小説 | ナノ





トキヤ:野菜


幼馴染であるトキヤと食事を共にする事は多い。だからと言って何だと思われるが決して迷惑とかではなくて、むしろ彼と過ごす時間は安心できる。のだが、その――彼が食べる食事はいつも野菜ばかりで。もしかして前世は草食動物だったのではないだろうか。なんて考えてしまう程、彼は野菜が大好きだったりする。野菜と一纏めしてしまっているが、もしかすると一つぐらい苦手があるかもしれないと考えた私は過去にいろんな野菜を薦めてみたりしたが、何でもペロリと食べられてしまうという現実に私は一驚した。それからは何も言わずそっと見守るだけなのだが――。
(今日も野菜だ)
飽きないのだろうかと毎回思うのだが無言でむしゃむしゃと食べる姿は、いつしか可愛く見えてしまうという不思議な幻覚に陥っていた。始めは自分の目を疑ったがそれは日を追うごとに慣れてしまっていて。これだけでも重症だというのに気づけば彼に似合う動物ってなんだろうか、なんて考えていた。これでもない。あれでもないと考えているとふと一匹の可愛い動物を思い浮かんだ。そう、兎だ。猫でも犬でもないふわふわもこもこしている野菜大好きな兎さん。これだ! と思った瞬間、脳内でうさ耳と尻尾をつけた彼の姿を思い浮かび、似合いすぎて吹き出してしまえば、彼が不機嫌そうな表情を浮かべた。(あ、トキヤと食事中だった)
「名前」
「なーに?」
「突然吹き出して、何を考えていたのですか?」
「教えない」
ここで素直に教えると長時間の説教が待っているのが目に見えている。自分から火の中に飛び込むような事はしたくないのだ。(ごめんね)彼に届くこともない謝罪の言葉を心の中で言うが視界に入る彼の姿は可愛らしい姿で、一人楽しそうに笑っていると軽くおでこをつつかれた。
「トキヤ、痛い」
「人の顔見てずっと笑っているからですよ」
「だって、今日も美味しそうに野菜食べてるから」
「……それが?」
「似合っているなぁって思って」
トキヤらしいねなんて言えば、ぴたり、そう音を立てそうなくらい彼が一瞬で固まった。(あれ?)
「トキヤさーん?」
突然どうしたのだろう? 固まる事なんて言っていないはずなのに……。内心そう思いつつも不安で彼の目の前で手を振れば、数秒後、意識が戻ってきた彼は少し頬を染め視線を逸した。
「トキヤ?」
「あ、いえ」
なんでもありませんと彼は言うが、彼の動きはガチガチに固まったロボットみたいで。(変なトキヤ)その日は彼と視線が交わることがないまま1日が終わった。


次の日。今日も彼と一緒に食事を共にしているのだが、いつもとちょっぴり違う彼がいた。何が違うのかというと彼が野菜が少なめな定食を選んだってこと。
「トキヤ」
「何ですか?」
「珍しい。野菜少なめの定食選ぶなんて」
軽く箸で彼の定食をさせば、彼は行儀が悪いですよと言いつつも私が選んだ野菜たっぷりの定食を見てそっと目を逸した。
「私もたまには違うのを食べたくなるんです」
「ふーん」
野菜へ物欲しそうな目を向けるのに? と心の中で呟きながら疑いの目で彼をじっと見ながら、私はがりっと新鮮な胡瓜を口に含んだ。むしゃむしゃむしゃむしゃ。あ、今日は私が兎さんみたいだ。なんて思いつつ、彼を観察していると、あっという間に皿から野菜が消え去ったものの物足りないのか私の皿をじっと見つめている。
「トキヤ」
「……何ですか?」
今日は質問が多いですね。なんて言うが彼の視線は私の目ではなくお皿で一直線で。(そんなに食べたいのならこっちにすればよかったのに)まったくなんでこんなに可愛く見えてしまうのか不思議でしょうがない彼に笑いが零れた。
「笑わないでください」
「いや、トキヤはトキヤだなって思って」
ね! と同意を求めれば彼は悪かったですねと少し頬を赤く染め私の野菜を奪っていった。


Vegetarian





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