレンきゅんと…!と思いながら階段を降りていましたので、ガラスの口が片方脱げたことに気づきもしませんでした。流石に違和感くらいは感じましたが、きっと靴ズレできたのねああレンきゅん格好いいわ。程度にしか思っていませんでした。

十二時になった時、時雨のドレスは闇にとけ、元の灰色の洋服へ戻っておりました。どうにかして家までたどり着くと、しっかりと握りしめていたレンきゅんを起動させて、レンきゅん素敵!と言いながら機械で遊びました。

――――――――――――
こんなかんじでどうかな。
翔ちゃん可愛い。
13.04.04


back

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -