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セシル:牛乳


『今日、買い物に行きますか?』

そんなメールが届いた。差出人は愛島セシル、私の恋人だ。ついでに先日シングルを出したばかりのアイドルである。
アグナパレスという国から来た王子で、すごく人気が有るらしい。一応パートナーなんだがその辺にはあまり興味がない、私はセシルと一緒にいられればそれだけでいいから。

『一応今買い物中だけど…何か欲しいものあるの?』
『今買い物中ですか?では、牛乳をお願いします』
『いつもの牛乳か…了解。多めに買っておく?』
『はい、お願いします』

了解、と返信して、携帯を仕舞う。牛乳…先に買っておこうかな。
牛乳が売ってるコーナーへ向かって、いつも買ってる銘柄を手に取る。多め、って言ってたけどあんまり多いと飲みきれないし、2本くらいでいいかな、そのくらいだったら大丈夫かな、と判断して、手に持っていた籠に突っ込む。
そのあと野菜とか肉とかを買って、レジへ進んで、お会計を済ませる。うん、若干買いすぎたかな。…まぁ、いっか。食べすぎないように注意しなきゃ。太りたくはないし。









「っと、ただいまー」

部屋の錠を解除して、扉を開く。
ここは私の部屋だけど、男物の靴がひとつある。どうやらセシルが仕事終わりに寄ってるみたいだ、今日は比較的早く終わったんだな。

「おかえりなさい、名前」
「ん、ただいま。今日もお疲れ様」
「はい、今日はとても疲れました…」

そのまま、しなだれるようにぎゅ、って抱き着いてくる。おま、私買い物帰りで荷物あるんだけど。ちょ、重い重い。
とりあえずこうなったら暫くは離れてくれないことはわかっているので、軽く抱きしめ返してから、「ほら、離して、買ってきたもの冷蔵庫に入れてくるから」と促す。そうすれば、渋々ながらも離れてくれた。

「…ほら、牛乳買ってきたから」
「牛乳!ありがとうございます、My princess」

牛乳を手渡そうとした手をつかんで、軽くキスをしてくる。…うん、慣れた自分が若干…なんというか悲しいというか。前だったら全力で飛び退いて何をしてるの、って怒鳴るところだっただろうなあ。

「とりあえず2本買っておいたけど、足りる?まあ足りなくても今日はもう買い物行かないし、なくなったら次の買い物までお預けだけど」
「わ、わかりました…少しずつ、少しずつ飲むようにします」
「ん、そっか。…ん、あぁ、そこにあるグラス使っていいよ」
「ありがとうございます」

キッチンにあるグラスを手に取って、意気揚々と牛乳を注ぐ。牛乳のパックも前よりはスムーズに開けられるようになったみたいだけど。少しずつ成長してるんだなあ、セシルも。いやまあそんなに年も変わらない、はずだしそこまで上から目線はできないんだけど。そんなことを考えながらお肉とかを冷蔵庫に入れていた。

「んっ…美味しいです」

セシルが牛乳を飲みきって、笑顔で言う。…っていうかもう飲みきったの?え、さっき注いだばっかりじゃない?とか思ってたらまた注いでるし!ちょ、さっき少しずつ飲むって言ったばかりじゃないの?

「…セシル、少しずつじゃなくていいの?」
「あっ……!」

今気付いたらしい。
うん、さっきの発言をまるっきり忘れていたらしいね。ある意味セシルらしいっていえばセシルらしいけど。

「…本当、セシルは牛乳好きだねえ」
「ハイ、牛乳、好きです。美味しいし、栄養価も高い」
「いや、栄養価はあんま気にしなくてもいいんじゃないかな…あぁ、でもとりあえず、今日はこのくらいにしとこうか」

そう告げて、グラスに適当に牛乳を注ぐ。そして、そのまま冷蔵庫に入れる。「あっ…!」とか声が聞こえたけど気にしません。うん、若干気になるけどね、気にしてたら私何も出来なくなるからね。
そのままリビングへ向かってソファに座れば、セシルも隣に座ってくる。…あ。

「…ねえ、牛乳ひとくち頂戴?」
「え、何故ですか?」
「いやー、ねぇ…そんなに美味しいのかなーって。それに最近牛乳飲んでないからさ、ちょっと飲んでみたいなって」
「それなら…」

どうぞ、と手渡されたグラスに口を付ける。ん、美味い。

「ありがと、セシル」
「はい、どういたしまして。美味しいですか?」
「うん、美味しかった」

グラスを返せば、軽く微笑んで、そして、また牛乳を飲み干す。あ、とかまた言ってるけど、いやもう遅いって。飲み干しちゃってるじゃん。後の祭りだよ。
あー、私も牛乳もうちょっと飲もうかなあ。




白の飲み物と緑のアイツ
(たまにはいいかな、こういうのも)







▼企画参加させていただきありがとうございました。







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