赤ずきん


赤ずきん→時雨
おばあちゃん→翔ちゃん
おおかみ→那月
ママン→トキヤ
狩人→音也

それでは、赤ずきんの世界へGO!

***

「ふんふ〜ん、とぅるりっとぅら〜」

昔々あるところに、ひとりの少女がおりました。その少女は明るく元気で、いろいろな人から好かれておったとさ。少女の名前は時雨。しかし、いつもいつも、少女の大好きなおばあちゃんが作ってくれた赤いずきんを被っているので、いつしか赤ずきんちゃんと呼ばれるようになったのです。

「これ、時雨。……時雨」

「なんすか、トキヤママン」

「ちょっと森のむこうのおばあちゃんとこまで、お使いに行ってくれないかい?」

竹で編んだ籠の中には、美味しそうなアップルパイ、そして上等そうなワインが入っておりました。おや、と赤ずきんは首をかしげます。

「どうしたの、ママン。ママンが行けばいいじゃない。私は忙しいのゲームに。今、トキメキ☆カスタムレンちゃん!をやってて、このレンっていう男の子を好きなようにカスタムできるのよ。もう!レンのツンデレは神だと思う。なんだろうこの低音ボイスで『べ、別に…君の役にたちたいとか、そういうのじゃないから』とか言わせたい!というか、あと少しでデレレンを見れるのよ!」

「しょっぱなから飛ばさないでください。あと世界観を大事にしてくださいね。…ともかく、あなたが行かなければ話が始まらないでしょう」

「……えー。じゃあ私の代わりに…こっちのデータのレンをクーデレレンちゃんに育てといて。やり方はそこの攻略ノート手書きver.を見てよろしく」

ででん、と羊皮紙をまとめたものをママンに渡した赤ずきんは、呆れを通り越して切なそうな顔で画面を見つめるママンから籠をもぎ取ると、玄関に向かった。

「あ、ああそうです時雨。森には狼がいますから、気をつけてくださいね。道草はいけませんよ」

「うーい。あ、間違ってもヤンデレルートにはいかないでね。すでに三十回は体験してるからもうおなかいっぱい」

「おなか……?やん、でれ?」

「いってきま〜す!あーだりぃ!」

ぴょん、と玄関を飛び出して赤ずきんは大好きなおばあちゃんのところに向かいました。あれほど外出を嫌がっていた赤ずきんは、結局外に出れば勝手にテンションが上がってしまうのでした。それに、大好きなおばあちゃんのところへ行くのです。よく考えれば引きこもりの生活を送るよりも楽しそうではありませんか。

赤ずきんは、ルンルン気分で村を抜け、森に入ります。森を抜けて少し歩いた場所におばあちゃんの家は建っているので、あとちょっとです。

「おおっ、なんと愛らしい小鳥でしょうか。ちょ、ちょ、ちょ。おいでー」

『ちちっ?』

「かわゆぃいいいい!ごめんね、今日はパンくずを忘れてきてしまったよ。また今度あったときにパンくずをあげよう」

『ちちちっ!』

小鳥を手に乗っけて、のんびりと森を歩く赤ずきん。うっそうとした森、というわけではありませんので、日が暮れない限りは安全な森です。木々の間から漏れる昼の陽気がとても気持ちよさそうでした。

「うーん、今日はどんな風におばあちゃん家に入ろうかなー」

いつも奇想天外な方法でおばあちゃんを驚かせることを生きがいにしてる赤ずきんは、むぅ、と唸りながら道をいきます。

「もし、そこのお嬢さん」

むぅ……。

「もし、お嬢さん」

むー…。

「そこの可愛いお嬢さん」

あっ!…いやいや、むぅ…………。

「…あのぅ………」

あまりにも真剣に考えて歩くもので、赤ずきんを呼ぶ声があることになかなか気づきません。

「おじょーさんっ!ばっ!」

「きゃあああああ!!」

あまりにも気づいてくれないもので、その声は強行手段に出ました。赤ずきんの前に躍り出て両手を開いて立ちはだかったのです。その時の赤ずきんの驚きようといえば!とてもとてもすごいものでした。

