灰かぶり・上


金持ちの妻が病気になり、最期が近づいていると感じたので、たった一人の娘をベッドのそばに呼んで、

「愛するわが子よ、良い子で神様を信じているんですよ。そうすれば神様がいつもお前を守ってくれます。私は天国からお前を見下ろしてお前の近くにいますからね」

と言いました。

「…………トキヤママン!!!!いやよ!ママン!死なないでぇえええ!!」

「さようなら、愛しい子よ」

それで目を閉じ、亡くなりました。毎日娘は母親の墓に出かけては泣きましたが、信心深く善良なままでした。冬が来て雪が墓の上に白い覆いを広げ、春の太陽がまたその雪を溶かす頃には、男は別の妻をもらいました。

その妻は、二人の娘を一緒に連れてきます。娘たちは顔は美しく綺麗でしたが、心は真っ黒く汚れていました。それから可哀想な少女の辛い時期が始まるのです。

「ほーほほほほ!そんな汚いナリで私たちと一緒に食事を取ろうとでも!?」

「うん」

「ダメに決まってるじゃないの。パンを食べたいならば稼がないといけないわね。台所女中は外よ」

「えー、寒いんすけど」

二人の娘はいいました。二人は娘から綺麗な服をとりあげ、古い灰色の上っ張りをきせ、木の靴をはかせました。

「おーほほほほ!お似合いよっ。素敵な灰色のドレスじゃなぁい?」

「なんて心の醜い女どもでしょう。でもわたくしは心が海より深く慈悲深いんで、特別にこういう扱いでも許してあげてよ」

「っ!頭が高いわ!貴方なんて床にひれ伏していればいいのっ」

「ムカつく女ねっ。貴方にはここの灰がお似合いだわっ。掃除もしておいてねっ」

少女、時雨だって人間です。むかっ腹を立てた時雨は、それでもその様子を表に出さないように俯いて(怒りを抑えるため)震えていました。そして、時雨は日の出の前に起き、水を汲み、火をおこし、料理洗濯をしなければならなくなったのです。

…しかし時雨はとくにその境遇に問題はありませんでした。料理は得意ですし、水を汲みにいくときは、道のりが長いためその時間だけ愛しのレンきゅんと一緒にいられるのです。不思議な機械をこっそり持ち歩き、ニマニマしながら水を汲んで家に戻っていました。

火をおこすときも、カスタムした爽やかレンきゅんのおかげで、煙たさすら吹っ飛んでしまいそうな気分です。洗濯物をするときは、カスタムレンきゅん(クーデレver)をオートモードにしてレンきゅんの声を聞きながら洗濯をします。全然辛くないですね。

掃除ならばポケットに機械を忍ばせ、耳元にコードをセットすればそこからしか音が聞こえなくなるという、これまた不思議な機械を使ってドップリとカスタムレンきゅん(ヤンデレver)に鳥肌を立てながら頑張ります。

窓を拭くために背伸びした瞬間、聞こえてきた吐息に力が抜けそうでした。

これらのことに加えて、二人の娘は考えつく限りの意地悪(本人にダメージはない)をし続けました。娘を嘲り、灰の中にエンドウ豆やレンズ豆をまいて、もう一度拾いなさいと命令を下すのです。継母もそれを咎めることなく、ただただ見ているだけでした。父はそのようなことは知りません。時雨が隠している、というか、ぶっちゃけムカつくけど父様の心を煩わせるほどではないと思ってるのでしょうね、言っていないので鈍い父様は気づきません。

「あー姉さま方」

「なにかしら、不細工ちゃん」

「なにかしら、灰まみれちゃん」

「…豆を拾ったのはいいけど洗う暇がなかったんで、具なしスープですがよろしゅーございまして?」

「「なっ!?」」

冗談じゃない、と娘たちは口々に時雨を罵りましたが、時雨は無言で前かけのポケットから灰まみれの豆を取り出しました。

「じゃあこれぶっこみます?」

「ふ、ふん!特別に今日は許してあげるわ!明日はしっかりとした食べ物を作るのよ!」

「プロに頼めばいいのに…」

「よろしくて!?」

「へいへーい」

豆を前掛けポケットに突っ込むと、台所に向かった。

「…そろそろ井戸を近場に作りたいわね。いくらレンきゅんと一緒に居られるといっても、毎日あんだけの距離は充電の問題できついわ」

ふぅ、とため息をついて皿洗いを終えると部屋(使用人の使うような汚い部屋でした)に戻りました。こんな日々がしばらく続いたある日、父が市場へいくときいて見送りにきた娘と妻に、何が欲しいかを尋ねました。

「美しいドレスが欲しいわ」

「真珠と宝石をお願い」

「あたくしはアナタの目にとまったものがいいわ。似合うものをお願いね」

三人が言ったあとに、父の視線は時雨へ移ります。

「何がいいかい?お前は」

父は言いました。

「お花の苗がほしい」

「そんなんでいいのかい?」

「そのかわり、とびきり綺麗なものをお願いね」

父は頷いて市場へと向かいました。そして戻ってきた父から花の苗を受け取ると、時雨は、何々をしなさいとうるさい娘二人を放置してある場所へと向かいます。

そこは、トキヤママンのお墓でした。

「やほーママン。ほら!綺麗な花の苗をもらったから植えに来たよ。そこで眠るのは退屈でしょう?この花々と会話をして退屈を紛らわすといいわ」

ところどころメルヘンな時雨はそう言って花の苗をお墓に植えました。そして水をまいて、トキヤママンのお参りをしてから立ち去りました。


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うちのトキヤはこういう役です^p^
トキヤママン(笑)
13.04.02


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