例えるならば、クーデレレンちゃんルートに進んでいたはずなのに、なぜか指がヤンデレルートの選択肢を押していて、気がつけば最萌のヤンデレとなっていたときくらいの驚きようです。

「びっ、びっくりした…。貴方はだぁれ?」

あんなに叫んだ赤ずきんでしたが、冷静さを取り戻すと、持ち前のフレンドリーさで目の前の声の主…背の高い男に話しかけました。

「ふふっ、僕はオオカミさんですよ〜」

「オオカミさんなの?いけない、私はママンに、オオカミさんには気をつけなさいって言われてるの」

「大丈夫ですよ〜。僕はいいオオカミさんですからね」

「本当に?ならよかったわ。それにしても、どうしたの?オオカミさん。私に何か用事かしら」

こてん、と首をかしげるとオオカミはふふふっ、と笑います。綺麗な容姿をしているので、怪しい笑みですら美しく見えてしまいました。

それでもレンちゃん一筋な赤ずきんはその笑顔になびくことなく、うんうん。と続きを待ちました。

「それより、お嬢さんはどこへいくの?」

「私?私はおばあちゃんのところに行くのよ。これを持ってね」

籠を持ち上げて軽くゆする。ほうほう、とオオカミは頷きます。

「そのかごの中に、花を添えてみませんか?僕、綺麗な花のたくさん咲いてる場所を知っていますよ?」

「本当?それはいいアイデアね。悪くないわ」

「ふふ、じゃあついてきてください」

「はーい」

歩き出すオオカミの三歩後ろを赤ずきんは追いかけます。しばらく歩いてついたところには、たくさんの綺麗な花が咲いていました。

「わあ、綺麗!つんでもいいのかしら」

「大丈夫ですよぉ〜。…ああっ、僕はちょっと用事を思い出してしまいました。さっきの道へは、ここをまっすぐ行けば戻れますよ。僕はこれで失礼しますね」

「はーい。優しいオオカミさん、ありがとう!」

赤ずきんは、舌なめずりしたオオカミに気づきもせず、花をつんでいきました。一応赤ずきんだって女の子です。可愛いものは大好きなのでした。

「ふぅ、こんなものかしら」

可愛らしく籠を飾り付けた赤ずきんは、立ち上がっておばあちゃんの家へと急ぎました。そろそろお昼になりそうだったので、ママンが作ってくれた特製☆おにぎり(カロリー控えめ)を食べながら道をてくてく歩きます。手についた米粒をしっかりと食べ終わった時に、ちょうどおばあちゃんの家に到着しました。

ふっふっふ、と口元をつりあげた赤ずきんは、裏口へ走ります。今日は荷物もあるので、控えめに登場するつもりです。裏口をはいり、おばあちゃんがいつも寝ているベッドルームへ向かいます。

扉の前にたち、すぅ、と息を吸い込みました。何をするんでしょうね。

「おっばあああちゃああああああああああああああああん!可愛らしい孫が遊びにきましたよぉおおおおおおおおおお!!!」

どりゃあ!と扉を蹴り開けるとにぱっと笑った。普通なら、これでおばあちゃんは跳ね起きて赤ずきんを迎えるのですが、今日はどうやら様子がおかしいようです。全然起き上がってきません。

「……おばあちゃん?」

寝てるのかと思い、扉を閉めて中に入るとベッドに駆け寄った。おばあちゃんは布団を顔まで引き上げてベッドに寝ています。

「おばあちゃん、どうしたの?具合、悪いの?」

心優しい(決して今つけたした設定じゃないです。ええ本当に)赤ずきんは、優しく声をかけた。

「顔まで布団かけてると、窒息しちゃうよ?おばあちゃん、ただでさえ呼吸器やばいんだから、ぽっくりいかないでね?こんな場所にくる人なんてあんまりいないんだから、死後数ヵ月後とか、白骨化したころにおばあちゃん発見とか、私嫌だよ?」

……心優しい赤ずきんは、そういっておばあちゃんの頭に手を置きました。そこで赤ずきんは違和感に気づきます。

「おばあちゃん?髪質かわった?一度坊主にしたの?」

「ごほっ、ごほっ。…ああ、そうかもなぁ」

「おばあちゃん、声変わった?変声期?」

「ごほっ、違うよ。風邪をひいてるからそう聞こえるだけだよ」

「ふぅん」

とくに気にせず赤ずきんは布団をにぎりしめてる手を握る。

「おばあちゃん、手ぇ大きくなった?成長期?」

「気のせいだよ」

「……えいっ!」

どうも怪しく感じた赤ずきんは、片手を握ったまま、布団を引っペがしました!それと同時に、赤ずきんは目を丸くしました。なんと!そこにいたのは赤ずきんの大好きなおばあちゃんではなく、森で出会った優しいオオカミさんだったのです。

「…へ?」

「ふふっ、捕まえましたぁ〜」

ぐい、と手を引かれ、気を抜いていた赤ずきんはベッドにダイブしました。それをしっかりと抱き止め、オオカミはぎゅうぎゅうに抱きしめます。

「ぐっ、ぐるじ…」

「これで翔ちゃんも貴方も、僕のものですね〜」

「ふ、ふえぇ!?」

首筋に触れた手は、そのまま後頭部をしっかりと固定します。足を絡められて抵抗を封じられた赤ずきんは、突然の出来事にただポカンとするばかりです。

「それじゃあ、いただきます」

ゆっくりとオオカミが近づいてきます。赤ずきんは逃げたくても逃げることができません。怪力ってこわいな。とぼんやり思いました。唇に吐息がかかった、そんなとき突如!扉が吹っ飛びました。

「やめろおおおおおおおおおおお!孫に何をするううううううううう!」

「ちゅー」

「んぐふっ!?」

スルーされたおばあちゃん(注:着ぐるみ付き)は、目の前で行われている光景に口をパクパクさせます。顔が一瞬にして真っ赤に染まりました。

それは赤ずきんにも言えることで、唇が離れた瞬間、あまりの衝撃に気絶してしまいました。

「あれれ?刺激が強すぎたのかな」

「ばかっ!お前何してんだ!!!」

「あははー、おばあちゃんそれ似合ってますよー。うさちゃんです〜」

「なにこれ脱げねぇんだけど!ファスナーどこだよ!?」

「企業秘密ですっ。さぁて、この子はどんな着ぐるみにしようかなぁ」

怒ってポカポカとオオカミを叩くおばあちゃんですが、いかんせんおばあちゃんの力です。オオカミさんは痛くもかゆくもありません。ただちょっと疼くくらいです。アウトだって?うんじゃあ自重します。

オオカミさんは、ぽわぽわとあたりに花をまき散らしながら片手に気絶して白目になってる赤ずきん。片手にジタバタ暴れても身長差ゆえ解放されないおばあちゃんを抱えてゆうゆうと家を出ていきました。


「一ノ瀬くーん!ねえねえ、この子もらっていいですかぁ?」

「ダメに決まっています。私が手塩にかけて育てた大事な子供ですよ」

「じゃあ時々遊びに来ていいですよね?」

「……代わりにこのゲームをこの通りに進めてくれたらいいでしょう」

「なんですか、これ」

「……………。聞かない方がよろしいかと」


その頃の狩人さんは。

「あれれー?ここ、どこだろう。どこまでいっても同じ道しかないよー!帰り道がわからないよー!」

なにげに広い森の中で迷っておりましたとさ。



めでたし、めでたし。

((めでたくねぇー!!!!))
(うわーん!ここどこー!)


――――――――――――
というわけで第一弾でした^q^
しょっぱなから飛ばしすぎた感ありますが、すっげー楽しかったです。那月をほわほわルートにするか、狼ルートにするかは悩んだ。が、こうなった。
実はママンの助言→「(私の知り合いのメルヘン頭な)オオカミに気をつけなさい」みたいな。
13.04.01


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